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高校弓道部に入ってみたら声を出してた
平成という年号が世間に定着してしばらく経った頃、私は高校の弓道場にいた。何の部活に入ろうかと思った時に何となく目が止まったのだ。
弓道のことを何か知っていたわけではなく、弓に憧れを持っていたわけでもなかった。でも、かっこいいな、とは思った。何か劇的な出会いがあったわけでもなく、強烈な憧れがあったわけでもなく、ただただ出会ってしまっただけ、そんな形で始めてみた。何かしたいことがあるわけでもなかった当時の私には十分な理由だった。
生きていると何かしら選択を迫られることがあるけど、たぶんこの選択は私の人生の中でのベストオブベストと言っても良いくらいの決断だと思う。よくよく考えたらすごいことだ。
弓道場を訪れた初日、正座をして先輩が弓を引くところを見ていると同じように新入生が見学に来る。中には知った顔もあった。同じ中学出身だ。一人で見学に来た身としては心強い気がした。
弓を引く先輩はとてもカッコよく見えた。その場で入部することを決めたのだった。どうやって弓を引くんだろうか、どんな練習をするんだろうか、
楽しみだな。
そんな思いはすぐに打ち砕かれました。
入部してすぐに弓が引けるのかなという考えは甘かった。新入部員はまずは声出しの練習をさせられる。声出しというのは学生弓道にある独特な慣習で自分の学校の矢が中ると応援している人間は
「シャ!」
と声を出す。社会人の弓道になく、学生の弓道独特の慣習だ。まぁ、なんというか、声援? 声援なのかは謎だ。
よく聞くのは「よしっ!」というかけ声だが、私の学校は「しゃ!」だった。これが「よっしゃー」の略なのか「射」と言っているのか未だに謎だ。
新入部員は声出しの練習をすることから始まる。とにかくお腹から声を出すように指導される。ただ「シャ」と言うだけではだめで、とにかく大きくお腹から発声する。もはやシャなのか、セァなのかサーなのかわからない感じになっていた気もするけど、それで褒められるんだから間違ってはいないようだった。
この声出しを試合などでやるわけだ。当然知らない人だらけのとこだ。はっきり言って最初はめちゃくちゃ恥ずかしい。
当たり前だ。いきなりどこからともなくシャだかセィアだかわからない声が聞こえてくるのだ。完全にイロモノだ。ただ、注目されるのは最初の一瞬だけで、あとは何事もなかったように淡々と試合が進行する。いわゆる出落ちみたいなものだ。
さて、声出しの練習は校内の少し高台のような所に新入部員が並んで行う。順番に奇声を発してるのだ。知らない人からすると何をやってるんだと不思議に思っただろう。
そりゃそうだ。やってる本人も自分は何をやってるんだろうと思いながらやってるんだ。入部したの弓道部だよな?と本気で思った。本当に弓を引かせてもらえるようになるのかなと不安になった。
ちなみに、このかけ声は社会人の大会では絶対にやらない。声が相手の邪魔になる行為で良しとされない。誉められたものではないかもしれないけど、社会人弓道しかしらない人は是非一度は味わってほしいとも思う。それほど異様な、いや、独特な空気感なのである。なんというか、これは試合なんだなと実感できる世界観がそこに作り上げられるのだ。
なんてちょっと良いように書いたが、当時は嫌でたまらなかった。