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元少年ゲーマーの保育日記#7〜年長クラス編

ゲーマーだった少年が、成長とともに
葛藤を経験し、保育士として働き始めた、
自伝的エッセイ風物語。
今回は年長クラス編の第7話です。
新米保育士編(全10話)はこちらから↓


【あらすじ】
世の中には いろんな種類の保育園がある

保育士を志したはいいが 入ってみなければ
どんな保育園なのかわからない

元少年ゲーマーだったフォルテが
就職した保育園もそうだった

はびこる同調圧力
事あるごとにピリつく雰囲気
意見を言わせない職員会議
長いものには巻かれる体質

この原因を作っていたのが
圧力の強い保育士たち

彼女たちは子どもにも、同僚にも
容赦なくカミナリ⚡を落とし委縮させる

そうする事で相手をコントロールし
自分たちの思い通りにできるからだ

そうやって自分たちにとって
居心地の良い場所を 作り続けてきた

彼女たちはいつしか
カミナリ⚡一族と呼ばれるようになった


   カミナリ⚡の恐怖 其の一
       【足音】

その日はいつもと変わらない給食の時間だった。

子どもたちは、同じテーブルの友だちと
会話をしながら、食事を楽しんでいる。

話しに夢中になると、声はだんだん大きくなり
食べることすら忘れてしまう。

よくある事だ。

すると遠くから階段を上る足音が聞こえてくる。



   『バタン バタン バタン バタン』

 

廊下の果てから 響き渡るその音が
子どもたちに教える

カミナリ⚡がやってくることを…



       『き、きたっ!🥶』



一瞬で静まり返る あらゆる音が無音化し
鳴り響くのは その足音のみ。



     『バタン  バタン』



大きくなった足音が 不意に止まる
これは、階段を上りきった合図だ。


オレはすかさずみんなに指示をだす



      「箸だ!箸を持てぇ!」



指示とともに子どもたちは箸を手にすると

  しずかに きゅうしょくを たべてます

アピールを始める。


   『バタン バタン バタン……………』


どうやら足音は
部屋とは反対の方に向かったようだ………


子どもたちは カミナリ⚡一族の足音を
記憶している

そのセンサーは もはやSECOMクラスの
性能と言っても 過言ではない

どんなに話しに夢中でも 

カミナリ⚡一族の
足音だけは 

聞き逃さない………


   カミナリ⚡の恐怖 其の二
       【目力】

月に1度の誕生会

全クラスがホールに集まる。

少し興奮気味なのか、
なかなか静まることができない。

子どもたちを落ち着かせる担任を尻目に



    後方から  視線を  感じる

 


何かを感じとった1人の子どもが
人差し指を口に当て 周りに合図を送る

そして、それに気付いた子どもが
さらにその合図を 周囲に広げていく

この連携プレーにより
静寂は 瞬く間に 広がった



…………が、まだ終わりではない

一人ひとり 心のなかで 祈り始める



    『めが あいませんように』



何者かが送る視線が ターゲットを変えた時

この戦いは終止符をうつのだ



子どもたちは知っている

カミナリ⚡一族の目力の恐ろしさを


1度でも目が合ってしまうと 
もはや逃れる術はない

あとはカミナリ⚡が落ちるのを
黙って待つのみ………

それを回避する唯一の方法は

目力に気付かないふりをして

空気を読む、ということだ………


   カミナリ⚡の恐怖 其の参
       【威圧感】

カミナリ⚡一族の中でも
この、圧倒的威圧感を放出できるのは
極々一部のカミナリ⚡使いのみ。

その筆頭が、一族を統べる女王

カミナリ⚡先生である。

その威力たるや 
彼女がその場に存在するだけで
一瞬にして緊張感が場面を支配し
その場にいる者全員、背筋が伸びる。


ある日の夕方、
この時間はいつも自由遊び。

ブロックやらママゴトやら
足の踏み場がないくらい散らかる事が日常だ。

そんな事は気にせず、子どもたちは遊び続ける。

しかし子どもたちは忘れていた。
その日の遅番の担当が 
カミナリ⚡先生である事を。

この状況はかなり危険だ。

もうすぐ遅番の時間になる。
今から片付けを開始しても間に合わない。

この散乱した玩具の数々を
カミナリ⚡の女王に目撃されてしまう。

この事態を重く受け止めたオレは、

カミナリ⚡緊急事態宣言を発動させる事を

決意した。


   新・カミナリ⚡バスターズ

カミナリ⚡バスターズとは

この子たちが3才児クラスの時に担任だった
カミナリ⚡の女王に対抗すべく
結成された子どもとオレのチームだ。

このチームは
カミナリ⚡に対抗できる唯一の秘技を
繰り出すことができる。


そしてオレは、この緊急事態に
新・カミナリ⚡バスターズを呼び集めた。

メンバーはもちろんクラス全員。

とりあえず、できる限り片付けを進めておく。



      バタン⚡ バタン⚡………

『ふぉるてせんせー!あしおとがきこえてきた!』



足音からすでに発電を感じる。
同時に緊張感が走る。



         パタッ…



……………足音が……止まった?


  


……くそっ!体中がピリピリする…
この感じは……至近距離に…………いる!




      オレたちはすでに、
      カミナリ⚡の女王の
      射程範囲内に……いる…




……視線を………感じる……

見られてる!


……全てを……今…見られてるぞ!



振り向くな、子どもたちよ!

今、すべきはカミナリ⚡の女王と
目を合わせる事じゃない!



『ふぉるてせんせー…ぼく、もうダメだ
きになって…しかたがない…』



ダメだ!見るんじゃないっ!
見たら即座にカミナリ⚡が落ちるぞ!

女王が…部屋に入るまで…こらえるんだ!
気付かないふりをして…片付けを続けるんだ!



     トビラが⚡  ヒライタ⚡


       

       ガラガラっ⚡




今だっ!

子どもたちよ!
カミナリ⚡の女王の目を見るんだ!

恐れる事はない!
女王が発雷する前に放電すれば
カミナリ⚡が落ちる事はないっ!

さあっ!あの言葉を みんなで 言おう!





子どもたち一人ひとりの顔を 目に焼き付ける
みんな たくましくなったじゃないか

あの言葉を言うまで わずか 1、2秒
その僅かな瞬間だったが

子どもたちが女王に向けたその表情は
怯えたものではなく
立ち向かう勇気を心に秘めた
勇者 そのものに見えた

その場にいる誰もが願う

我ら 新・カミナリ⚡バスターズが
勝利に導かれる事を

その場にいる誰もが願う

クラスのみんな 誰ひとり欠けることなく
明日を 迎えられるようにと

この 長い戦いに 1つの終止符を打つべく

クラスは 初めて 

       

       

      一致団結した!








『カミナリ⚡せんせー!

  いつも見守ってくれて ありがとう😆』



  カミナリ⚡の女王の 動きが 止まった

        
          

      今がチャンスだ!


       さあ!放て!

      希望の 笑顔を!





✨✨放電⚡ス・マ・イ・ル😁NEO!✨✨


      女王の涙

10年以上前の話しだ

1人の新人保育士が
期待と希望を胸に 保育園で働き始めた

彼女は人なつっこく、優しい性格で
先輩からも 子どもからも 好かれていた

彼女は やる気に満ちてあふれていた

子どもたちの事を考えて
子どもたちのために
子どもたちと一緒に
笑って 泣いて 

そんな保育園生活を想像していた

1年目から実力を如何なく発揮してきた彼女は
2年目以降 クラスリーダーに 抜てきされる

でも それが 悪夢の始まりだった

あまりにも 経験値が少なかった彼女は
その素質だけではカバーしきれず

多発する怪我

まとまらないクラス

彼女の焦りは募るばかり

そして 出血騒動の怪我が起きた

彼女は思った

子どものためにと 受け止めて
優しく接してきたけれど
子どもたちは 心を開いてくれなかった
それどころか 
話しは聞かない
片付けは大人にやらせる
身の回りのことまでやってもらって
『ありがとう』のひとつも言わない
挙句の果てには大きな怪我まで起こしてしまう

ワタシは……ナメられていたの………? 


優しいだけじゃ 子どもの事 
何ひとつ 守れないじゃない


彼女の中で 何かが 壊れた瞬間だった


その後 彼女は その厳しい叱責が
鋭く落ちる稲妻に似ていることから
カミナリ⚡先生と呼ばれるようになった


今、カミナリ⚡の女王のもとに
子どもたち全員から感謝の言葉と笑顔が
届けられた。

もちろん、それは偽りの言葉と笑顔だ。

心からのものではない。

彼女の過去がどんなに辛いものであっても
彼女の過去がどんなに悲しいものであっても
彼女が今まで周りを萎縮させてきた事に
変わりはないのだから。

カミナリ⚡先生の過去は
今、向き合っている子どもたちには
全くもって、関係ないのである。

子どもたちにとっては
今までも、そしてこれからも
怖くてイヤな先生の記憶が残り続けるだろう。

でも、たったひとつ
その最悪なシナリオを
回避する方法がある。

それは、カミナリ⚡先生が一番よく
わかっているかもしれないが……


話しを終える前に
その後のEpisodeを一つ載せておこう


子どもたちから感謝の言葉と笑顔を向けられた
カミナリ⚡先生

驚いたのか、しばらく動かず
子どもたちの様子をうかがっていた。

そして、部屋の状態に目を向けると



「あら、全然片付けられてないじゃないの。
    こんな足の踏み場もない状態じゃ 
           危なくて遊べないわよ。」



そう言うと、一緒に片付けを始めてくれた。

いつもと違い、全くもって覇気がない。
むしろ、ほんのりとした優しさすら感じる。

この様子を不思議に思った子が
まじまじと見つめ



『あれ……カミナリ⚡先生 泣いてるの?』と



おもむろに 言ってしまった。

するとカミナリ⚡先生は鋭く切り返し



『な〜に言ってるの⚡私が泣くわけ⚡
              ないじゃない⚡』



あ、覇気が戻った…… 
 

でも、オレもしっかりとこの目で見てしまった。

カミナリ⚡先生の目が 潤んでいたことを。


                第8話に続く
マガジンにも掲載中↓

ここまで読んで下さりありがとうございました🙇


勉強嫌いで少年ゲーマーだった頃の思い出を
書いたエッセイ集はコチラ↓
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