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元少年ゲーマーの保育日記#9〜年長クラス編

ゲーマーだった少年が、成長とともに
葛藤を経験し、保育士として働き始めた、
自伝的エッセイ風物語。
今回は年長クラス編の第9話です。
新米保育士編(全10話)はこちらから↓


【あらすじ】

保育士3年目に突入した
元少年ゲーマーフォルテ。

今年度、彼が受け持つ事になった子どもたちは
年長クラス。

彼らはフォルテが1年目でも担任をした
思い入れのあるクラスだ。

だが進級当初、子どもたちは荒れに荒れていた。

それもそのはず。

子どもたちは、
カミナリ⚡一族と呼ばれる保育士たちに、
今まで保育されてきたからだ。

一族の特徴は、カミナリ⚡を落とし萎縮させ 
相手を支配しコントロールしていくやり方だ。

半年が過ぎた頃
クラスは落ち着き始め、協力する事を覚え
一致団結する姿を見せるようになる。

そんな中、運動会を迎えようとしていた
年長クラスの子どもたち。

しかし、最後の運動会で挑む
目玉競技の一つ『リレー』で
クラス内に不協和音が生じ始めた……


       不安

年少クラスの時のアイ👦君は
追いかけっこが大好きな 男の子だった

初めの頃は どの子もそんなに差はなかった
でも、夏が過ぎ 秋を迎え 年が明けると


友達は 走るのが どんどん速くなっていく

でも アイ👦君は なかなか速く走れない


その差は少しずつ 開いていく

追いかけっこをしても 
つかまるのはいつもアイ👦君

その時初めて アイ👦君は弱音を吐いた



 『なんで いつもみんな ボクだけ
          つかまえにくるのかなぁ』




その時の アイ👦君の表情は
ニヤニヤと 笑っていた

まるで 自分の不安を 隠すように

そして その日からアイ👦君は 

走る事を

やめてしまった


       緊張

年少クラスで もう一人の担任だった
カミナリ⚡先生

マイペースなアイ👦君の 行動を促すため
よくカミナリ⚡を落としていた

みんなよりも 少し遅れて行動する事が
多かったアイ👦君に

カミナリ⚡先生は よく言っていた



『ちょっとアイ👦君⚡
     周りの友達の事 見てごらんなさい⚡

  あなただけ⚡全然できてないじゃない⚡』



誤解がないように 言っておくが
アイ👦君は 決して何もしないわけじゃない

ただ マイペースだから 時間がかかるのだ


わかっていても 
みんなと同じようにはできない

頑張ってやってるのに 
みんなと同じタイミングで動けない

でも 先生はカミナリ⚡を落としてくる


急がなきゃ


やらなきゃ


早く



じゃないと


また…………




        

          怒られちゃう







そう感じたアイ👦君は
カミナリ⚡が落とされるたびに

ニヤニヤと笑うようになっていた

まるで 極度の緊張を 隠すように


     無意識のうちに

不安や緊張を感じると
ニヤニヤしてしまう事に、
アイ👦君は気付いていない。

これはおそらく、不安や緊張からくる
ストレスを緩和するための、自然な現象だ。

無意識のうちに、そうなってしまうのだ。

無理にやめさせると
余計、本人にストレスがかかってしまうだろう。


彼が今、抱えている不安と緊張って

何だ?

そのヒントは彼の発言の中に、隠されていた。

アイ👦君は以前、オレにこう言っていた………



  『ボクは はやく はしれないから
     ボクがでると チーム 
        まけちゃうんじゃない?』




        本音

運動会まであと1週間、
リレーの練習に熱が帯びる。

だが、依然としてアイ👦君のニヤニヤは続く。

また、そしてそれに対して友達は
冷ややかな反応を示す。

状況は…………最悪だ

アイ👦君はこの前『リレーに でたくない』
とオレに言ってきた。

だがどうしてもそれが本心とは思えない。

なぜならアイ👦君
公園で行うリレーの練習、
その練習にもしっかりと参加しているからだ。
それも、自らの意志で。


散歩帰り

オレは列の先頭でアイ👦君と手を繋いで歩いた。

道中、アイ👦君に尋ねる。



「アイ👦君はさ、この前 
リレーにでたくないって言ってたじゃん。
でもさ、いつもみんなと一緒に練習してるよね」



アイ👦君の表情を見る。
ニヤニヤしている。
でも、返事はない。

そこで、ストレートに聞いてみる。



「嫌じゃないの?」



変わらずニヤニヤしている。



「先生も、みんなも、アイ👦君がつらいなら
    リレーやらなかったとしても 
          誰も責めないと思うよ」



アイ👦君がいつでもやめられるように
逃げ道を作っておく。安心できるようにだ。

すると、アイ👦君の表情が変わる。



『ボクはさ、はしるのおそいから…………

  どうやったら 
     はやく はしれるようになるのかな?』




やっぱりそうだ。

アイ👦君はマイペースだが
いつも、やらないわけじゃない。

ただ、時間がかかるだけなんだ。

走る事もそうだ。

速く走りたい、でもそれがどうしてもできない…

方法がわからない…

でも、友達は、どんどん速くなる。

その差が開く。

みんなから取り残されていく不安と
アイ👦君はいつも 戦ってたんだ。



「本当は みんなと一緒に 走りたい?」



ここでアイ👦君の不安と緊張は
最高潮に達する。 



 『ボクのせいで まけたらさ

    ぜったいに みんな おこるよね』



みんなと一緒に走りたい
でも、自分のせいで負けたら周りはきっと責める


      アイ👦君の せいだと


ても、オレは声を大にして言いたい。


それは 違うと。

それを証明するために
オレはアイ👦君に1つの秘策を提案した。


   それは 誰のせいでもない

バトンを受け取る時、
落としがちになる事が多い。

バトンを落とすとその分、タイムロスが生じる。

それは、チームの勝敗に大きく影響する。

だからオレは、バトンを受け取る時は
両手で丁寧にもらう事を 推奨してきた

仮にチームに速い人が何人かいたとして
バトンの受け渡しが上手くいかなければ、
負けることも十分にあり得るのだ。


ある日、練習で
バトンを片手のみで受け取り 走る実験を
子どもたちとやってみることにした。

ことごとくバトンを落とす子どもたち。

どんなに速い人がいたとしても
何度もバトンを落とすチームは
必ず負ける。



何度かこの実験を繰り返すと
子どもたちの中に意識が芽生える

バトンを大事に渡そう
バトンを大事に受け取ろう


同時に子どもたちは知る


       速くても遅くても
       勝つ時もあれば
       負ける時もあるんだ



それは 誰のせいでもない
勝敗は 誰のせいでもない


どんなに練習していても

バトンを落とす事はある

転んでしまうことだってある

足の速さだけが 勝敗を決めるのではない


オレがアイ👦君にした提案とは

バトンを落とさないように受け取り
走り出す練習

この練習に 足の速さは関係ない

これだってチームが勝つための 立派な貢献だ


    全てはこの日のために

当日、年長クラスにとって最後の運動会。

かけっこも お遊戯も バルーンも
一生懸命頑張った。

最終競技は

1番の見せ場であるリレー。

子どもたちも、それを見守る保護者も、
気合が入る。

クラス人数は24名、それを2チームに分けて
対決する。

リレーのやり方は直線形式だ。

数十m先にカラーコーンを置き、一直線に走る。
カラーコーンをU-turnして戻り、次の走者に
バトンを渡す。

Aチーム
アンカーはもちろんケー👦君

アイ👦君にどこで走ってもらうか
チームのみんなと作戦を立てる。

1人の子が口を開く



   『ケー👦君の前がいいんじゃない?』




なるほど。アイ👦君が走るまでできるだけ
相手チームとの差を広げておいて
アイ👦君に繋げる作戦か………

仮にアイ👦君が抜かされたとしても
ケー👦君がきっと、抜き返してくれる。

ケー👦君が一言



       『まかせろ!』



その言葉に 色々な思いが宿る。








リレー直前

アイ👦君はずっとニヤニヤしている

でも、誰もアイ👦君を責めることはない

伝わったのか?

アイ👦君の努力

あの日から

バトンを落とさないように

ただ それだけだけど

一生懸命練習した

走る事に 興味がないと思ってた

でも、それは不安の裏返しだったんだね

自分の弱さを 見せたくないから

ずっと 一人で隠してきたんだね


不安はそう簡単には拭えない

その不安が消えるのは 

君が走り終えた時だ

バトンをケー👦君に繋いだ時だ


でも もう不安を隠す必要はないから…

だから みんなと一緒に頑張ろう


その時を迎えるために

全ては この日のために!















リレーが終わり、

子どもたち、何人かが泣いている。

ケー👦君は立ち上がれない程に号泣している。

保護者の多くも、涙を見せる。

それは、リレーで子どもたちが見せた
今までの努力と本気が

その場の空気を一気に支配していたからだ。



バトンを渡すその一瞬一瞬

ほとばしる緊張感

その場にいた誰もが 思ったはずだ

『どうか誰も バトンを落とさないように

  どうか誰も 転ばずに 走り通せるように』



上手くいかない時だってある

報われないことのほうが 多いかもしれない

でも、子どもたちは運動会の閉会式後

あんなに泣いていたのがウソのように
笑顔を見せて 友達とふざけ合っている

借りていた小学校の校庭に
元気な声が 響き渡る

広いその校庭で追いかけっこをする子どもたち

その中には 

ケー👦君たちと追いかけっこをする

アイ👦君がいた

久しぶりにみんなと一緒に追いかけっこをする
アイ👦君

その表情は

もう不安なんて 

これっぽっちも感じないくらい楽しそうに 

心から笑っていた😁


               第10話に続く
マガジンにも掲載中↓

ここまで読んで下さりありがとうございました🙇


勉強嫌いで少年ゲーマーだった頃の思い出を
書いたエッセイ集はコチラ↓
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