元少年ゲーマーの保育日記 最終話·卒園〜年長クラス編
ゲーマーだった少年が、成長とともに
葛藤を経験し、保育士として働き始めた、
自伝的エッセイ風物語。
今回は年長クラス編の最終話です。
新米保育士編(全10話)はこちらから↓
保育園に隣接している木造建ての教会
オレはキリスト教信者ではないが
そこに入ると何故か落ち着く
毎週、子どもたちと行くお祈り
神父様の話し
そこで歌う聖歌
初めは特に何も感じなかった
だが、今ではそれらの事が
心を潤おす
その小さな教会で
卒園式を行う
卒園式と言っても
その日でお別れではない
3月31日までは会える
でも、式という厳かな雰囲気の中
正装に身を包む子どもたちを見ると
感極まるものがある
一人ひとりの表情
みんな成長したね
卒園の言葉
よく覚えたね
神父様の祝福
無事に1年を過ごせて本当に良かった
式の後、卒園を祝う会
卒園の際には是非歌いたいと思っていた歌がある
このメロディーを聞くと
色んなことを思い出す
嬉しかったこと
楽しかったこと
悲しかったこと
辛かったこと
子どもたちの歌声が
全部を思い出させてくれる
会の終盤
子どもたちからのサプライズ
歌をプレゼントしてくれるという
何にも知らないオレは
部屋の後方に行き
一列に並ぶ子どもたちを見つめる
保護者がピアノを弾き始める
初めて聞く曲だ
子どもたちが歌う時
オレはいつもピアノを弾いていたから
子どもたちの歌う姿や表情を
面と向かってしっかりと見たことがない
なんだか、照れくさい
今までずっと一緒に歌ってきた子どもたちが、
自分たちの為に歌ってくれてるのだ
S👦君はこの歌を歌って
先生を泣かすんだ!
と言っていたそうだが
そんなS👦君が泣きながら
歌っている
直視できず後ろを向く
泣いているのがバレないように
天井を見上げる
しばらく涙が止まらなかった
これは1番思い出に残る卒園式
オレは この日のことをきっと忘れない
このクラスの担任になれて 本当に良かった
この年から10年以上
この保育園で働き続け
たくさん卒園生を見送ってきたけど
3月31日を終えた瞬間
いつもバーン・アウトしてしまう
オレってこんなに別れに弱かったんだと
改めて自覚する
「新しく出会う子どもたちが
その寂しさを埋めてくれるわよ」
と、その都度言われてきた
実際、そうだったが
繰り返すバーン・アウトは
オレには結構負担だった
そして、周囲からの期待も重かった
もともとオレはそんなに出来が良くない
昔っからゲームばっかりやってきて
夢中になれるものなんて
他に何にもなかった
劣等感すら感じていた
でも、保育士になって
一生懸命頑張ったら
周りが認めてくれる
だからもっと頑張ろうとする
でも、いつしか気付いてしまった
これ以上のことは、オレにはできないと
やれるだけの事はやって
評価もしてもらったけれど
もうこれ以上、期待しないでくれって
思うようになった
同じ事じゃいけませんか?
違う事をしなきゃいけませんか?
去年よりももっと良くしなきゃいけませんか?
余裕が欲しいと思うことはいけませんか?
定時で帰りたいと思うことって悪いこと?
周りに合わせて残業しないといけませんか?
保育士の基本って何?事務?書類?
そういうのを減らして、子どもと過ごす時間を
増やしたいって思ったらいけないですか?
やれるだけの事はやった
もう、悔いはない
だから 働き方を 変えよう
そう思った
そう言えば昔、ベテランの同僚保育士に
言われたことがあった
「組織は変わらない。変えられない。変えようと思うだけ無駄。だから、それに合わせて足並みを揃えた方が良い。」
本当にそうなのか?
少なくとも、オレは自分を曲げてまで
周りに合わせて生きようとは思わない
そんなのは苦痛でしかない
働き方を変えた今
組織にガッツリ浸かっていた頃より
精神衛生上、大分良くなった
そうだ。オレは今、
もともとのオレに戻りつつあるんだ
無理して生きてきた頃にはもう戻りたくはない
また、保育を心から楽しめるように…
子どもたちと過ごすことを純粋に楽しめるように…
完
元少年ゲーマーの保育日記 全11話↓
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?