元少年ゲーマーの保育日記#3〜年長クラス編
ゲーマーだった少年が、成長とともに
葛藤を経験し、保育士として働き始めた、
自伝的エッセイ風物語。
今回は年長クラス編の第3話です。
新米保育士編(全10話)はこちらから↓
【あらすじ】
将来の夢なんて何もなかった
元少年ゲーマーフォルテ。
そんな彼が初めて
自分の意思で歩んだ保育士の道。
だが、就職した保育園は
カミナリ⚡一族と呼ばれる保育士たちが
圧力を広げる、最悪の環境だった。
3年目を迎えた春、
彼は1年目に受け持った子どもたちを、
年長クラスで再び担任することになる。
しかし、久しぶりに見た彼らの姿は
どうしようもなく荒れたいた。
そんな荒れた姿の彼らに
新たな問題が浮上する…
いじめの根っこ
マイペースなエム👦君。
友だちもとの関わりは少なく
1人で、過ごすことが多い男の子だ。
このエム👦君、実は周りをよく見ている。
そしてマイペースではあるが、言葉が達者だ。
だから、友達の言動に
気になるところがあると
すぐに注意をしてしまう。
ある日、エム👦君が1人で絵本を読んでいると
その周りを
何人かの仲良しやんちゃグループが、取り囲む。
絵本に描かれているキャラクター
その中でとりわけ、
悪者に近い描かれ方をしている絵を指差し
『あっ!これエム👦君な!』
と、からかいはじめた。
エム👦君は相手にしない。
すると、それがエスカレートし始める。
下をうつむき言い返さないエム👦君。
「どうした?」と声を掛けると
何事もなかったかのように
その場から立ち去る子どもたち。
残されたのは落ち込むエム👦君だけ。
この出来事をエム👦君のお母さんに伝えると
『…実は、年中クラスの時に、
保育園から帰った後、ものすごく
落ち込んでいる時が何度もあったんです。
理由を聞くと、友だちがいじめるんだって…
でも、先生たちに伺っても
はっきりとした事は教えてくれなくて…
様子を見てみますの繰り返しで…
それ以来、私もあんまりしつこく言うのも
申し訳なくて、聞かなくなったんですけど…』
年中クラスの時から…ずっと…
続いていたのか……
オレは、動揺を隠せなかった。
エム👦君の涙
ある日、この前と同じグループの子どもたちが
エム👦君をからかい出した。
この、集団 対 個人 という図式は良くない。
一方的に個人の気力を一気に奪う。
同調圧力というやつだ。
保育園の体質が、
そのまま子どもに反映されている。
エム👦君の失敗を1人がからかい
それが瞬く間に、
他の子へと連鎖していったのだ。
『あ〜、エム👦君まちがえた〜』
『あ〜あ、いけないんだ〜』
『まちがえた〜まちがえた〜』
その場にいられなくなったエム👦君は
部屋の隅に行き、うずくまる。
その様子を見ていたオレは
たまらなくなり、その場にいたみんなを
集めて理由を聞いた。
『だってぇ、エム👦君ってさ、いっつも
イヤなこと言ってくるんだぜ!だからだよ!』
年長といえども、
まだうまく説明できないことも多いだろう。
本人なりに理由を説明したのだから、
しっかりと対応しなければ…
そう思ったオレは、
「………そっか。…確かに嫌なことを
いつも言っちゃうエム👦君も
よくなかったかもしれないね。
でもさ、みんなでエム👦君を責めるように
言ったり、意地悪してやりかえすのって、
どうかな?いいと思う?」
一般的な教科書通りの、言葉で返してしまった。
この言葉を聞いたエム👦君は
うつむいていた顔をあげると
悔しそうにオレの顔を見て
力強い目の中に、大粒の涙をため込んで
泣いていた。
どんなに意地悪されても、
みんなから責められても、
泣くことはなかったエム👦君の涙を見て
オレは自分の言った言葉が
エム👦君を傷つけてしまった事に
初めて気が付いた。
エム👦君の本心
翌日、エム👦君のお母さんに
時間をとってもらい、昨日の出来事を伝えた。
すると、エム👦君のお母さんは、
重々しく言葉を紡ぎ始めた。
『……実はエムの父親はとても厳しい人で…
エムは父親の顔色をよく伺っているんです。
エムの父親はエムの事をすごく大切に思っていて
でも…だからこそ、しっかりと育てたい思いが
強すぎると言うか……
…だから、ついついきつく
叱りつけてしまうことも、よくあって…
エムは…感受性がとても強くて…
私や父親の感情を敏感に感じ取ってしまうから
…いつの間にか……エムに…気を使わせるように
なってしまったんです。
…父親を怒らせないようにと……
年中クラスの時にエムがよく言っていたのですが…
保育園の先生はすぐに怒るんだって。
ボクは友だちが怒られるのを見るのがイヤだから
怒られる前に、お友だちに
教えてあげてるんだって………
エムは…きつく叱る時の父親の顔を
見たくなかったんです。
優しくて、笑っている時の父親の事が
大好きだから。
きっと…先生たちの…怒った顔を、父親のそれと
重ね合わせていたのかもしれません…
先生たちにも…笑っていて欲しかったんだと
思います。
だから…………エムはお友達に………
ごめんなさい…本当に…ご迷惑おかけしました…
ほんとうに…………ごめんなさい………』
エム👦君のお母さんは、
時々ことばを詰まらせながら、とても丁寧に
エム👦君の思いを代弁してくれた。
あの時、エム👦君が流した大粒の涙の理由が
今、やっと…わかった…
ごめんなさい
…………謝るのは………オレの方です…
エム👦君の本当の気持ちを
知ろうともしなかった。
聞こうともしなかった。
上辺だけの仲裁をして
自己満足を振りかざし
エム👦君の心を傷つけた。
エム👦君の優しさに気付けなかった。
…だから…謝らなきゃいけないのは…
……俺の方なんです
…オレは……保育士…失格だ
エム👦君の笑顔
エム👦君の本心を知ったオレは、
子どもたちと生活する時
穏やかに過ごそうと決めた。
どんなに忙しくても
子どもとすごす時間を優先できるよう
仕事の仕方を工夫して
忙しさを保育に持ち込まないようにした。
子どもたちと一緒にいる時間は、
笑って過ごせるように。
感受性の強いエム👦君は、それを察したのか
友だちに注意する姿が見られなくなった。
同時にエム👦君への嫌がらせもなくなった。
ある日、エム👦君が
家から手紙を書いてきてくれた。
手紙と言っても1文だけのLetterだ。
だけど、その内容がまたエム👦君らしい。
『ふぉるてせんせい ほいくえん
ぬけないで がんばって ください』
『ぬけないで』というのは
『辞めないで』ということのようだ。
エム👦君は、
しばらく落ち込んでいたオレの様子を見て
心配していたらしい。
「もちろん!みんなをおいて辞めるもんか!」
泣きそうなのをこらえて、笑顔でそう伝えると
エム👦君は、
今まで見せたこともない
最高の笑顔😁を見せてくれた。
第4話に続く
マガジンにも掲載中↓
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