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トーコさんとヘビの物語

あちこちの神さんに参りまくるのが好きじゃない理由を軽く説明しましょう。例えば、私は氏神さん以外の神さんでは、天満宮なら参ったことがある。修学旅行は九州だったし、半強制的に太宰府はお参りした。受験時は、滝宮とあと一ヶ所の天満宮にお参りした。でも、当時からそういうの好きじゃなかった。そのとき、一時だけ頼って、お願いして、あとは知らん顔って、ドイヒー。(さまあーず、好き)そんなことされたら、人間でも怒ると思う。道真って、怨霊だし。そんな存在にそういうことするの、怖くない?
私、崇徳上皇をちょこっと小説に描こうとして、取材したことがある。酷い風邪をひいた。風邪はひくけど、そんな酷いのは珍しかった。自分と合わないなって、思うところには、近寄らないことだね。触らぬ神にたたりなし。崇徳上皇には、同情というような気持ちはあり、あまり怖い気持ちはなかったけど、向こうは私のこと、あまり気に入らなかったのだろう。すいません。
子どもの時から、初詣は與田寺に行っていて、寺だった。我ながら、徹底していて、そこは驚く。
このエッセイを見返していると、みなさん、私が色んな神仏に嫌われていると、お感じになるのではないかと思ってしまう。たぶん、嫌われてはいない。大丈夫です。氏神さんに転職させられるのだって、母にとっては災難だけど、私はダメージ受けてない。神さんに辞めさせてもらえなかったら、私はダークグレーな職場にずーっと勤めることになっただろう。遠方に通っていたときは「もう、地元に戻ってきなさい」と、言われたと思ったし、書店を辞めさせられたときは、「ここのお勤めはもう、辞めていいよ」って言われたと思った。自分では踏ん切りがつかないから。
空海に凶をもらったのも、見込みがあると思ってもらえたから、発破をかけられたんだと思っている。努力して、ポジティブ思考をするようにしている。なんで、嫌われていない自信があるのかというと、私は積極的に神仏とコミュニケーションをとろうと努力する人だからだ。そんだけ。
嫌われると、言えば、人間になーんか、嫌われる。年賀状を買いに行った時。おばさまに話しかけられた。「私、ヘビって、見るのも、嫌! ヘビの描いていない年賀状って、ないのかしらね?」と、訊かれた。「その、漢字の巳のやつなんて、いいんじゃないですか?」「そうねえ」
ところで、この人は、私の知人なのだろうか? 私、人の顔、覚えないから、わかんないんだよね。そして、ヘビ嫌いのあなた。干支の悪口を言わないで〜!
余談だが、犬がいなくなって、ひとりで散歩していると、結構な人数に「わんちゃんはどうしたんですか?」と、尋ねられた。その前に、あなた、誰ですか? 私の知人ですか?
書店で店番してたら、小学校から高校まで一緒だったゆっこちゃんと、別の機会にみよみよ(仮名)に声をかけられたのに、誰かわからなかった。年賀状を送るのに、新居の住所がわからなかったから、同級生の実家に持っていったんだが、同級生が出てきたとき、わかんなくて「お母さんはこんな顔だったっけ?」と、思った。なかなかの状況になっている。向こうは私を知っていても、私は相手が誰かわからん。大丈夫か?
家族にも嫌われる。と、いうのも。私は前世が猫、という意識がとても強い。のだが、家族はそろいもそろって猫が嫌い。中身がおっさんだと常々言っているが、たぶん人間のおっさんではない。中年のオスネコだと思う。太ったやつ。
なんで、私はこんな猫嫌いの家に生まれたのでしょう? 父は私が子どもの頃「この子は猫に取り憑かれている」と、私におののいていた。お父さん、安心してください。今はキツネに取り憑かれていますよ。
嫁だけは猫派だ。
母は猫が庭に入って来ると、石を投げつけたり、水をかけたりする。私はその度に「猫が風邪ひくやん!」と、止める。母は「猫の糞尿が臭い」と、言う。母は大分身勝手な人だ。以前、スズメが可愛いから餌付けしようとした。そうしたら、スズメは肥満して、洗濯物にフンをするようになった。母は餌付けをやめた。スズメもいい迷惑だ。私から見ると、かなりの自己中。
私は、猫だったり、キツネだったり、ヘビだったり忙しいけど、嫌われまくっている。猫の個体の尾が長いものは、古来より蛇のようだと、忌み嫌われる。
いいもん。私、人間が苦手だし、こっちの気持ちが人間に伝わって、嫌われるんだ。ある意味、相思相愛だよ。
トーコさんはヘビを可愛がっていた希少な人だ。
彼女はカエルも平気だった。青蛙ちゃんを捕まえて来ては、自分がガーデニングしている庭に放した。青蛙ちゃんを増やしたかったのだ。
物干し竿にヘビが巻きついていたときも、話しかけていた。窓越しに「ヘビさん、可愛いお顔して〜」と、ネコ撫で声をかける。
特異な方だ。
ヘビは正面から見ると、意外と可愛い顔をしているのだ。笑顔なんです。
あるとき、トーコさんが会社のドアを開けると、ヘビが落下してきた。ヘビは失神したようで、動かなかった。
トーコさんの広大な庭には、会社の建物がある。
で、さすがのトーコさんもヘビに触ることはできなかったので、そーっとドアを閉めた。
その話を息子のソウさん(仮名)に言うと「ああ、会社の中でヘビの干物ができるんだね」と、答えた。
トーコさんはもう一度会社のドアを開けた。ヘビはいなかった。トーコさんは「ヘビさん。今から30分、ドアを開けておくので、出ていってください」と、言った。
後日、トーコさんは家の門を開けようとした。重くて動かない。トーコさんちの門は小学校の校門くらい大きい。トーコさんは力一杯門を開けた。
その夜、旦那さんが「残念なお知らせがあります」と、言った。ヘビが門に敷かれて、死んでいたらしい。(門のレールにすっぽりハマっていて、頭から敷かれていたようだ)トーコさんは「なんて可哀想なことをしてしまったんだ!」と、悲しんだ。
その夜の夢にヘビが出てきた。
「私を可愛がってくださって、ありがとうございました。私は貴女が放してくださるカエルを食べていました。私は生き物を殺して食べて生きていました。そうしないと生きられない因果なのです。だから、もう、いいんです。悲しまないでください」と、ヘビが言ったそうだ。宮沢賢治みたい。トーコさんはその話を私に話してくれた。私はトーコさんがヘビを可愛がってくれて、良かったと思った。私も救われた。