無人島の一冊 ー歌川国芳展ー

第一章「武者絵・説話」は、少年ジャンプの巻頭カラー集だった。

ガマの上に乗って印を組む「天竺徳兵衛」は完全にNARUTOだ。
緻密に描かれた土蜘蛛は執着の悪魔としてチェンソーマンの新キャラだ。
とにかく見ていてニヤニヤする。
躍動感、緻密さ、多色、異形の表情、そして構図。

赤と黒の巨大イモリ、目は黄色が効いている。
それを退治せんとする岩沼吉六郎信里にからみつくイモリ。
円を描くように構成されている。
カッコよさしかない。背中に背負いたい。

「牛若丸の鯉退治」の水中にある鯉の表現よ。
赤い鯉の背に大胆に水の青と黒が渦を巻く。
静かに尾を揺らす巨大な鯉の破壊力を想起する。

すべてについてコメントを入れたいが。
ひとつ、「百人一首之内 崇徳院」。
川の急流を駆け上がっているのか崇徳院。
自らの血で「天下滅亡」と書いたという崇徳院。
柄本時生に似て見える。時生が髪を振り乱して笑いながら駆けている。

1章から8章まで章分けされた展示。
3章美人画「夜の桜」の人と桜の間違った縮尺。
4章風景「東都守備の松之図」の大きな石を前面に持ってくる構図。
6章戯画「似たか金魚」の腹立つ金魚の顔。
「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」は、小さなおじさんが組まれて人の顔と手を表現している。
アルチンボルドは野菜で人間の顔を表現して見せたが、国芳はヒトでそれをした。
面白味で言えば国芳だ。なんせ鼻がヒトのケツだ。

どの章も美しく、楽しく、勇ましく、面白く、その多彩さに面食らう。
が、全てにおいて「好き」を語れてしまう。
まいったなこれは。図録を買って家でじっくり見るしかないか。
だがしかし、重いし高いぞ。きっと。
と思って手に取った図録がいい。

なんと180度開き。
見開き2ページに渡る「相馬の古内裏」は、のしかかるような骸骨をフラットに見ることができる。
それだけで買いだが、さらに表紙がリバーシブル。
その日の気分で猫か鯨かを選べます。
そして、素人目に見て一つの不満もない色の再現性。
巻末の必要最低限の解説。
これで税込3,200円。安い。が重い。が、安い。
そしていい。
「無人島に一冊持っていけるなら?」の答えはこの図録かもしれない。
全ての感情と日常と物語と美しさを含む。飽きることがない。


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