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こんにちは
展望台でぼんやり景色を見ていたら、おっちゃんが階段を上がってきた。
「こんちはー」と挨拶。
見事にスルーされ、設置されている温度計に直進して「10度か。まだやな」と、おっちゃん一人ごちる。
「10度はまだなんやー」と応じてみると、「まだまだ冬ちゃうな」と言う。
階段を下りながら「そっかー。冬ちゃうんかー」とか言ってたらけつまづいた。
したらおっちゃん「大丈夫か!?」と声をかけてくれた。
次の日、下山中に上ってくるおっちゃんに再会した。
「こんちはー」はやっぱりスルー。
でも、笑顔で「おっ。あんた昨日も会ったな」と言う。
「会った。会った。今日は12度やったよ」と応じると。
「そうか。まだまだやな」と言って去っていった。
おっちゃん、定型文が苦手っぽい。
冠婚葬祭定型文だけの世界では居心地悪そうにやり過ごすタイプだ。
自分がそうだ。
近くの福祉施設の生徒さん達が山に登るのに出会うことがある。
目が合う人を探して「こんにちはー」と挨拶する。
「こんにちはー」と返ってくる。多分先生だ。
失礼な話だ。
生徒さんは居るのに居ない人にしてしまっている。
生徒さんの顔を見て「こんにちはー」と言ってみた。
返事はない。
隣にいた若い先生が「ほら、こんにちはって」と「こんにちは」推しをしてくれている。
すると、すれ違った後の背中に「こんにちは」が聞こえた。
瞬間、振り返った自分と先生。
目があった先生の顔が嬉しさで一杯だった。
自分も「こんにちはー」と大きな声でまた言った。
山は「こんにちは」が行き交う場所だ。
返事があってもなくても「こんにちは」。