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線香花火と君。

一夏のどこにでもあるような、
でも大切な思い出。


あれは小学生の頃。一つだけ強く心に残っている思い出がある。小学生の思い出なんて今やもうほとんど色褪せてしまったが、そのことだけが今もまだ色濃く残っている。


小学生の頃はまだスマホなんて持っていなく、PSPというものでゲームをよくしていた。
その中でも一番ハマったのは、ソフトを使うゲームではなく、インターネット機能を使用したwebブラウザゲーム。
今思えば、何にハマる要素があるんだろうと思うが、夏休みの暇さも相まって当時は熱中していた。

そのゲームは、モンスターのカードを集め、そのカードで敵のモンスターを倒すという今でいうPvEのような形式だった。アクションなどはほぼなくクリックをして、再読み込みされたら倒されいるというなんとも簡素的な仕組みだった。

多分やった事がある人は1000人も満たないと思う。名前ももう覚えていない。
そのゲームはギルドというグループがあり、そのギルドで目標を達成しようというものであった。


ギルドである人と知り合った。なんともそのゲームでは珍しい同じ小学生であり、年齢も一緒であった。
今にして思えばなんでそう易々と人を信じていたのか。まあ小学生なんでご愛嬌。
その人は、ギルドマスターで私はそのギルドの一員となり、流れでサブマスターになった。

そして、そのギルドは私たち2人だけになった。まぁ、当たり前だろう。あんなゲームより面白いゲームなんて世にありふれてる。
それでも小学生の夏休みと、過集中を舐めてはいけない。2人だけでも頑張ってギルドを存続させていた。
当然のことながらチャットでの交流も増え、その時に同じ小学生、年齢である事を知り、さらには住んでいる場所もそんなに遠くない事を知った。

当時私は町田駅の近くの場所に住んでいて、その人は桜木町駅の近くに住んでいた。横浜線で30分くらいの距離だ。
そのことも相まって実際に会って遊ぼうということになった。なんで危険なんだろう。インターネットリテラシーとは。

「11時桜木町ね!」

親に自由研究で桜木町駅に調査行くと嘘をついてお小遣いをねだり、必死に電車での行き方を調べ、ついにその日になった。

2人の合図であるPSPを振りかざし、目が合った先にいたのは、
なんと、
チャットで話した通りの小学生で、同じ年齢の子が居た。
ただ一つだけ違うのは、異性であったこと。
それもそうだ性別の話など一度もしていなかった。勝手に同性だと決めつけていたのだ。

私は目をまんまるにしたが、その人はさほど驚いておらず、いつものチャットのノリで話しかけてきた。
「〇〇だよね!?」

天真爛漫という言葉がピッタリな子だった。
チャットと変わらないノリで打ち解けるのはすぐだった。まるで何年も一緒の親友のように。

桜木町駅からみなとみらいまでその人はいろいろなところを案内してくれた。
といっても小学生が持てるお金なんて、たかが知れている。だからお金がかからないところだけ。
だがそれはとても楽しかった。

初めての経験だった。今までの楽しいこと全部ひっくるめてあの時が一番楽しかったと思う。

何の気なしにいろいろなところを周り、いろんな身の回りの話をした。
その人がどんな小学校で、どんなクラブに入り、どんな生活を営んできたのか。
多分ほとんどその人が話していたと思う。

それからも私たちはお互いの最寄駅を行き来して、一日中遊びまわった。日にちして4日くらいだったと思う。それでもゲームでも一緒に遊び、ほんとに夏休み中ずっと一緒にいたのでは、と感じるほどだった。

ある日桜木町の近く、といっても少し離れたところにある山下公園で遊んでいた。
ふと話しているとその人が

「花火したいね〜線香花火が一番好きなの、人の一生みたいな感じじゃない?」」
と漏らした。
言っている意味は理解できていなかったが、ただその何気ない一言が強く心に残った。
私はその言葉に「やろう!この場所で」と返した。

そんなのやるに決まってるじゃん、と心の中で思いその日を待ち侘びていた。

出来なくなるとも知らずに。


そんなある日突然webブラウザゲームがサービスを終了した。
昔の規模が小さいゲームならよくあることだ。当時はそんな風に割り切れなかったが。
突然のことで別の連絡手段を持っていない私達は、連絡を取りたくても取りようのない状態になってしまった。

それは事実上もう会えない事を示していた。

私は生きる上での楽しみの大半を失った。

終わりだと心の中で何回も叫び、塞ぎ込んだ。
当時は家族も反抗期だとやれ騒いでいたが。

そんな中親戚で集まって花火をする機会があった。花火なんてとてもする気にはなれなかった。

しかしある言葉がうかんだ。

「花火したいね〜線香花火が一番好きなの、人の一生みたいな感じじゃない?」

そうこの言葉だ。

私は線香花火をバレないように自分のポケットに入れ、次の日桜木町へ向かった。

もしかしたら会えるかも

会えたら一緒に線香花火をしよう。

そんな淡い期待を胸に電車に揺られていた。

いつもの集合場所いつものPSP。

でもそこには君はいなかった。

当然だ。当たり前だ。待ち合わせの日付も時間も何も決めていないのだから。

でもどっかで、会えると信じていた。

そんな漫画みたいな展開をどこかで期待していたのだ。

私は胸に込み上げる思いをぐっと堪え、いつかここで花火やろうねと話していた山下公園に向かった。

火はつけられなかった。

ただチャッカマンのレバーを引き、火薬に近づけるだけの作業ができなかった。

私はくるりと身を引き返し電車に乗り家に帰った。

新品の線香花火を抱えて。

この時からだ。この時から。

私は線香花火を出来なくなった。普通の手持ち花火には火をつけられるのに。

線香花火だけはどうしても火がつけられなかった。

もういっそ全部夢だったのかとさえ思った。

残酷なもので、時の流れは速く、もう社会人だ。
なんとなく勤務地は横浜にした。

別にあの頃の事を思い出したとかじゃないと思う。
いや心のどこかでもしかしたらなんて考えていたのかも。

先日、山下公園で花火をしようという事になった。
私はなんとなく遠慮しようとしたが、押し切られ花火をすることとなった。
大容量パックの花火。

もちろん線香花火もある。

なんとなく花火の数も終わりに近づいてきて、もう後は線香花火しかなくなっていた。

私はやはり火が付けられそうもなく、遠慮しようとしたその時。

「線香花火って人の一生って感じがするよね〜」

誰かが言った。

その瞬間に思い出が溢れ、泣きそうになるのを堪えた。
もちろん、当時のことを知るのは私以外いない。

なんとなくもう前を向いて歩き始めるべきなんじゃないかと。

そう言われた気がした。

私は震える手で線香花火に火をつけた。

赤ちゃんのような小さな火、
その後に大きな火花をあげる。
そして最後には花が萎むように、火の玉をおとす。

確かに一生だ。
人の一生だ。
人生だ。

十数年ぶりにあの人の言葉が理解できた気がした。

あれは夢のような時間。
でも確かにそこにあった。

私は溢れ出る涙を堪えきれなかった。
皆には、煙が目に入ったと嘘をついた。

あの頃は新品のまま持ち帰った線香花火。

今は何もない。

身も心も軽くなった私は笑顔で振り返り電車に揺られて帰るのだ。

一夏の君との思い出に身を馳せながら。





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