早稲田ロー2025年度入学 合格再現答案(免除なし)
黒閃を試験中決めたので半免ぐらいは来るかと思ったのですが、免除なしの合格でした。刑法の設問1で乙について承継共をかけなかったのが痛かったのと、憲法で空知太の規範をかけず原告の主張と被告の反論が弱かったのが原因かもしれません。前者は東大ローの過去問でもでてたので、しっかり復習せねば。
民法
第1問題1設問1について (以下、民法は法名省略)
1Dは所有権(206条)に基づく返還請求権としての土地明け渡し請求をすることが考えられる。
(1)まずDはAから甲土地を購入している(555条)ため、所有権を有し、Cは本件土地を占有している。
(2)これに対し、AからBが甲土地の使用貸借(593条)を受けていて、これを相続(896条本文)したとの反論が考えられるが、使用貸借契約は借主の死亡とともに終了する(597条1項)ため、かかる反論は認められない。
(3)次に、AからBが甲土地を借りたことについて、固定資産税をその対価と考えて賃貸借契約(601条)を結んだと構成し、その使用権原を相続したとの反論が考えられるが、Cは登記やその借地借家法上の対抗要件も備えていないため、605条の反対解釈により、かかる権限をDに対抗することができない。
(4)さらに、Cは甲土地の所有権を時効取得(162条1項)したとして、所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。
アもっとも、Cは上述のとおり他主占有の意思しか有さないAの占有を相続しているため、「所有の意思」が認められないため時効取得ができないとも思える。しかし、Cは甲土地をAが所有していると考えているため、「新たな権限」(185条1項)を相続により有したとして、固有の所有の意思に基づく占有を主張することができないか。
(ア)この点について、時効取得への占有者の期待と権利者の時効取得の防止の機会を図る利益の調和の観点から、相続が「新たな権限」にあたるかどうかは、①相続人が相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、②それが独自の所有の意思に基づくことが外形的に表現されているか否かによって判断すべきと解する。
(イ)これを本件についてみると、Cは相続してから乙建物を取り壊して丙建物を建築して丙建物に入居しているが、これによって相続財産を事実上支配しはじめたといえる。(①充足)また、新たにこのように建物を建てていることは独自の所有意思の発現ともいえ、元所有者のAに対して固定資産税を支払っているため、独自の所有の意思に基づくことが外形的に明らかといえる。(②充足)
(ウ)したがって、Cに「所有の意思」が認められる。
イそして、「善意」「平穏」「公然」は推定され(186条1項)、また占有開始と20年経過時の占有を主張すればよく、その間の占有は推定される(同2項)ところ、Cは2002年5月1日に丙建物を建築して入居して、現在まで占有を継続しているため、時効取得は認められる。
(5)もっとも、Aは2024年に甲土地をDに売却しているが、CはDに対してもかかる時効取得を対抗できるのか。
アこの点について、時効取得は原始取得であるが、時効取得後の第三者との関係では、元所有者からの二重譲渡類似の関係とみることができるため、かかる第三者は177条の「第三者」に当たり登記がなければ所有権を対抗できないといえる。
もっとも、かかる第三者が取引慣行に反する背信的悪意者の場合は、登記の欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反するといえ、登記なくして所有権を対抗できると解する。
イこれを本件についてみると、Dは甲土地の隣地に住んでいて、C及びAが長年住んでいることを知っていたといえ、時効取得について悪意と考えられ、さらにCとは不仲であり、またCに対して時価の2倍である3000万円という高額な値段で甲土地を売却する契約を持ちかけているため、取引慣行に反する背信的悪意者である。
2したがって、CはDに対して登記なくして甲土地の所有権を対抗できるため、Dの請求は認められない。
第2設問2について
1Eは所有権に基づき本件の請求をしていると考えられる。
(1)前述のとおりDは背信的悪意者であるところ、CはEに対しても登記なくして甲土地の所有権を対抗できるのではないか。
アこの点について、背信的悪意者は取引の無効を招来せず、承継人が配信的悪意者に当たるか否かは相対的に決すべきであるため、自己が配信的悪意者でない限り、背信的悪意者からの譲受人は「第三者」にあたると解する。
イ本件についてみると、EはCが丙建物に長年居住してきたことを知らず、Dから適当な説明もされていないため、Cの時効取得について善意であり、背信的悪意者には当たらない。
(2)よってCは登記なくして自己の所有権を対抗できない。
2したがってEの請求は認められる。
第3問題2設問1について
1まずAは甲債権をCに譲渡(555条)し、AからBに通知がなされている(467条1項)ため、Cからの請求は認められるとも思える。
しかしBとしては、譲渡制限特約(466条第3項)を甲債権について締結しているため、Cに対して履行の請求を拒むと反論することが考えられる。もっとも、Cは譲渡制限特約について悪意または重過失が存在しないため、かかる汎論は認められない。
2次に、Bとしては、Aに対して弁済(473条)をしたことを対抗事由として主張することが考えられ、かかる事由は対抗要件が備えられる2024年6月3日までに発生しているから認められ(468条1項)、1800万円の限度でBは履行を拒めると考えられる。
第4問題2設問2について
1Cは設問1と同様の請求をすることが考えられるが、設問1と異なり、Cは譲渡制限特約について悪意であったため、466条3項によりBはCに対して弁済を拒むことができると考えられる。
2そしてCは466条4項に基づき、Bに対してAに履行をするよう請求をすることができる。なお同項の趣旨は、債務者は譲渡人に対してもはや債権者であることを理由に履行を拒み、譲受人に対しては特約の存在について悪意であったことから履行を拒むというデッドロック状態を回避するところにあるから、「履行をしない」とは、債務者が債務不履行に陥っている必要はなく、字義通り債務者が履行をしない場合をいうと解する。
3また、Bは弁済をAに対してしたことを対抗することが考えられるが、かかる「事由」は2024年6月6日に行われており、対抗要件具備前の事由とはいえない。
(1)もっとも、468条1項の趣旨は、債権譲渡に関わらない債務者を保護するところにあるから、「譲渡人に対して生じた事由」に、対抗要件具備時までに抗弁発生の基礎となる事由が発生していれば、かかる事由も含まれると解する。
(2)本件についてみると、対抗要件具備は2024年6月4日に行われているところ、その前に甲債権の弁済期が到来し、弁済の抗弁発生の基礎となる事由が存在しているから、かかる「事由」も認められる。
(3)よってBは1800万円の限度で履行を拒めると考えられる。
刑法
第1設問1について(以下、刑法は法名省略)
1乙の罪責について
(1)乙は、甲がすでに欺罔行為を終了させてAに500万円を振り込ませた後に犯罪に加功しているから、欺罔行為については責任を負わず、乙に詐欺罪は成立しない。
(2)乙がATMから500万円を引き出そうとする行為は、B銀行の現金の占有を占有者の意思に反して自己の下に移す行為として「窃取」(235条)にあたり窃盗未遂罪(243条、235条)が成立し、後述のとおり甲と共同正犯(60条)とならないか。
アこれに関して、振り込まれた現金はもはや振込人の占有下を離れ、口座の名義人が自由にかかる金銭の処分権限を有するから、占有移転が認められないとも思える。もっとも、なおかかる口座のある銀行は誤振り込みがなされたおそれがある場合にはその取引を停止する義務を負うから、その範囲で銀行の現金の占有が認められると解する。
イよって、誤振り込みの認められる本件においても、500万円についてB銀行の占有が認められ、上記行為は窃取の実行の着手(43条本文)に当たる。
ウもっとも、B銀行のD名義ではなくE名義の口座に振り込みがなされているため、乙が500万円を引き出す可能性はなかったとして、未遂犯が成立しないのではないか。
(ア)この点について、行為不能の観点から、行為者及び一般人が認識した事情を基礎として、構成要件的結果発生の現実的危険性が認められる場合には、実行の着手を認めてよいと解する。
(イ)本件についてみると、行為者の甲や乙、及び一般人はAが上記の誤振り込みをしたことを知らなかったのであり、かかる事情を考慮しないと、乙が500万円を引き出す現実的危険性が認められ、実行の着手が認められると空きする。
エそして、後述のとおり甲と共同正犯となる。
(3)したがって、上記行為に窃盗未遂罪の共同正犯が成立し、乙はかかる罪責を負う。
2甲の罪責について
(1)甲がAに息子を装って電話をかけ、500万円を振り込ませようとした行為に詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立しないか。
ア上記行為は、公布の判断の基礎となる重要な事実を偽る行為といえ、「欺」く行為にあたり、これによってAは錯誤に陥って500万円を振り込んでいるが、D名義ではなくE名義の口座にお金を振り込んでいるため、完全な「交付」があったとは言えない。
イよって上記行為に詐欺未遂罪が成立すると思えるが、上述のとおりAは誤振り込みをしているため、実行の着手が認められないとも思える。もっとも乙の行為に窃盗罪を認める関係上、甲のかかる行為にも構成要件的結果発生の現実的危険が認められ、実行の着手も認められ、上記行為に同罪が成立する。
(2)甲の、乙と共同して500万円をコンビニエンスストアから引き出そうとした行為に窃盗未遂罪の共同正犯が成立するか。
アそもそも甲は実行行為を行っていないが、共同正犯が認められるか。
(ア)この点、共同正犯の処罰根拠は互いの実行行為を利用補充しあって結果に因果性を持つところにあるが、①正犯意思②共謀③共謀に基づく実行行為がある場合には、結果に因果性を持ち共同正犯が成立すると考えられる。
(イ)本件についてみると、甲は一連の計画の首謀者であり、乙にかかる計画を持ち掛けたのも甲であるから正犯意思が認められる。(①充足)次に、コンビニのATMから現金を引き出そうという共謀(②充足)があり、これに基づき乙が実行行為を行っている(③充足)から、共同正犯が成立する。
イゆえに、甲の上記行為に同罪が成立する。
(3)よって、甲の上記各行為に①詐欺未遂罪②窃盗未遂罪の共同正犯が成立し、両者は別個の法益主体に対するものであるため、併合罪(45条前段)が成立する。
第2設問2について
1甲の罪責について
(1)甲がクロロホルムをしみこませたハンカチを押し当てる行為に強盗殺人罪(240条)が成立しないか。
アそもそも、甲は借金の支払いを免れるために上記行為を行っており、上記行為は路上に頭をぶつけ死に至らしめる危険性を有する行為であるから、「暴行」(236条1項)にあたり「強盗」(236条2項)といえる。そして、Pに「死亡」という結果も生じている。(240条)
なお、236条2項が成立するには、被害者の処分行為は不要であるが、確実かつ具体的な利益移転に対して暴行が向けられていなければならないところ、甲がPを殺害すれば借金の返済を免れるため、確実かつ具体的な利益移転に向けて「暴行」が行われているといえる。さらに、刑事学上強盗の場面で人を殺害することが典型場面としてあり得るから、240条は故意ある場合にも適用されると解する。
イしかし、上記行為と結果の間には、Pの頭部を殴打するという丙の行為が介在しているところ、因果関係が否定されないか。
(ア)この点、因果関係は適正な帰責結果を確定させるものであるから、ⅰ条件関係を前提に、ⅱ介在事情の因果的寄与度ⅲ介在事情の異常性などを考慮して、行為の危険性が結果へと現実化した場合に因果関係が認められると解する。
(イ)これを本件についてみると、まず甲の上記行為がなければ死亡結果は存在せず条件関係は認められる。次に、丙の上記行為が直接的な原因となってPが死亡しているため介在事情の因果的寄与度が大きいともいえるが、被害者が死亡したと考えた犯人がそれを隠ぺいするために行動することは通常ありえ、かかる介在事情は異常とは言えないため、因果関係はなお認められるといえる。
ウそうだとしても、甲は上記行為により死亡したと考えているため、因果関係の錯誤が存在し、故意が阻却されないか。
(ア)この点、因果関係も故意の認識対象であり、認識した事実と発生した事実が同一構成要件内にある場合には、故意が阻却されないと解する。
(イ)これを本件についてみると、甲の主観においてPはクロロホルムをかがせる行為により死亡しており、上記のとおり因果関係が認められ、客観的には丙が殴打した行為により死亡しているから、主観と客観において同一構成要件内で符合するといえ、故意は阻却されない。
エゆえに、甲の上記行為に同罪が成立する。
(2)甲の、丙にPの頭部を殴らせた行為に強盗殺人罪が成立するか。
アこの点、甲は実行行為を行っていないが、上記犯罪の共謀があり、共謀に基づく丙の実行行為もあり、甲は自ら丙を呼んで上記行為を行わせているため、同罪の共同正犯が成立するとも思える。
イもっとも、甲はすでにPが死亡していると考えていたため、かかる行為の故意が認められず、同罪は成立しない。
(3)では、上記行為に死体損壊罪(190条)が成立するか。
アこの点、構成要件は実質的に考えるべきであるため、認識した犯罪と発生した犯罪の保護法益、行為態様において共通性が認められる場合には、重なり合いが認められる限度で犯罪が成立すると考えられる。
イこれを本件についてみると、甲が認識した犯罪は死体損壊罪であり、発生した犯罪は強盗殺人罪であるところ、前者の保護法益は国民の宗教感情であり、甲社の保護法益は人の生命身体の安全であるから、重なり合いが認められるとはいえず、上記犯罪も成立しない。
(4)なお、上記行為には、「過失」があるといえ、過失致死罪(210条)が成立する。そして、共同して実行行為を行ったものとの間では、認識した犯罪の間に重なり合いが認められる場合にその範囲で共同正犯が成立すると考えるから、後述のとおり丙には強盗殺人罪が成立し、両者の保護法益は人の生命の安全というところで共通するから、過失致死罪の範囲で両者は共同正犯となる。
(5)よって甲の上記各行為に①強盗殺人罪②過失致死罪が成立し、両者は同一の法益に向けられたもので包括一罪となる。
2丙の罪責について
(1)丙のPの頭部を角材で殴る行為に強盗殺人罪が成立するか。
アそもそも丙はPに借金を負っていないため「強盗」とはいえないが、甲という身分者を通じて65条1項により「強盗」といえないか。
(ア)そもそも、文言上同項は真正身分犯の成立と科刑を示した規定と解する。また非身分者も身分者を通じて法益侵害ができるから、「共犯」には共同正犯も含まれる。そして、強盗殺人犯は、その財産犯的性格を重視して、「強盗」という真正身分を有する者のみが行える真正身分犯と解する。
(イ)よって本件でも、丙は甲という身分者を通じて同罪の実行行為を行える。また、故意がある場合でも認められるのは前述したとおりである。
イよって上記行為に同罪が成立し、前述のとおり過失致死罪の限度で甲と共同正犯になる。
(2)よって丙はかかる罪責を負う。
憲法
第1設問1について(以下、憲法は法名省略)
1本件施設の土地・建物を無償で貸与している処分について取り消し事由があり(地方自治法242条の2第1項2号)、当該行為が「宗教上の組織」に対する「公の財産」の支出にあたるとして89条違反の事由がある。
(1)そもそも本件施設として利用されている建物はS市の財産に帰属するものであり「公の財産」といえる。
(2)では、本件施設を利用している団体は「宗教上の組織」にあたるか。
アこの点、「宗教上の組織」に当たるか否かは、宗教と国家の関わり合いが相当程度を超える場合か否かを検討すべきと考える。
イ本件についてみると、本件施設の内部には、メッカの方向に幾何学模様の壁紙を張られていて、メッカの方向を礼拝者に対して示すミフラーブも設置されている。さらに、イマームが説教の際に使用する説教壇も設置されていて、一見すると宗教上の行為をするための施設といえる。そうだとすればかかる施設を使う団体もあきらかに宗教上の団体といえ、かかる団体に公の財産を支出する行為は国家と宗教の関わり合いが相当程度を超えるものといえ、89条違反の事由が存在する。
第2設問2について
1被告の反論
(1)そもそも、「宗教上の組織」にあたるかどうかは、福祉主義(25条)の観点から厳格に解するべきであり、問題となる行為を外形的に判断してその当否を決するべきである。
本件では、本件施設について「モスク」と書かれた看板が撤去されており、外観は通常の木造の倉庫であるから、かかる施設に対して土地などを貸し出しても一般人の宗教的感情などを害さないといえ、「宗教上の組織」にはあたらず、89条の違反事由はない。
(2)また、原告の主張する判断方法によったとしても、本件施設は地域住民との交流の場ともなっていて、イスラム教徒の青少年の発達の場ともなっているから、宗教的色彩が薄れていて、また地域住民にとっても有益な場所となっているとして、かかる施設に対して土地などを貸しても国家と宗教の関わり合いの程度が相当程度を超えるとはいえない。
(3)よって原告の主張は認められない。
2私見
(1)本件の貸付行為が「宗教上の組織」への支出行為に当たるかの判断基準をいかに解するか。
アそもそも、89条の趣旨は、国家と宗教の分離を制度上保障することによって、間接的に個人の信教の自由(20条1項)を保障するところにある。そして、完全に国家と宗教の分離を目的とすると、宗教と関わり合いがあることによってかえって保障を受けられなくなり、福祉主義の実現の観点から妥当でない。やはり、社会的、文化的諸条件に照らし、国家と宗教の関わり合いが相当程度を超える場合に限って政教分離原則を適用すれば足りる。そして、当該行為の目的が宗教的意義を有し、その効果が特定の宗教の援助、助長、促進、抑圧または干渉となる場合に政教分離原則に反し違憲となると解する。
イ本件についてみると、たしかに原告の主張するとおり、本件施設は内部にミフラーブや説教壇、メッカの方向を示す幾何学模様の壁紙などイスラム教の宗教施設としての様相を呈するため、宗教色が強いとも思える。もっとも、本件施設では、イスラム教徒の児童のための補習を行う場所としても利用されているほか、料理教室なども開講することにより、非イスラム教徒の住民にとっても交流の場所となるような空間を提供しているから、その宗教的色彩は強くないといえる。さらに、イスラム教徒の少年が非行に走ることを防止する役割も担っており、地域住民の生活にとっても有益なものと考えられる。以上のことを考慮すれば、本件施設は世俗の物として、多くの住民にとって利益をもたらすものと考えられるから、かかる施設に対する土地などの貸付行為は目的に関して宗教的意義を持つものではなく、その効果として特定の宗教の助長、援助、促進、抑圧または干渉になるものではないため、本件の貸付行為について89条違反があるとは言えない。
(2)よってXの主張は認められない。
民訴法
第1設問1について(以下、民事訴訟法は法名省略)
1そもそも基準の明確性の観点から訴訟物は請求権ごとに考える。本件についてみると、前訴の訴訟物はXの本件土地の所有権確認請求権および所有権に基づく妨害排除請求権としての本件土地の所有権移転登記手続請求権であり、後訴の訴訟物はYの本件土地の所有権確認請求権である。
2(1)そして、確定判決について生じる後訴での通用力たる既判力は審理の簡易化、弾力化の観点から、訴訟物の存否に対する裁判所の判断について生じる(114条1項)。また、事実審の口頭弁論終結時までは当事者は訴訟資料を提出することができ、かかる時点まで当事者の手続き保障が及んでいたといえるから、時的範囲は事実審口頭弁論終結時といえる。さらに既判力の主観的範囲は当事者の間に原則として生じる(115条1項1号)と解する。また既判力は前訴と後訴の訴訟物が同一、先決、矛盾関係にある場合に作用すると考えられる。
(2)本件についてみると前訴について棄却判決が出された場合の既判力は事実審の口頭弁論終結時の、Xの本件土地の所有権確認請求権および所有権に基づく妨害排除請求権としての本件土地の所有権移転登記手続請求権の不存在について生じるといえ、これは後訴の訴訟物の何ら同一、先決、矛盾関係にあるとは言えない。よって、裁判所は通常通り後訴について審理すべきである。もっとも、判決理由中の判断における争点効は明文がないため認めるべきではないが、後訴において当事者が前訴と実質的に矛盾する内容などを主張する場合には、信義則(2条)上排除される可能性がある。
これに対して、前訴について請求認容判決が出された場合、既判力は事実審の口頭弁論終結時の、Xの本件土地の所有権確認請求権および所有権に基づく妨害排除請求権としての本件土地の所有権移転登記手続請求権の存在について生じるといえ、後訴の請求認容判決が出された場合、訴訟物との関係において一物一権主義を介して矛盾関係にあるといえる。そうだとすれば既判力が及ぶ場合といえ、裁判所は後訴において前訴判決の内容と矛盾する内容の主張を排除すべきと考えられる。
第2設問2について
1訴訟資料の提出と収集を当事者の権能かつ責任とする建前たる弁論主義によって、裁判所は当事者が主張していない事柄を判決の基礎とすることができない。(弁論主義第一テーゼ)
では、いかなる事実に弁論主義が適用されるか。
(1)この点について、当事者意思の尊重と不意打ち防止という弁論主義の根拠と機能から、訴訟の結果に直結する主要事実について弁論主義を及ぼせば十分である。また、証拠と共通の働きをする間接事実や補助事実についてまで弁論主義が及ぶとすると、自由心象主義(247条)と抵触する可能性があるため、弁論主義は主要事実について及ぶと解する。
(2)本件についてみると、本件判決のAB間における売買およびBX間の贈与、CY間の相続の事実は当事者が主張しており、弁論主義に反しない。では、BC間の贈与という事実は当事者が主張してないのであり、かかる事実を認められるかについて、かかる事実はBX間の贈与について理由をつけて否認する積極的否認に当たり、BX間の贈与という事実と両立しない、Xが主張する事実を否認するものである。よって主要事実には当たらず、かかる事実を認めることは弁論主義に反しないといえる。
刑訴法
第1(1)の証拠について
1問題となっている証拠は、Xの犯人性を争うための物であるところ、刑罰権の存否に関する事項を証明するための証拠は証拠能力を有するものでなければならない。(厳格な証明、317条)
2それにもかかわらず、Bの供述録取書は、伝聞証拠(320条以下)として証拠能力が否定されないか。
(1)そもそも、供述証拠は知覚、記憶、伝聞の過程を経るところ、その各過程に誤りが混在する危険性があるにもかかわらず、公判廷外の供述は反対尋問等(憲法37条2項前段)によってその真実性を担保することができない。そこで、内容の真実性が担保されない証拠の証拠能力が否定されるのである。
よって、伝聞証拠とは①公判廷外の供述であって、②供述内容の真実性が問題となる証拠をいうと解する。
(2)本件についてみると、たしかにBの供述録取書はその内容の真実性が証明されてはじめてAの証言の証明力が争えるものであり、伝聞証拠に当たるとも思えるが、弾劾証拠(328条)にあたり証拠能力が認められないか。
アこの点について、同条は同一人の矛盾供述がある場合にはその存在自体を証明することによって公判廷での供述の証明力を減殺することができるから、同一人の供述であることを注意的に規定したものと解する。また、無制限に証拠能力を肯定すると伝聞法則が骨抜きになってしまう。そこで、同一人の矛盾供述である場合に限り、弾劾証拠に当たり証拠能力が認められると解する。
イ本件についてみると、当該証拠はBの供述録取書であるから同一人の矛盾供述とは言えず、弾劾証拠には当たらない。
3よって、当該証拠は証拠調べをすることができない。
第2(2)の証拠について
1かかる証拠も証拠能力が認められなければ証拠調べをすることができないところ、Kの捜査報告書であるため、伝聞証拠に当たり証拠能力が認められないとも思える。
(1)もっとも、捜査報告書の中には、Aの供述が含まれており、かかる部分の供述者は公判廷での供述者と同一人物であり、弾劾証拠に当たるため、証拠能力が認められる。もっとも、捜査報告書にはAの署名押印が認められず、証拠能力が否定されないか。
アこの点について、弾劾証拠として証拠能力が認められる部分は矛盾供述をしたものの発現部分のみであり、その供述を他人が聞き取った場合、かかる部分に知覚、記憶、供述の過程が含まれることになるから、別途かかる部分の録取の正確性は問題となる。よって、かかる録取の正確性が担保されない証拠は証拠能力が否定されると解する。
イ本件についてみると、本件の捜査報告書には供述者のAの署名押印がなく、Kの録取過程の正確性を担保する事情もないといえ、伝聞証拠に当たり、証拠能力が認められない。
(2)よって本件捜査報告書の証拠調べは認められない。
2もっとも、別途KやAがAの供述の録取の正確性を公判廷で証言した場合などには、証拠能力が認められ証拠調べができると考えられる。
商法
1(1)①の方法をとるにあたって、まずかかる方法は甲社にとって自己株式の取得に当たるため、155条の3号以外の事由も存在しないことから、156条1項各号の要件に該当する事由を株主総会の決議によって決めなければならない。また157条1項各号の事由を取締役会決議によって定める必要もある。(同1項、2項)そして、かかる事由を定めた場合、株主総会の決議によって、特定の株主に対してかかる事項の通知ができる(160条1項)。また、かかる特定の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることの請求ができる旨を、他の株主にも通知する必要がある(同3項、2項)。かかる通知の例外(161条)は、本件において市場価格より高い価格で買い取ろうとしているから、適用されない。また、相続人Dから株式を取得する場面であるため、162条の適用があり160条2項の通知が省略されないかが問題になるが、甲社が公開会社(同1号)であるため、かかる例外の適用はない。
また160条2項、3項を特定の株主からの取得請求に際して適用しない旨の定款を定めることもできる(164条1項)が、株式を有する株主全員の同意を得なければならない。(同2項)
(2)次に財源規制について、株主からの自己株式の取得は、効力を生ずる日の分配可能額を超えてはならないため、かかる点について注意すべきである(461条1項3号)
(3)①の方法をとるメリットとして、Dは甲社の経営や業績には関心がなく、また相続税の支払いにも窮している現状を踏まえれば、Dから株式をほぼ確実に買い取れるという点が考えられる。対して、かかる方法は上記のとおり手続き規制も多く、会社の財産保護と取引安全の調和の見地から、手続き規制に違反した自己株式の取得は原則無効であり、譲渡人が善意であった場合に限り取得が有効になると考えられるため、それらの手続きを適正に行わなければならないというリスクがある。
他方、財源規制については、違反した場合株主は本来ならば得られない利益を得ているため自己株式の取得は無効となると解するが、②の方法をとった場合でも後述のとおり、同様に適正に履践することが必要なため、①の方法をとった場合のみのリスクとはならない。しかし、財源規制違反があった場合、取締役はその支払いの責任を負うというリスクは存在する。
2(1)②の方法をとるにあたっては、①と同様に甲社にとって自己株式の取得に当たるため、155条の3号以外の事由も存在しないことから、156条1項各号の要件に該当する事由を株主総会の決議によって決めなければならない。また、公開買い付けの方法によるため、165条1項により、157条から160条までの規定は適用されない。さらに、甲社は取締役会設置会社であるため、公開買い付けを取締役会において決することができる旨を定款で定めることができ、かかる場合には156条1項の規定について取締役会決議によって定めることができる。
(2)財源規制については①の方法と同様に責任を負う。(461条1項2号)
(3)②の方法によるメリットは、165条2項の定款を定めた場合には取締役会決議によって取得の内容を定めることができ、迅速に内容を決めることができる。また、①の方法より取得手続が少なく、無効になる可能性が低いということも考えられる。他方で、確実に株式を取得できるかわからないという点はリスクとして考えられるといえる。