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2025年入学 中央ロー半免再現答案


総評

2025年度入学の中央ローは半免でした。憲法を新しい人権として構成し保障の範囲外としたこと、刑法で字数制限を完全に忘れていて設問2を書いていないこと(病気)、民訴で設問1について請求の拡張に全く気付かず全部点数を落としたこと、刑訴で場所に対する令状で所持物を捜索差押できるかということなどの論点を落としているにもかかわらず、半免をいただけるのだという相場を今後の受験生の方に知ってほしくてnoteを作成しました。お時間があればご確認ください。
※評価の基準 A最高 B良好 C一応の水準 D悪い E最低

憲法


感想

レペタ事件を参照すべきだったのに13条によって構成し、しかも保障の範囲外とした(?)。かなり戦犯科目。しかし事実は結構拾えたので何とか耐えていないか。主観的評価C

本文


第1設問1について
1条例14条の制定は「法律の範囲内」(憲法94条)にあるものとはいえず、違憲とならないか。
(1)そもそも、条例が「法律の範囲内」にあるかどうかは、条例と法律の規定文言のみを比較するのみでなく、その趣旨、内容を比較して両者の間に矛盾抵触がないかを判断すべきであると解する。
(2)これを本件についてみると、条例14条は、傍聴人が傍聴席において写真、映像等を撮影し、又は録音等をすることを禁止し、例外として、議長が公益上特に必要と認める場合は、これを許容することを定めている。すなわち、議会の様子を撮影などすることを原則として禁止し、それらの行為の拒否を議長の裁量にゆだねている。他方、地方自治法104条は、普通地方公共団体の議会の議長の、議場の秩序を保持する権限を定めているが、具体的な権限行使の内容は同条には定められていない。また、129条は議長が、議場が騒然として整理することが困難であると認めるときは、その日の 会議を閉じ、又は中止することができることを定めているが、これは議場が騒然としているときの権限行使を定めたものであり、議会の撮影等を禁止する趣旨ではない。また第130条は、傍聴人が公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる旨を定めている。そのうえ同2項は、傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができるとしている。さらに同3項は前2項に定めるものを除くほか、議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならないことを規定している。これらは、議会の撮影等を禁止する趣旨ではなく、「議場の秩序を保持する権限」の中にも、議会の撮影等を禁止する権限は含まれていないといえるため、両者の趣旨や内容を比較すると、両者の間に矛盾抵触があるといえる。
2ゆえに、条例14条の制定は「法律の範囲内」にあるものではなく、違憲となるといえる。
第2設問2について
1条例14条は傍聴人の議会を撮影・録音をする自由を侵害し違憲とならないか。
(1)そもそも、上記自由は保障されているかが問題となるも、直ちに規定されている人権によっては保障されないとも思えるため、13条によって保障されないか。
アこの点について、人権のインフレ化を防止するため、13条は個人の人格的生存に不可欠な権利のみを保障していると解する。
イ本件についてみると、傍聴人の議会を撮影、録画する自由はたしかに、住民自治、団体自治にも欠かせない地方自治の本質ともいえる、住民の生活に直結する議会の内容を機械的に保存できる権利ということで、人格的生存に必要な権利であるとも思える。もっとも、議会の内容はインターネットでライブ中継されており、これを録画等することにより保存できるといえ、かかる自由は個人の人格的生存に不可欠な権利とまでは言えない。
(2)よって上記自由は憲法上保障されていないとも思える。
2もっとも、憲法上保障されていない権利であっても、憲法の個人の基本的人権の尊重や平等原則を定めた精神に照らし、行政側の処分が必要性、相当性などを欠き、または平等原則に反する場合などは、裁量の逸脱濫用として違法になる場合があると解する。
(1)本件では、確かに前述のとおり問題となっている権利は住民自治、団体自治にも欠かせない地方自治の本質ともいえる、住民の生活に直結する議会の内容を機械的に保存できる権利であり、自己実現や自己統治の価値も有する、重要な権利とも言え、その審査は厳格に解するべきである。もっとも、本会議を撮影等した傍聴人が、動画投稿サイトやSNSで、議員が目を閉じた瞬間や議員同士で話し合っている場面を恣意的に切り取って、「居眠りだ」・「話をまじめに聞いていない」などと字幕をつけて中傷する写真や動画を投稿する事例が増えてきている。このような議会の内容を判断するという本来の撮影等の目的とは異なった撮影が増えるおそれがあり、一律規制の必要性は高いといえる。また、その投稿動画では、他の傍聴人の容貌等が映り込んでいることもあったという。そして不正確・不公正な情報の拡散によって市政に関する市民の判断材料の提供過程に歪みが生じている、撮影等する傍聴人の増加により議員や参考人・関係人の発言に圧力・萎縮的効果が生じている、他の傍聴人のプライバシー等を侵害しうる撮影等の増加により傍聴を差し控える者が生じている等の意見・ 懸念が表明されてきた。かかる事情を考慮すれば、撮影等を禁止することは必要性、相当性が認められる。そのうえ、前述のとおり、議会の内容はインターネットでライブ中継を録画等すれば機械的に保存できるといえ、相当性はその点からも認められる。よって裁量の逸脱・濫用が認められるとはいえず、上記自由の侵害を理由としては条例14条は違憲とはならない。

民法


感想

これは結構できたと思う。終わった後の感想を聞くと意外と設問1の「第三者」の論点に気づかなかった人も多かったのか。民法はどのローも難しいと考えられる。主観的評価A

本文


第1設問1について
1Aは所有権(206条)に基づきCに対し甲土地明渡請求をすることが考えられる。
(1)AはBとの間で甲土地の売買契約を結んだが(555条)Bがその債務を履行せず、Aは適法に債務の履行を催告(541条本文)し、解除をしているため、所有権を有する。
(2)これに対してCは自己が「第三者」(545条1項但書)に当たるとの反論をすることが考えられる。かかる汎論は認められるか。
アこの点について、解除の趣旨は契約の拘束力から債権者を開放するところにあるから、545条1項本文は解除の遡及効を定めたものと解する。
そして、545条1項但書の趣旨は、解除の遡及効によって権利を害される第三者を保護するところにあるから、「第三者」は契約の解除前に、解除される契約から新たに独立した法律関係を有するに至ったものをいうと解する。
そして、何らの帰責性もない解除権者の犠牲の下、第三者は保護されるのであるから、第3者は権利保護要件としての登記を備えることが必要であると解する。また、第3社の善意悪意は契約の効力を左右しないから、債務者の債務不履行についての悪意という要件は扶養と解する。
イ本件についてみると、Cは契約の解除前に、甲土地の賃貸借契約を締結し、賃借権という新たな独立した法律関係を有するに至ったといえる。また、Cは甲土地上に乙建物を建て、その所有権移転登記を具備しているから、借地借家法10条によって権利保護要件としての登記を備えたといえ、「第三者」に当たるといえる。
2したがって、Cは適法な占有権限を有しAの請求は認められないといえる。

第2設問2について
1AはCに対して賃料支払い請求をすることが考えられるが、CはAC間に賃貸借契約が存在せず、かかる請求はできないと反論することが考えられる。かかる汎論は認められるか。
(1)これに関して、土地の所有者が解除を土地の賃貸人に対して対抗できない場合に、両者の関係がどうなるかが問題となるが、本件についてみると、①AC間で賃貸借契約が新たに始まるという法律関係と②BC間で賃貸借契約が存続するという法律関係が考えられる。
しかし、①の法律構成に関しては、賃貸人がCの承諾なく変更されるというCにとってのデメリットが存在するとも思えるが、賃貸人がだれであるかは賃借人にとってそこまで重要ではないため、かかるデメリットは問題とならない。そして、Aを賃貸人とした方が、甲土地の所有権を有する点で、賃貸人の無資力の危険などを回避できるため、Cにとって有利であると考えられるから、①の法律構成をとるべきである。
(2)そして、AはCに対して2024年3月18日に甲土地の明け渡し請求をしているから、この時からBC間の賃貸借は他人物賃貸借になったといえ、Aは4月分の賃料を請求できるとも思える。
2もっとも、Cとしては605条の2の登記の移転をしていないから、賃貸人の地位をCに対抗できないとして賃料の請求ができないとの反論をすることが考えられる。
(1)これに関して、建物の売買契約を解除した場合、復帰的物権変動を観念できるから、実質的に建物を譲渡したといえ、605条の2を類推適用でき、Bは甲土地について所有権移転登記の抹消登記をしているから、登記の移転も観念できるといえる。
(2)よってAは賃貸人の地位の移転をCに対抗できるといえる。
3よって、AはCに対して上記の請求ができるといえる。

刑法

感想

大やらかし科目。字数制限いらないよ(´;ω;`) 完全に気付かず設問2をふっ飛ばすという暴挙。設問1はそれでもけっこうできたと思うから主観的評価C

本文


第1設問(1)について
1甲の罪責について
(1)甲がテレビを収納棚に隠し、Aの胸を1回強く押した行為および「手を離さないと殺すぞ」と乙と脅した行為に強盗罪の共同正犯(238条、236条1項、60条)が成立するか。
アまず、事後強盗罪が成立するには「窃盗」に当たる必要がある。
(ア)そして「窃取」(235条)したと言えるには他人の占有下にあるものを、占有者の意思に反して自己または第三者の占有下に移すことをいうが、甲はテレビを収納棚の下に隠しただけであり、自己の占有下に移したといえるか。
これに関して、収納棚はトイレの洗面台下部に設置してあり、隠した甲以外の者はこのようなところに商品のテレビがあるとは通常考えず、あとで甲が袋を買ってテレビをとりにくれば簡単にテレビの占有を回復できるところにあるといえるから、かかる行為により甲はテレビを自己の占有下に置いたといえる。
(イ)もっとも、甲はテレビの占有を完全に自己の下に移転する前に上記暴行を行っているから窃盗未遂罪が甲に成立するといえるが、窃盗未遂でも「窃盗」にあたる。
(ウ)次に、甲は「逮捕を免れ」るために、上記暴行を行っているが、強盗罪は相手方の反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する犯罪であるから、「暴行または脅迫」は窃盗の機会に行われる必要がある。
そして、窃盗の機会に行われたかどうかは、暴行または脅迫と窃盗行為の時間的場所的接着性、第三者による追跡の有無等で判断すべきと解する。
本件についてみると、上記暴行と窃取行為は同じ店内で行われており、甲は店外にも出てないから時間的場所的接着性が認められ、袋を購入した時点からAが甲を追跡しているため、なお上記暴行は窃盗の機会に行われたといえる。
(2)そして、Aは反抗を抑圧されているから、「暴行または脅迫」が認められるが、自己強盗罪は財産犯的性格を有するから、その既遂未遂は財物の占有移転の有無で判断するから、強盗未遂罪が上記の行為に成立し、後述のとおり乙と共同正犯となる。
2乙の罪責について
(1)乙のナイフをAに突きつける行為に事後強盗未遂罪の共同正犯が成立するか。財物奪取には関与しておらず、暴行行為にのみ関与した者に財物奪取行為を帰責できるか問題となる。
アこの点について事後強盗罪の財物を奪取する財産犯の性格を重視し、事後強盗罪は窃盗の身分を有する者のみが実行できる真正身分犯であるといえる。そして非身分者も身分者を通じて犯罪を実行できるから、65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる。また65条の文言上65条1項は真正身分犯の成立と科刑を示したものであると解するから、乙も窃盗である甲とともに暴行行為を行っているから、同項により上記行為に強盗未遂罪の共同正犯が成立する。(30行の行数制限によりここで終了 途中答案)

民事訴訟法

感想

大やらかし科目その2。設問1を請求の追加的変更の問題として構成しなかった。これは0店だと思う。本番中に143条の問題ではないかとは少し頭をよぎったが、そっちで構成しなかったのはとても悔やまれる。設問2は二重起訴禁止の原則の趣旨に触れないかということまで考えたため、結構よかったのではないかと思う。その意味で主観的評価C。


本文


第1設問(1)について
1残部請求は二重起訴の禁止の原則(142条)に触れ認められないのではないか。
(1)この点について、同条の趣旨は被告の応訴の煩、訴訟不経済、矛盾判決のおそれの防止にある。そこで、両請求の①当事者の同一性および②審判対象の同一性が認められる場合には、二重起訴の禁止の原則に触れ認められないと解する。
(2)これを本件についてみると、両請求の当事者はXとYで同一である(①充足)が、審判対象が両請求で異なる(②不充足)ため、二重起訴の禁止の原則に反しない。また、同じ裁判所に残部請求が提起された場合には、通常、裁判所は併合して審理し、上記趣旨には反しないと考えられる。
2よって上記請求は認められる。
第2設問(2)について
1別の裁判所に提起された場合設問1と同様に二重起訴の禁止の原則に触れ認められないのではないか。
(1)設問1と同様に、残部請求と別訴は、当事者は同一であるが、訴訟物が異なる(②不充足)ため、かかる原則に反しないとも思える。
(2)そして別訴の既判力が残部請求に作用する場合には上記趣旨に反するため認められないとも思える。
アここで、既判力は審理の簡易化弾力化のため、訴訟物の存否に関する裁判所の判断について生じると解し、両請求の訴訟物が①同一②先決③矛盾関係にある場合には作用すると解する。
イ本件では、両請求の訴訟物は同一ではなく、また別訴の裁判所の判断によって残部請求の存否が決まるとも思え先決関係にあるとも思えるが、別訴の訴訟物の存否は判決理由中の判断にすぎず、これに既判力を及ぼさせると既判力が認められる上記根拠に反するため、両者の訴訟物は先決関係にもない。そして、両請求は矛盾関係にもないため既判力は作用せず、上記の二重起訴禁止の原則の趣旨には反しないとも思える。もっとも別訴と残部請求は同一の損害賠償請求権の内容をなすものであり、両請求において当事者が矛盾する内容を主張する場合には矛盾判決のおそれが存在するといえ、上記原則の趣旨に反する。よって残部請求の提起を受けた裁判所は別訴が継続する裁判所に残部請求を移送するべきであり、その場合両請求は通常併合審理されるため、両請求は二重起訴禁止の原則に反しない。

刑事訴訟法

感想

これも若干やらかした科目。いつも場所を対象とする令状で所持品を対象とした捜索差し押さえができるかという論点を忘れる。今後は忘れないようにしたい。主観的評価C

本文


第1下線部①の行為について
1下線部①の行為は、甲らの承諾を得ない行為であり、甲らのプライバシー権という重要な権利を侵害する行為であり、相手方の黙示の意思に反し重要な権利を実質的に侵害する行為といえ「強制の処分」(197条1項但書)にあたり原則として違法となるとも思える。
(1)もっとも、かかる処分は「必要な処分」(222条1項本文、111条1項)に当たり許容されないか。
アこの点について、捜査比例の原則(197条1項本文)から、「必要な処分」とは、①令状執行目的達成のため必要であり、②社会通念上相当なものをいうと解する。
イこれを本件についてみると、本件令状の罪名は覚せい剤取締法違反であり、覚せい剤はトイレに流すことなどにより簡単に処分できるため、甲らの許可をとってから室内に入ると証拠隠滅を甲らに図られる可能性があった。また、甲方には常に複数の者が常駐していることがわかっていたのだから、証拠隠滅の蓋然性は高まるといえ、かかる方法をとる必要性がなお認められる。さらに甲が覚せい剤を入手してCに転売する予定も把握しているのだから、その嫌疑の存在も認められるため、その証拠隠滅を防ぐ必要性があった。(①充足)一方、宅配便の配達と同時になだれ込むことは、鍵を壊すなど不相当な態様ではなく、また覚せい剤取締法の刑罰の重さを考慮すればなお相当な態様であるといえる。(②充足)
よってかかる処分は「必要な処分」といえ認められると解する。
2もっとも、かかる「必要な処分」は令状の提示前に行われているのであるが、これは許容されるか。
(1)この点について、令状提示(22条1項本文、110条)の趣旨は手続の公正を担保し、もって被疑者の人権に配慮するところにあるため、原則として令状の事前提示が必要となる。
もっとも、捜査の実効性を図るため、①令状執行目的達成のために必要であり、②短時分の先行にとどまるときは、令状の提示前の「必要な処分」も許容されると解する。
(2)これを本件についてみると、前述のとおり令状提示をしてから前記処分をしていると、証拠隠滅を図られてしまうから、令状執行目的達成のために必要であり(①充足)前記処分をしてから一分後に令状提示を行っているから短時分の先行にとどまるといえる(②充足)
よって、かかる処分は許容され、下線部①の行為は適法である。
第2下線部②の行為について
1まず、本件小包を開封した行為は、「封を開」(222条1項本文、111条1項前段)く行為として有効である。
2もっとも、本件小包は捜索差押中に甲方に届いたものであるが、かかるものについても令状の効力が及ぶか。
(1)この点について、令状主義の趣旨は、「正当な理由」(憲法35条1項)についての裁判官の実質的認定を確保することを通して、捜査機関の捜査範囲を事前に認定された範囲に抑制するところにあるが、裁判官は捜索差押の対象の場所に対象物が存在する蓋然性も令状発布の際に考慮するから、捜索差押中に対象の場所に届いた物も捜索差し押さえの対象になると解する。
(2)よって、本件小包も捜索差し押さえの対象になる。
3よって下線部②の行為も適法である。


商法

感想

論点らしい論点が思いつかず若干焦った。代理権の濫用(民法107条)にあたるのか。これは難しい問題である。主観的評価B

本文

第1設問(1)について
1(1)まず、AはP社のために300万円を借りているから、利益相反取引には当たらない。
2(1)そしてAは代表取締役であるところ、代表取締役は原則として会社の業務に関する一切の権限を有する(349条4項)。そして、この権限に加えた制限は善意の第三者に対抗することができない。(同5項)この点、かかる制限を知らないことについて重過失のある者は、制限について悪意の者と同視できるため、「善意」には、知らないことについて重過失のあるものも含まれると解する。
(2)そして、本件では200万円を超える取引をするには取締役会による承認が必要であるという内規が定められており、これが「制限」に当たるといえるところ、かかる内規に違反した300万円の借り入れは適法な授権を欠いており、原則として甲社に帰属しないと考えられるが、Q銀行がかかる制限について悪意または知らないことについて重過失がなければ、同5項により貸し付けた300万円の返済を求めることができる。
第2設問(2)について
1まず、Aは300万円の借入時にはP社のためにする意思を持っているから、利益相反取引には当たらない。
2次に、Aは借入金を自己の遊興費として使用しているが、前述のとおりAは300万円の借入時にはP社のためにする意思を持っているうえに、内規違反の行為をしており代理権の範囲外の行為であり民法107条の適用はない。
3もっとも、内規違反の行為をし、さらに自己の遊興費として借入金を消費する行為は善管注意義務(会社法330条、民法644条)に反し任務懈怠(会社法423条1項)にあたり、Aはかかる責任を負わないか。
(1)そもそも、Aは「取締役」であり、上述のとおり、Aに任務懈怠が存在する。そして、P社がQ社に借入金を支払わなければならないから、3000万円の「損害」が生じている。さらに、両者の間に因果関係が存在する。また、428条1項の反対解釈により、取締役は任務懈怠について故意または有過失が必要なところ、Aは故意によってかかる任務懈怠を行っている。
(2)したがって、Aはかかる責任を負う。
4また、B及びCも「取締役」であり監視義務(362条2項2号参照)を負うところ、Aの上記任務懈怠を過誤したことは、かかる義務に違反し任務懈怠を構成しないか。
(1)アそもそも、取締役は取締役会の招集権者であり(366条1項)、取締役会の非上程事項についても監視義務を負い、必要に応じて取締役会を招集する義務を負うと解する。
イ本件についてみると、BおよびCはかかる監視義務に反しAの任務懈怠を見過ごしているから、任務懈怠が認められる。
(2)また損害も上述のとおり生じている。そして、故意または有過失が認められるか問題となるも、BはAが無断で借り入れを行おうとしていることに気づいていたため、かかる任務懈怠についてすくなくとも有過失が認められるが、CはAの独断行為に全く気付かず、気づかなかったことは不注意ではなったため、有過失及び故意は認められない。
5したがって、AおよびBは423条の責任を負うが、Cはかかる責任を負わない。
第3設問(3)について
1P社は非公開会社であり、Dは「株主」(847条2項)であるから、「役員等…の責任を追及する訴え」(同1項)を提起することができる。


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