最近の生活
2年前に付き合っていた人とまた一緒に過ごすようになって、1ヶ月ほどが経った。
当時はもう二度と恋人としては関わらないだろうと思っていたし、許せない部分も見たくない部分もそのまま蓋をして、まるで逃げるようにして別れた。
彼といると自分がいい子でいられなくなる。彼の気持ちを尊重できない自分、求めるばかりで何も返せない自分、喧嘩になった時どうしようもなく腹を立てる自分、そういう見たくない自分と対峙するのが辛くて辛くて、相手のせいにして目を背けていたのかもしれないと今となっては思う。
母を亡くしたばかりだった当時の私は、彼に依存しきっていた。文字通り一人では生きていけない状態だったし、いつか見放されたらどうしようと不安で束の間のお別れすら嫌だ嫌だと縋りついた。夜も眠れないから彼に頻繁に電話しては泣いて、困らせてばかりだった。あの頃の自分は思い返すのも辛い。
彼はそんなどん底の私を懸命に支えてくれた。精神的に不安定で通学途中によく発作を起こした私をいつも手慣れた様子で介抱してくれたし、行きつけの病院にも毎回ついてきてくれた。母がいない寂しさで泣きじゃくる私を無言で何度も抱きしめてくれた。泣き止むまでじっと傍にいてくれた。
お葬式が終わった時、顔面蒼白で戻ってきた私を抱きしめて、"よう頑張ったな、ほんまに頑張ったな"って号泣しながら伝えてくれたことを今でも鮮明に覚えている。彼は傷ついて塞ぎ込みがちだった私を決して見捨てず、どこまでもまっすぐな愛を沢山与えてくれた。
あの頃は間違いなく彼のおかげで生きていられたし、彼がいなければ生きていられなかったと思う。
そんな素晴らしい彼だったけれど、私のせいで次第に疲弊していった。私にしんどさを見せてはならないというプレッシャーはどんどんと彼を追い詰めて、その余裕のなさは私に突き刺さった。あれほどまでに優しかった彼の冷たい姿は、大きな罪悪感とともに重くのしかかった。きっと私のせいだ、だけどどうしたらいいのか分からなかった。彼もきっと分からなかったのだと思う。
そんなこんなでお別れしてから2年が経ち、私たちはまた一緒に過ごし始めた。きっかけはとても些細なことで、小さな偶然と共通点がいくつか重なって、自然と過ごす時間が増えていった。
彼も私も別れた頃よりも大人になっていて、良くも悪くも新鮮さはなかった。一緒にいるとものすごく楽しい、というよりも、なんだか楽しいの方がしっくりくる。高校の頃から一緒で2年付き合い苦楽を共にしただけあってお互いのことはもう分かりきっているし、波長はぴったりと合う。何よりお互いに芸術の道を志す者同士、興味のあることが同じで話が盛り上がる。あの頃の気まずさは何処へやら、居心地の良さしかなかった。
それでも不満はあるしなんとなく険悪になることもある。お互いが疲れているとほんの些細なことでバチバチしてしまう。だけどそんな時はどちらかが家を出てしばらくして戻ると自然と元通りで。この前も少し険悪になったから私が散歩に出かけた。しばらく公園でぼーっとしていたら自然と彼に会いたくなったから、コンビニに寄って半分こしようと好きなアイスを買って帰ると、なんと同じアイスが冷凍庫に。彼も数分前に同じコンビニで買っていたと分かってふたりで大笑いした。あれは間違いなく幸せな時間だった。
付き合っていると、相手とも自分とも真剣に向き合わねばならない時ってきっとある。だけど毎日がそれだとどうやったってもたない。ふたりの日常にとって最も大切な努力は、関係を継続させるための努力でも、お互いが変わるための努力でもなく、許し合う努力なのかもしれない。深刻な話でずしんと重たい空気でもその真剣なふたりがなんだか面白くて笑っちゃった、みたいな、もう大嫌いだと思ったけど相手の寝顔を見ていたらどうでも良くなっちゃった、みたいな。そういう所って案外ものすごく大切かもしれない。私たちはふたりともかなり飽き性で気分屋だから険悪さが長続きしない、それが実は相性のよさと言えるのかもしれないな。
彼との新たな暮らしは始まったばかりで、もしかしたら今後大きな喧嘩をするのかもしれないし、また逃げたくなるのかもしれない。だけど今は彼と過ごす時間がとても楽しいし、ふたりの生活が心地よいから、しばらくはこの穏やかな状態が続くといいなと密かに願っている。
朝起きたらいつも優しい笑顔で頭を撫でてくれる所、お出かけする時に少しお洒落する所、どんなにひどいすっぴんでさえ可愛いとうっとりしてくれる所、礼儀正しくて情が熱い所、頑固で少しナルシストな所、自分の好きを大切にしている所、時々とんでもなく良いことを言ってくれる所。本人に聞かれた時はうまく答えられなかったけれど、今こうして考えてみると好きな所が沢山出てくる。
好きな人がいて、その人も私を好きで、それを何度も何度も感じられるような今の生活が私は堪らなく好きだ。真新しさはなくとも、日々好きを更新しては幸せを噛み締めている。いつまで続くかなんてどうでもいいや、と思ってしまうほどに今が楽しい。
約束された将来なんてどこにもないけれど、毎日最高だと思える一日を積み重ねていけばきっとそれは永遠になるのだと思う。
私はこれからもずっと、最高の今のために生きていきたいな。