ミュシャのカラテに触れる〜『皇女と龍』製作日記〜
はじめに
アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)はチェコ出身の画家であり、ニンジャです。
フランスにおいてアール・ヌーヴォーの時代を牽引しただけでなく、後年は祖国チェコ(モラヴィア)の民族再興のために尽力したことでも知られています。その優美かつ大胆な作風は多くの画家、デザイナー、クリエイター達に影響を与え、現代日本のゲームやアニメの分野においてもミュシャ・ニンジャクランのミームを見出すことができると言えるでしょう。
今回は自由研究として、多くの人を惹きつけて已まないミュシャのカラテの一端を学び、かつ実践したいと思います。この記事では彼の技法の紹介と合わせて、自分の絵が出来上がるまでの過程を説明していきます。
テーマ
いきなりミュシャ関係ない寄り道です。
まず最初に決めるウキヨエのテーマとして、ユンコとレイジを選びました。シャンゼリゼ通りでSPめいてユンコを守るレイジの関係性が刺さり前から描いてみたいと思っていたものの、中々構図が固まらずにいたのでこの際思いきってやってみよう!という感じです。
伸び伸びとした姫と影のように付き従う騎士、というイメージをテーマに据えることにしました。
構図
ミュシャの作品の要素の中で、「Q型方式」と呼ばれている構図があります。円とそこから伸びる部分、つまり後光めいた円環とそれを背負う人物を中心に据えたもので、イコン画のようなコンパクトさとダイナミックな動きを共存させるものです。
今回はこのQ型方式を採用しました。かなり縦に長い構図になります(これを四つ横に並べた連作もあります)が、今回は人物が二人なので一つの「Q」を上下逆にしてみました。即ち、左上と右下に円環を配置です。
ポージングを考えてくうちにレイジの姿勢がどんどん低くなり右上のスペースが余ってしまいましたが、そこは後ほどなんかで埋めることにしましょう。
下書き
ざっくりの構図が出来たら細かい描き込みをしていくのですが、自分の場合ここで小物とか細かいデザインとかを固めてます。
まず二人の衣装については、レイジのハデス要素を押し出してギリシャローマ風に寄せています。白衣をキトン風にアレンジするのも考えましたが、うまくまとまらずとっ散らかったので純ギリシャ式にしました。
ミュシャの絵によく添えられている「花」についても、ハデスの妃ペルセポネの逸話に登場する水仙をチョイス。ダメ押しで石榴も持たせてしまいましょう。ハデスの姿隠しの兜はちょっとレイジとイメージが合わなかったので却下しました。
没ネタとして、二人のバックボーンたるヨモギやネコネコカワイイの要素、あるいはドラゴンをイメージした黒い鱗パターンも考えていました。しかし、どうも画面が混雑してしまうため、これらも泣く泣くカットの憂き目に。
線画
上記の下書きをなぞっていきます。
ミュシャのメインの線は比較的太く、ステンドグラスや版画のような雰囲気だと感じているのですが、同時に流麗な曲線もまた彼の特徴なので中々難しいです。
たとえば、なびく髪は非常に特徴的な描かれ方になっていて、毛先に行くにしたがって細くなったりバラけたりせずに毛先も毛束と同じくらいの太さです。これは太いペンで描いた下書きの輪郭をマーカーでなぞって描いたのですが、ユンコのチャームポイントであるケーブルヘアーと似た質感に意図せずなったのは嬉しい誤算でした。
また、これまでなるべく見ないふりをしていましたが、円環や枠などのデザインもしなくてはなりません。おそらく無限に凝れる部分でしたが、締め切りに追われオムラ紋くらいしか仕込めませんでした。無念。
この時点だとこんな感じです。ここからミュシャ塗り絵をしていきます。
配色
ここはかなり悩みました。ミュシャのカラーとして、褪せたような淡いパステルカラーというのは漠然とイメージできるものの、いざ実践しようとするとどういった色を置いたものか道が見えません。
全体的には青と黄、白と黒の対比といった方向性は決まっているですが、一度色を置いてもしっくり来ず結局彩度低めで塗り直したりもしてます。
円環の配色もかなりの難産でした。というのも、普段オムラ紋は暗い紺地に鮮やかな赤で置くことが多いのですがこれがミュシャの雰囲気と致命的に食い合わせが悪かったためです。まあイメージ的にも合わなそうですしね。背景が主題のユンコを食っては元も子もないので、同心円状の部分を白く目立たせオムラの主張はなるべく控えめに抑えてもらいました。
塗り
少し血色を良くした程度であまり手を加えていません。服の皺や筋肉などピンポイントで陰影を落とす部分は線で表現されていた絵を見たのでそのようにしています。ただ、別の色を影に置いている作品もあるのでこの辺りは好み半分省エネ半分です。こんなんだから塗りが上達しないのでは?
あと、経年劣化?紙質?的な汚れを表現したり星を光らせたり仕上げ加工をしています。星は、六芒星のような図形で描かれている作品も多かったのですが、『スラブ叙事詩』などでは写実寄りの星もあったのでそちらを採用しました。(レイジの黒衣を強調したい→画面下を白くしたい→天の川を描く→他の星を六芒星にしてしまうと浮く、という経緯も実はあります)
完成・所感
ようやく完成!
改めて見直すと、これでもまだ色合いがビビットすぎるような気もしますが、構図は円環の存在感もあってそれらしくなったのではないかな、と自分を甘やかします。
以前ミュシャ展で見た時、描かれている人物がそれはもう美人で軽くショックを受けた記憶があります。普段自分が描く顔は鼻の無いデフォルメ調が多いのですが、鼻梁や鼻腔まで描き込んでも整った顔に出来る、というのは実践を通じて実感が持てたように思います。
何より、対象を観察し、その要素を抜き出して理解し、自分の絵に落とし込むという工程は中々に難しく、かつ楽しい経験になりました。
大変長くなってしまいましたが、終わりです。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
最後に
これもうニンジャ自由研究じゃなくて単なるミュシャ自由研究では?と正気に戻りかけましたが、冒頭の通りミュシャはニンジャなので何も問題ありません。いいね?