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音声記録
先日私は、青くてゴツゴツとした形状の、手のひらサイズの石を拾った。もしかすると何かの鉱石ではと思い、鉱石収集を趣味とする友人に見せてみると、「これ、違うな」との返答。
鉱石だとか宝石だとかそういう物ではなく、もっと、ヘンなモノだと言うのだ。
「ヘンなモノに詳しい知り合いを紹介するから、そいつに聞きな」
そういった経緯で紹介された男は、石を見てすぐに、「これはね、カセットテープみたいなもんだね」と語った。
「結構古い記録媒体だよ。この感じだと多分音声が入ってる。もし音声聞きたいんなら、聞ける装置貸せるよ」
そんな訳で再生装置を男に借りて、私は、石に記録された音声を聞いてみる事にした。
果たして再生されたのは、幼い子供の声であった。
「三月一日 日曜日
つきやま文庫を見に行った。
ホムンクルス達が、元気に産まれてた。
良かったなぁって思った。おまじない、ちゃんと効いてた。意識……なんだっけ……意識、意識操作! の、おまじない! この子達が買ってもらえますよーに、この子達が作ってもらえますよーに、って、キキに教わったとおりにおまじないしたら、ちゃぁんと効いた。キキはやっぱりすごい。
売れないまんま捨てられちゃいそうだったから、捨てられちゃうのはかわいそうだから、頑張っておまじないした。ちゃんと、ふたりとも産まれてきてくれて、良かった。
あっ。そーいえば、あのキットって、本当は満月の夜に使うといいんだったっけ? 昨日はえっと、満月、じゃなかった……よね? んー、でも、元気に産まれてるから大丈夫!
三月二日 月曜日
今日は……」
どうやら、これはどこかの子供の、日記のようであるらしかった。内容はちょくちょくよくわからないけれど……。
日記を勝手に読む……聞く、のは駄目じゃないかなと思いながらも私は結局最後まで聞いてしまった。最後には三月三十一日の日記を子供の声が読み上げて、この音声記録は終了した。三月の……一ヶ月分の記録が石の中にはあった。
この石を……どうしようかなと考えた私はとりあえず自室の机の上に置いた。再生装置の方は借り物だから勿論返したけれど……石は……石の形だけれどこれはどこかの子供の日記で、多分その子供がうっかり落としてしまったのかなと思うのだけど、ひょっとしたら今もまだ探しているかもしれなくて、私は落とし物としてこいつを交番にきっと届けるべきなんだろう。
でも……なんか……惜しくて。
自室に置いた。
その後しばらく机に飾ったままだった石は……。
ある日、唐突に消えていた。
落とし主が、取りに来たのかもしれない。私の部屋に忍び込んで、こっそりと持っていったのかも。
そんな風に、私は考えている。
石に未練は、まだある。