第三巻~オオカミ少年と国境の騎士団~ ③-7
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四人は無事に山を越え――半日後、アーキスタの国境の町、アスタナへとたどりついた。
《どうにか国境を越えられたな》
「ああ。僕にとっては三年ぶりの故国だよ」
さっそく宿屋に入った四人は、ほっとした笑みを浮かべあった。
と、ランが窓の外の景色を見ながら、
「まだ日が高いし、オレ、せっかくだから、町の様子を見てこようかな~~」
と言い出した。
「それじゃ、僕も一緒に行くよ。なんだかうれしくて、じっとしていられないんだ。ナッツのお菓子でも食べに行こうか、ラン」
「うん! アージュはどうする?」
「あたし?」
アージュはランとアルヒェを代わる代わる見つめたあと、
「あたしは、疲れたから休むわ」
と、ベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。
「いってらっしゃい。だけど、夕飯前には戻るのよ?」
アージュが右手をひらひらと振ってみせると、
《私も残る》
ランの首にかかっていたオードが言った。
《夜まで少し、休んでおこうと思うのだが》
「そっか。昨夜の活躍で、オードだって疲れたよね。ゆっくり休んでてよ」
ランはオードを外すと、部屋のテーブルの上にそっと置いた。
「じゃあね」
《ああ、存分に楽しんでくるといい》
廊下に出たランとアルヒェの足音が徐々に小さくなり、完全に聞こえなくなるのを待って、オードがアージュに声をかけた。
《アージュ。君に少し訊きたいことがある》
「なによ? いきなり改まっちゃって……ていうか、あんた、あたしと話がしたいから残ったの?」
ごろりと横になったままのアージュが、少しムッとした声で答える。
「あたしも言いたいことあるんだけど。あんたの妙な気遣いについて」
《そうか。ならば、君から話したまえ》
「エラソーに言わないで。先に話したいって言い出したのは、オードでしょ」
《――わかった》
オードは紫蘭月に入ってから、ずっと気になっていたことを口にした。
《実は私が人間に戻ったとき、騎士団本部にかかった鏡を見て気づいたことなんだが……。私が呪われた血を持つ者になってから、今年で二年になる。つまり、本来なら今は十七のはずなんだが……。見かけは、魔物に襲われた十五歳のときとほとんど変わっていないんだ》
「ふーん? そうなんだ?」
大切なことを言っているはずなのに、アージュは話に乗ってこない。
(これはやはり、私の想像したとおりなのか?)
確信を深めたオードは、意を決して話を続けた。
《そこから導き出した私の答えはこうだ。呪われた血を持つ者は、魔物の血が入ったせいで普通の人より成長が遅くなるのではないか?》
アージュは黙ったまま、天井を見上げている。
やはり、そうか――とオードは心の中で、深いため息をついた。
部屋の中を、重苦しい沈黙が流れる。
それなら、アージュは。
自分たちに出会う前から、ずっと、呪いを解くために旅をしてきた彼女は。
声を絞り出すように、オードは問いかけた。
《アージュは今、いくつなんだ? 君は……いったい何者なんだ?》
(第三巻/おわり)