東北大学大学院数学専攻 2023年度 共通 [2]
問題
確認事項
位相空間 $${(X,\mathcal O)}$$ において開集合の族 $${\mathcal B\subset \mathcal O}$$ が任意の開集合 $${O\in \mathcal O}$$ を $${\mathcal B}$$
に属する開集合の和集合で表すことができるとき, $${\mathcal B}$$ を位相 $${\mathcal O}$$ の基底と呼ぶ.
命題1 位相 $${\mathcal O}$$ の開集合の族 $${\mathcal B\subset\mathcal O}$$ に対して, $${\mathcal B}$$ が $${\mathcal O}$$ の基底であるための必要十分条件は任意の開集合 $${O\in\mathcal O}$$ と任意の点 $${x\in O}$$ に対して$${x\in W\subset O}$$ を満たす $${\mathcal B}$$ に属する開集合 $${W}$$ が存在することである.
命題2 集合 $${X\neq \emptyset}$$ の部分集合の族 $${\mathcal B}$$ が $${X}$$ のある位相の基底になるための必要十分条件は $${\mathcal B}$$ が次の2条件を満足することである.
任意の点 $${x\in X}$$ に対して $${x\in W}$$ を満たす $${W\in \mathcal B}$$ が存在する.
$${\mathcal B}$$ に属する任意の部分集合 $${W_1, W_2\in\mathcal B}$$ と任意の点 $${x\in W_1\cap W_2}$$ に対して $${x\in W_3\subset W_1\cap W_2}$$ を満たす $${W_3\in\mathcal B}$$ が存在する.
位相空間 $${(X,\mathcal O)}$$ の開集合の族 $${\mathcal S\subset \mathcal O}$$ について$${\mathcal S}$$ に属する開集合有限個の共通部分からなる族
$$
\left\{O_1\cap O_2\cap\cdots\cap O_n\left|O_1,\dots, O_n\in\mathcal S
\right.\right\}
$$
が $${\mathcal O}$$ の基底になるとき $${\mathcal S}$$ は位相 $${\mathcal O}$$ の準基底であるという. また, $${\mathcal S}$$ は位相 $${\mathcal O}$$ を生成するともいう.
命題3 集合 $${X\neq \emptyset}$$ の部分集合の族 $${\mathcal S}$$ が $${\displaystyle X=\bigcup_{O\in\mathcal S}O}$$ を満たすとき $${\mathcal S}$$ は $${X}$$ の位相を生成する. このとき $${\mathcal S}$$ の生成する位相は $${\mathcal S}$$ に属する部分集合のすべてが開集合になるような位相の内で最も弱い位相である.
位相空間の族 $${ \displaystyle \left\{(X_{\lambda},\mathcal O_{\lambda}) \right\}_{\lambda\in\Lambda} }$$ について $${\displaystyle \mathrm{pr}_{\lambda}: \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\longrightarrow X_{\lambda} }$$ を直積集合 $${\displaystyle \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}}$$ から $${X_{\lambda}}$$ への標準的射影とする. $${\displaystyle \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}}$$ の部分集合の族
$$
\displaystyle\mathcal S=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}
\left\{\mathrm{pr}_{\lambda}^{-1}(O)|O\in\mathcal O_{\lambda}\right\}
$$
の生成する位相を直積位相といい, $${\displaystyle \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}}$$ に直積位相を導入した位相空間を直積空間という.
定理4 位相空間の族 $${\displaystyle\left\{ (X_{\lambda},\mathcal O_{\lambda}) \right\}_{\lambda\in\Lambda}}$$ に対して直積位相はすべての標準的射影を連続にする最も弱い位相である.
定理5 位相空間 $${(X_1,\mathcal O_1)}$$, $${ (X_2,\mathcal O_2) }$$ に対して, 部分集合の族
$$
\displaystyle \left\{O_1\times O_2| O_1\in\mathcal O_1, O_2\in\mathcal O_2\right\}
$$
は直積位相の基底である.
ここで紹介した, 位相空間の基底, 準基底, 直積位相, 直積空間を丁寧に紹介した文献として小山 [2] と 河田・三村 [1] を挙げておく. 前者は直積位相については有限個の直積と一般の直積をそれぞれ節を分けて記述してあるのも判りやすい. 後者は集合から始めて一般の位相空間をコンパクトかつ詳細に述べてあるので手元に置いておくと便利である.
解答
(1)
位相 $${\mathcal O_1}$$ の定義より $${O\in \mathcal O_1}$$, $${x\in O}$$ のとき $${y\geqq x}$$ ならば $${y\in O}$$ が成り立つ. さらに, $${O_1, O_2\in \mathcal O_1}$$ のとき $${O_1\subset O_2}$$ または $${O_2\subset O_1}$$ が成り立つ.
2点 $${0}$$ と $${1}$$ がハウスドルフの分離公理の意味で分離できないことを示す. 任意の開集合 $${O\in\mathcal O_1}$$ について $${0\in O}$$ ならば $${1\in O}$$ である. よって, ハウスドルフ空間ではない.
$${(\mathbb R,\mathcal O_1)}$$ が連結であることを示す. $${U, V\in \mathcal O_1}$$ が $${U\cup V=\mathbb R}$$, $${U\cap V=\emptyset}$$ を満たすとき, $${\mathcal O_1}$$ の定義より $${U\subset V}$$ または $${V\subset U}$$ である. $${U\subset V}$$ としても一般性を失わない. $${\emptyset=U\cap V=U}$$ かつ $${V = U\cup V=\mathbb R}$$ より $${(\mathbb R,\mathcal O_1)}$$ は連結である.
(2)
$${P(a,b) \in A}$$ のとき $${\displaystyle O_{P}=\left(\frac{a+b+1}2,\infty\right)\times \left(\frac{-a+3b+1}2,\frac{a+b-1}2\right)}$$ とおくと $${O_{P}}$$ は $${\left(\mathbb R^2,\mathcal O\right)}$$ の開集合である. $${(x,y)\in O_{P}}$$ のとき
$$
x-y > \frac{a+b+1}2-\frac{a+b-1}2=1
$$
より $${O_{P}\subset A}$$ である.
$$
A = \bigcup_{P\in A}O_P
$$
だから $${A}$$ は開集合である.
$${B}$$ が閉集合であると仮定する. 補集合 $${B^c}$$ は開集合である. $${(-2,0)\in B^c}$$ だから $${(\mathbb R,\mathcal O_1)}$$ の開集合 $${O_1}$$ と $${(\mathbb R,\mathcal O_2)}$$ の開集合 $${O_2}$$ が存在して
$${(-2,0)\in O_1\times O_2\subset B^c}$$ を満足する. このとき $${-2\in O_1}$$ だから $${0\in O_1}$$ であり, $${0\in O_2}$$ だから $${(0,0)\in O_1\times O_2\subset B^c}$$ でなければならない. これは $${0^2+0^2=0<1}$$ に反する. したがって $${B}$$ は閉集合ではない.
(3)
開集合の族 $${\left\{O_{\lambda}\right\}}$$ を $${B}$$ の開被覆とする. 点 $${P\in B}$$ に対して $${P\in O_{\lambda(P)}}$$ となる $${\lambda(P)}$$ が存在する. $${P\in O_{\lambda(P)}}$$ より $${\mathcal O_1}$$ の開集合 $${U_P}$$ と $${\mathcal O_2}$$ の開集合 $${V_P}$$ が存在して $${P\in U_P\times V_P\subset O_{\lambda(P)}}$$ を満足する. $${\mathcal O_1}$$ の定義より $${U_P}$$ は位相 $${\mathcal O_2}$$ でも開集合であり, $${U_P\times V_P}$$ は通常のユークリッド空間の意味でも開集合である. $${\left\{U_P\times V_P\right\}_{P\in B}}$$ はユークリッド空間において $${B}$$ の開被覆である. ユークリッド空間において $${B}$$ はコンパクト集合だから有限部分被覆
$$
U_{P_1}\times V_{P_1}, U_{P_2}\times V_{P_2}, \dots, U_{P_n}\times V_{P_n}
$$
が存在する. したがって $${O_{\lambda(P_1)}, O_{\lambda(P_2)},\dots, O_{\lambda(P_n)}}$$ は $${\left\{O_{\lambda}\right\}}$$ の有限部分被覆であり, $${B}$$ は $${(\mathbb R,\mathcal O)}$$ でもコンパクト集合である.
独り言
この問題は2つの位相空間の直積位相と直積空間の定義の理解を問うものである. これらの定義は位相の基底の概念を用いて記述されているので基底についての理解も重要な要素となる. 確認事項では直積位相と直積空間の定義を紹介したがこの問題には定理5だけで十分である.
(1)
位相 $${\mathcal O_1}$$ は分離公理を満たさない位相の例である. 空ではないすべての開集合に共通部分があることに気がつけば証明は難しくない.
この空間は初見でも多くの教科書で紹介されているハウスドルフの分離公理を満たさない位相の例を知っていればそのアナロジーが利くと思われる.
(2)
積位相の基底が各成分の開集合の積になることを知っていれば $${A}$$ をこの基底に属する開集合の和で表すことができる. 出題者の意図は初見の空間でも位相空間に関する知識を使って正確な論理展開を出来るかを問うことだと想像する. 教科書で得た知見を基に自分なりの論理展開ができるレベルまで理解を深めていることが求められる.
(3)
設問 (2) で用いた基底の性質を使って議論すると通常のユークリッド空間のコンパクト性に帰着できるのは面白いと思った. 有料エリアの別解はこの「独り言」を書いているときに思いついたもので代数的(圏論的)アイディアに基づくものである.
全体として位相空間に関する一定の知識と理論展開の習熟度を測る良い問題だと感じた.
参考文献
[1] 河田敬義, 三村征雄. 現代数学概説II, 現代数学, 第2 巻. 岩波書店, 1965. ISBN: 978-4000052917.
[2] 小山晃. 位相空間論— 現代数学への基礎—. 森北出版, 2021. ISBN: 978-4-627-07861-1.
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