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人間としての自分を知ることができる本

『認知症世界の歩き方 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?』(筧裕介 著)を読んだ。

発売当初、書店をふらふらしている中で、そのカラフルでにぎやかな表紙や、どこかで聞いたことあるようなタイトルはとても印象に残った。でもその時は、「よくある認知症の解説本かな」程度にしか思わずにスルー。それから何度も書店で見かけては気になっていたが、手にすることは無かった。

それがなぜ今回読書感想文まで書くことになったのか。いつも思うが、本との出会いや読む時期などにもタイミングがあって、きっと今がそのタイミングだったのだろう。最近初めて、読書感想投稿コンテストがnoteで開催されていることを知り、パラパラと見ていた課題図書の中にこれはあった。そしてこの数日前には、たまたま認知症の人の見る世界をVR(Virtual Reality : バーチャルリアリティ)で体験するというイベントに参加していた。

そんなこともあり、記事をnoteに投稿するのも初めてだったが、なんだか面白そうだと思い、迷わず選んだ本が『認知症世界の歩き方』。

そのタイトルにもあるように本書は、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、ストーリーにしたもの。旅行のガイドブック同様に、きれいな地図があり、目次も「七変化温泉」「二次元銀座商店街」など名所案内風で、それぞれにカラーの素敵なイラスト。読まずに見ているだけでもワクワクする。ところがこの本は、想像していた以上に内容が濃く、「はじめに」の数ページを読んだだけで、すでに感動し、読み終わった時には、知ることの大切さを再認識させてもらった。

父の症状を少しでも理解したいと、これまで認知症の情報を得ようとしてきたが、こうしたご本人の視点からの情報はほとんどみつからなかった。原因や背景がよくわからないまま、症状についての画一的な難しい情報ばかりが集まると、いやでも不安になり、「なりたくない」「かかわりたくない」みたいなネガティブな感情を抱えてしまう。

しかし本書では、脳のような島で、各症状の関係する部位を観光地に見立てて、旅するように楽しく読み進めながら、認知症の方ご本人の視点で、多くの知識を得ることができる。また、症状に対応する観光地のネーミングもくすっと笑えて素敵。

症状ごとに、認知症の方ご本人の視点だけでなく、様々な方向から見た情報が得られるため、認知症のある方の視点や気持ちを知ることができるだけでなく、日ごろ当たり前すぎてあえて考えることすらしないような、自分自身の人間としての機能を同時に知ることができたのがとても良かった。そのおかげで、生きて日々生活できていることの奇跡、人間のすばらしさ、そして、それを享受できていることへ感謝。

共に社会で生きてゆくためには、このように、軸となる通常の思考や身体機能の状態を認識することがとても大事だと思う。こうした認識を持つことができれば、認知症だけでなく、見ただけではわからない病気や障害の方々に対しても、その対応や、自分たちができることは何かということを考えることができるのではないかと思うからだ。

本を読んで、認知症についてのもやもやがだいぶ解消したのもうれしいが、原因や背景を知ることで視野が広がり、様々な気付きがあったことがとてもうれしかった。

認知症の方と関わっている方々はもちろんですが、ちょっとでも心配のある方は安心のために、別に気にもしていない方は有意義な知識を身につけるために、多くの方に読んでほしいと思った本だった。

#読書の秋2021 #認知症世界の歩き方

#ライツ  #note #wrl

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