内藤礼 しっかり見ればそれは愛おしい
これまで訪れた美術館の中で忘れられないのは「豊島美術館」だ。自然と一体化された美しい美術館で自分の中にある何かを呼び起こされたような感覚を未だによく覚えている。
その豊島美術館を作った内藤礼さんの展覧会。
「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに東京国立博物館内の3つの展示会場を巡る。それぞれの会場のに移動する途中で仏像や浮世絵などの常設展示を鑑賞しながら次の会場へ向かう。
常設展示の歴史を感じると同時に、彼女の作品をみて「今、この瞬間」を感じる。ふだん私たちは生きることに意味を求めてしまいがちだけど、すべてのものは常に変化していてそういった中で「ここに存在している」ということはそれはとても自然なことだということがわかる。環境も。自然も。人間の心も。
彼女の作品は小さい。だからこそ見逃さないよう
細心の注意を払って鑑賞する。
姿勢を変えて丁寧に作品をみつめてみたり、しゃがんでみたり、見上げてみたり。視点を変えるだけで同じ作品に新しい発見がある。
展覧会後、私の生活にある変化があった。自分をとりまく空気がゆっくりになった。そして何だか周りのものがよく見えるようになったのだ。例えば、今までだったら目に入ってこなかった電車で前にいる人の可愛いキーホルダーだったり、スーパーの商品ポップの意図だったり。今まで見ようとしてこなかったものが見えるようになったのだ。
上手く言えないけど、そういう小さいことに心が動くということが、「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」の問いへの答えなのかもしれないなんて思った。しっかり見ようとすれば、それは愛おしくなる、みたいな。
そんな感覚を得ることができた展覧会でした。