日本のお葬式の文化って、不思議だ
「のど仏の本物って見たことある?」
ドイツ人の彼と家でランチをしていた時のこと。
何気なく”のど仏”が英語でなんていうかの話をしていたらこんな話になりました。
ちなみに、のど仏は英語でAdam’s appleという。
神話のアダムがのど仏でりんごを詰まらせたことから、
西洋圏ではそう呼ばれているみたいで、面白いなあと思った。
「ちなみに日本はなんていうの?」
となり、
「のど仏」。のどはthroat、仏はbuddla。
とっても神聖な意味があるよ、と。
そんな話から、「なんで”仏”っていうかわかる?」という話になり、
のど仏の骨って、本当に仏様が合掌しているような形をしているんだよ、と話した。
話しながら私は気づきました。
ヨーロッパの文化では、火葬の文化はないはず。
だからのど仏を見たことって、ないんじゃないか。
そんな私の予想通り、私の話を聞いていた彼の顔は眉をひそめた怪訝な顔になっており、「あるわけないよ、そんなの」と、のど仏の話に若干引いていました。
そんな彼を置いてきぼりにして、
私はその後も夢中になって日本のお葬式の文化について話したのですが、
それが今話してみると本当に不思議で、
神聖で、そしてミステリアスで。
生まれて初めて、日本のお葬式の文化を客観的に捉え、感動すら覚えた日となりました。
私が初めて本物ののど仏を見たのは、中学1年生のころ。
おじいちゃんが亡くなり、生まれて初めて人間の亡骸を見た。
その後おじいちゃんは四角い小さな扉の中へ入れられ、
扉の奥で灰となり、骨となって出てきた。
その時のなんとも言えない気持ち。
初めてみる人間の骨。お葬式を経験したことのある人なら誰もが感じる、あの気持ち。
私はその時初めてのど仏が本当に合掌しているような形になっていることを知りました。そしてお葬式屋さんの方が、とっても大事そうに喉ぼとけを紙に包んで、箱に入れた時に一番上になるように入れていたのも覚えている。
骨を一つ一つ箸で拾い上げ、順番は足からだったような。
箱に入れた時に、足から頭まで正しい順番で故人がすっぽりと収まるように、だった気がする。
骨を拾い上げる箸も特殊で、わざと長さの違う箸を使っていた。
調べると、「揃わない箸を使うことで、非日常として死後の世界を逆さごととして捉える」ことに由来しているのだとか。
また、わざわざ箸を使うのも「あの世とこの世の橋渡し」の意味があるんだとか。
目の前のドイツ人は、完全に顔が引き攣りつつも、「なぜ?なぜ箸を使うの?」「なぜ、骨になった状態の人間をわざわざ子ども(当時の私)に見せるの?」「遺灰ってどんな感じ?」「人間の骨を本当に見るの?」
「なぜ?なぜ?」と不思議そうに聞いてくれた。
確かにショッキングなシーンであることは間違いないけれど、
私たちは火葬という文化を通じて、大切な人が”亡くなった”という事実をちゃんと理解して、ちゃんと悲しむ時間を作っているんだと思う、と話した。
私が火葬に立ち会ったのはおじいちゃんだけで、
その後に亡くなったおばさんと、そして私の父の火葬には参加しなかった。
今思うと、せめて父の火葬には、立ち会いたかったなあと思う。
後からわかったことだけれど、おばさんはコロナ禍で葬儀にすら参加できず、父は葬儀には参加したけれどお骨拾いには行かなかった。もう十分悲しかったのでそれ以上見たくなかったのもあるけれど、やっぱり骨になった彼らを見なかったことによって、彼らが亡くなったと言う実感があんまり湧かないのだ。
ヨーロッパの文化では、故人は故人の生きていた姿のまま土に埋葬される。
だから彼らが今にもそこにいるような、まだ生きているような気持ちで、
もうこの世にいないことを徐々に理解していく文化なのだと思う。
日本は火葬という文化があるから、
骨だけになった彼らを見てその時に「ああ、やっぱり亡くなったんだ」と深く胸に刻み込まれるし、彼らを深く深く弔い、悲しみ、そして敬意を表す文化なのだなあと。
私は日本のお葬式にまつわるしきたりやルール、
理由はわからないけれど「こうしなきゃいけない」決まりごとについて話していくうちに、
お葬式の文化って、というか日本の文化そのものが、
本当に繊細な文化だな、と感動を覚えました。
例えば、
「あえてシワのついたお札を香典に入れる」とか、
「お通夜の夜はろうそくを絶やさない」とか、
「四十九日はまだ故人がこの世を彷徨っているからお墓に入れない」という考え方とか。
もう、以前は当たり前だった文化が日本の外に出てみると改めて不思議で不思議で。
こんなにも故人への礼儀、敬意を表す文化で、
繊細で神聖で全てに深い意味がちゃんとあって、
そして不思議な文化ってないだろうなあと。
改めて日本の文化に畏敬の念すら覚えたのでした。
そしてやっぱり長い歴史を持つ日本ならではだなあと思ったのと、
日本やっぱりかっちょええ!!!
と、いつも忘れた頃に私は再認識しています。
ちなみに、のど仏の文化についてさらに調べてみました。
のど仏はその形から”体に宿る仏様”と捉えられ、
その神聖さから一番最後に拾われる骨なのだとか。
また火葬後に綺麗にのど仏が残っていると、
「生前に良い行いをしたから」とか
「極楽浄土に行ける」と言い伝えもあるのだそう。不思議。
やっぱり、日本の文化って素晴らしい。
繊細で敬う心があって、ミステリアスでスピリチュアルで素敵だ。
海外で生活しているからこそ、ちょっと外側の視点から日本の文化を見れることがあって、
気づきがたくさんあって面白いなと、感じた出来事でした。