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真珠。もうひとつのはじまり

新月のタイミングで、実はもうひとつ不思議なつながりで新しい事がはじまっています。
ムーンプランナーのチャームの為に真珠を探していた所から、話はじまります。だから、おととしくらいの話です。

そこから、いろいろあって今、東武池袋百貨店に新しいジュエリーブランドとして、期間限定で出店させて頂いています。4/4から、4/10までの一週間です。

月の満ち欠けの手帳から、本格ジュエリーブランドが始動してしまった、という、やっている本人たちも瓢箪からコマ。手帳から真珠。
という、ちょっと変なストーリー。

「オーガニックな感じの真珠が欲しい」

ムーンプランナーは月の満ち欠けを基準にした手帳で、同人誌のように個人が作って問屋も通さずに直販メインで結構自由に販売をしています。
少ないけれどそんな自由な感じでも直取引をしてくださるお店さんもあって、直販と合わせて毎年コツコツと売上数は伸びています。

直販が中心なので、時々好きなものを販売します。そのひとつで、チャームやジュエリーを作っていました。
それもご縁があって、「実は皇室のジュエリーも監修されるような日本の宝飾界の巨匠について10年修行した」という実力のある作家さんが型から起こしてくれています。これだけで相当な話なのですが、基本の技術がハイジュエリーなのでやっぱりダイヤモンドや宝石をあしらったもの、贅沢な貴金属の彫金などが本筋。
冬至にあわせてその技術をたっぷりと発揮したダイヤモンドチャームを毎年お作りできるのは、本当に恵まれているとしか言えません。

それで、せっかくなら、その技術を生かして、真珠のアイテム作りたいなあと思っていました。真珠は占星術などで月の守護石といわれているからです。ロマンチック!

それも、できればどこでも買える真珠じゃない、せっかく買うならちょっと違う真珠がいいなと思っていました。バロック(歪んだ真珠)とか、何かいいものを買えないだろうかと、日本中の地域の特産品を扱うバイヤー業をやっている人に相談してみて「まあ、なんかあったら連絡するよ」といわれていたのですが……

「いいから離島に来い!すごい真珠があるから」

ある日、突然スマホに一方的に海の写真が大量に送り付けられてきました。
例のバイヤーさんからです。

「真珠を見つけた。すごいやつ。離島なんだけどさ」

「???」

「普通の真珠よりずっと大きいやつ作っている人がいて、偶然知り合った。ご飯食べに行った居酒屋で、真珠作っている人いませんか?って聞いてみたら、そこで飲んでた人が日本一大きい真珠作っているって言われて、話を聞いてきたんだよ。養殖場も見学させてもらった。サンプル送ってもらえる。でも通常の相場より3~7倍くらいの値がつくやつらしい」

なにその偶然!
でも、そんなもん買えませんって…そんな日本一大きいとかって高いに決まっているじゃないですか……
とおもったのですが、「出来のいいのは買わせてもらえないけど、変な形のは買わせてもらう可能性がある」といわれて、じゃあ行くか……と。
行くかって、売れるかどうかの前に、買えるかどうかもわからない真珠の為に、飛行機とフェリーを乗り継いで、ヘタに海外行くよりも時間をかけて離島になんとかいきました。

場所は、長崎県五島列島。その中の小さな島、奈留島。

生命力があり過ぎる、モンスターみたいな真珠たち

飛行機が苦手過ぎる体質なので、毎回乗るたびに真っ青な顔になって、もうろうとしながら離島に向かいました。

真珠は、伊勢志摩が有名ですが、実はその地域では現在大きなアコヤ真珠が作りにくくなってしまっているのだといいます。
海の豊かさ、アコヤガイ(阿古屋貝)が大きく丈夫なことが大きな真珠を作る条件で、小さい核を入れるなら小さい貝でもできるのだけど、10mm以上の大きなものは人間でいうとお腹にボーリングの球を入れているような大手術になるということで、貝が大きく体力がなくてはいけないのだそうです。
そんな強いアコヤガイが、どうにも伊勢志摩では育てられなくなってしまって、それに危機感を感じた人があちこち探して、五島列島で大珠真珠作りに挑戦して、10年ほどかけて成功させた、ということでした。

その10年かけて作りだした大珠真珠が、ぼんぼんと目の前に出される……

「えっ、こんな感じでしたっけ、真珠って」
「いやいやいやいや、これ、こんなの普通買えませんよ。銀座で一億円とかつけられるネックレスに使うようなやつですよ。間にダイヤを噛ませて作っためっちゃ高いやつ」
「マンション買える」
「一棟買えますね」
「8mmで大きいって言われるんですよ」
「小さいですね」
「違いますよ、これを基準に考えたらダメです!こいつらモンスターですから!8mmだって相当大きいんですよ」

大きい真珠で作ったネックレスもいくつか見せてもらって、自然光の下に持っていくとまばゆさでクラクラしました。

でも真ん丸なものはそれこそ引く手あまたなのに、ちょっと形がゆがんだりデコボコしたりすると、大きくても、そしてどれほど美しく光っても、はじかれてしまうのです。
歪んだものは別の袋にドロップスのようにざらざらとたくさん入れられていました。

「これとか、色が……すごい……虹色……」
「アコヤガイは同じですからね。他の高い値がつけられて買っていかれる真珠と同じくらいきれいです。でもこの突起とか、デコボコや、ガサガサした部分があるとねえ。作っている人間からすると、こういう方がかわいいもんなんですよね。値段がつかないから、ガッカリではあるんだけど、でもかわいいです」

「えっと、もっと小さいやつありますか・・・・」
「小さい?ああ、ケシならあるよ。砂なんかが入って、真珠になっちゃったやつ。うちの貝は大きいから、ケシでもすごくきれいだよ。めんどくさいから捨てちゃうことも多いけど」
「捨てちゃうんですか!!!!」
「取り出して売る事もあるよ。この前はインド人が」
「買います!!!」
「そしたら取っておくから、半年後にまた来てね。本来はこういう砂が入ってできた真珠が、普通の真珠だったんだよね、養殖技術ができる前の時代はね」
「頑張ります…」

そうやって、なんとか買い付ける事ができた真珠を使って、ハイジュエリーの技術もふんだんに盛り込んで、真珠専用の爪まで特別に開発してもらい、商品としてお届けするところにこぎつけました。

画像の真珠はオーダー承っております。写真をクリックしてみてください。

作り手と売り手の都合で世に出ない輝き

さて、そうやって小さい真珠は手帳のブランドの中から商品化させていったのですが、実のところ小さいものは本当に副産物に過ぎない訳です。
養殖場の方からは、大きなバロック珠の行方について、いろいろ話を聞きました。

歪んで、傷があって、それでも豊かに光る真珠は、規格に沿わないからとはじかれてしまう。
確かに、真円真珠がいかに貴重だったのかという歴史からすると、それは当然です。養殖真珠ができて、丸い真珠が当たり前になってしまいましたが、ほんとうは丸い真珠はものすごく希少で、すごく値の張るものです。歪んだ珠が安いのではなく、丸い珠が高いのです。
そして、丸い方が加工の手間も圧倒的に少なく、品質の高いよいものが少ないコストと技術で作る事ができます。
だから、作り手と売り手の都合もあって、歪んだ珠は嫌われ気味。
そして、そうなると、市場に出回るチャンスがガクッと減ってしまい、ほんとうはそういう歪んだ珠の美しさが好みの人がいても、なかなか手にするチャンスはないのです。

世の中に出ているバロック真珠は、南洋真珠が多いです。
日本で作られるアコヤ真珠とは、貝の種類が違って、とても大きな真珠貝です。なので、大きな真珠が作られます。

そして、海外ではバロック真珠が好きな方も多いです。それは、やはり日本よりたくさんバロックが流通しているから、という面もあると思います。
日本のアコヤは、真円でテリや巻きの質の高さこそが至高!という真珠作りの誇りがとても強い気配があります。なので、歪んだものは誇り高い作り手からするとダメなものになってしまいがち……。

ただ、南洋真珠のどこかマットな質感と比べると、アコヤはギラッとした目がくらむような虹色の光があります。この光を持ったバロック珠は、傷があろうが凹みがあろうが、本当にキレイなのです。
むしろ、歪んで傷があるから光が際立っているようにさえ思うものがあります。

「もったいないなあ」

ある程度おとなになって、私たちだって規格にあった生き方ができなくて捨てられたり放り出されたりした経験は少なくない。
傷がついたり、へこんだり、健康とは言えない、美しいとも言えない部分だってたくさんある。
それでも、だからといって美しいところや素晴らしい才能が消えてしまうかというとそんな事は絶対にないという確固とした実力への自信のようなものだってある。

そういうものを、なんとなくこの真珠たちを見ていると、思い出すのです。

「ジュエリーにするとすごく迫力のあるオンリーワンになります。というか、ならざるを得ない存在」

ジュエリーにしたいと思って、珠の美しさから欲しいという方向けにいくつかお作りしたりもしたのですが、やはり価格帯などがどうしても手帳のブランドと折り合わないところがあって、紆余曲折。

またこの2月に離島にいってみたら「うちの真珠たちをもっとちゃんと陽の目を当てたい」という話が養殖場の方からも出てきて、ううむこれはちゃんとやらないとダメかしら…となっていました。

チャンスは突然やってくる

「デパートの催事に出ないかって打診が来たんです」
離島から東京に戻ってすぐに、ジュエリー作家さんの方に降ってわいたように大きな売場のお誘いが……。

デパートに出店なんて出たくても出られるものではありません。
ただ今回はちょっといろんな理由が重なって、かなり短期間でそれなりのクオリティの商品が用意できる人ということで、お声がけがジュエリー作家さんの方にきました。

「真珠……ちゃんとやりましょうか」
「そうですね。ちゃんと、世に出していかなくては」

その時点で、出店まで1カ月程度。
それだけの短い期間では、なかなか厳しいのが現状です。
でも、できる事を重ねて、大きなショーケースいっぱいにあの傷だらけの輝く真珠を持っていく事ができました。

ムーンプランナーからは独立して、新しい名前も付けました。

chicje シッジュ
型にハマれなかった我々のための自由な真珠とジュエリー

4/4から、東武池袋百貨店1Fの催事スペースでひとつのショーケースで販売中です。4/10までの一週間だけなのですが、奇跡のようなタイミングで素晴らしい売り場に出させてもらっています。

正直なところ、バロックなアコヤ真珠は、実に扱いがむずかしいです!
加工にとにかく技術がいるし、センスもいるし、扱える人が少ないんだということが実際にやってみてわかりました。そりゃあ、世に出ないはずです。

そんな、手間がかかってクセが強くて厄介な、愛すべき存在たちが、東武池袋百貨店の1階にいます。ageteさんの隣です。小さくchicjeと出していますから見落としてしまうかもしれません。
そして次の出店予定は完全に未定です。オンラインショップを準備していますが、一点ものなのでできれば気に入ったものを目で見て買ってほしいと思います。とびきり素敵な子たちです。
できれば、これという存在があれば衝動買いをお勧めしたいくらいです。二度と同じものが作れないから……。
この不格好な真珠たちが、愛してくれる人と出会えますように。


※東武池袋百貨店さんで「ムーンプランナーありますか?」って聞くと「ないです」ってご案内されると思いますので、「1階催事スペースのバロック真珠のシッジュ」とお尋ねください。

chicje インスタグラム
https://www.instagram.com/chicje_japan/



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