Ep.0 Loosen your grip.
おちる。おちる。おちていく…
怒りも、哀しみも、そして喜びも。
なにもかも失われていく。
ああ、どこまでおちるのだろう。
体感したことのない、時間の長さ。
恐怖も不安も見当たらない。
肉体から、少し離れて見守っている意識だけが、
ただ、そこにいた。
在る日、ひたすら握りしめていたモノを解放した。
(そのモノ自体、何であるかは分からなかった。
あとで分かるのかもしれない。)
石膏のように硬くなった全身の力を徐々に弛めていく。
暫くすると、自分の胸が律動し、肺に空気が流れ始めるのが分かった。
大きく深呼吸したのち、右の拳をゆっくり、ゆっくり、解放。
そこから先は早かった。
片方の腕だけでは自分を支えきれず、
最後に残った左の拳は、いとも簡単に解けた。
モノから放たれた瞬間、大きく身体が揺れた。
その振動で、意識と肉体が離れる。
不思議とちっとも苦しくなくて、逆に心地よささえ感じるほどだった。
さあ、これからどうなるのであろう。
底に行きつき、頭が砕け散るのか、
浮上して元の場所へ戻るのか、
別の世界へ移動するのか、
このままおち続けるのか、
それは誰にも、
わからない。
全てを受け入れ、
自然にゆだねよう。
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