コンセプトステージ『再会』6/8
『再会』
Vocal:ぱるた
Violin / Gt. :弓絃
脚本・音源:弓絃
構成:ぱるた / 撮影:ORENCH.
6/8 渋谷(sat) @渋谷nob
01.ふたたび
高校の同窓会が行われたのは、
初夏の風が薄くそよぐ新月の晩だった。
長らく会うことのなかった級友たちと
他愛もない話に興じながら、私は周囲を見渡す。
『みんな、すっかり変わったねぇ』
そんな事を言いながら、私は席につく。
『なーに言ってんだか。』
あんただってそうじゃないの。
そう言われて苦笑する、言い返す気も起こらない。
我ながら、何ともつまらない大人になったものだ。
私にも、夢はあるにはあった。
高校ではシンガーソングライターを目指し、
バンドを組んでいたのだ。それをすっぱり辞めた。
夢を追うことは大きなリスクを伴う。
社会の孤児になりたくなければ、良くも悪くも
『普通』と呼ばれる生活を模倣しなくてはならない。
それが分かっているからこそ、あの日
私のギターは5桁の札と共に中古屋に並んだのだ。
『変わらないやつと言えば』
旧友の一人が、部屋の隅の男を指差す。
『あいつぐらいね。
あんたは近づかないほうがいいよ』
そこには、ぼかぼさの長髪に
くたびれたシャツを纏った男が座っていた。
『なんでも、楽団をクビになったみたいよ。
かなり荒れてるみたいだから、みんな敬遠してる』
可哀想よね、折角夢を叶えたのに。
そう、彼女は付け加える。
そうか、私が生活に追われている間に
彼は一度とはいえ、夢を叶えたのか。
音楽を諦めて、生活に埋もれるわたし、
音楽を諦めず、いまも夢に埋もれる彼。
友人の静止をよそに、私は彼に近づく。
彼の瞳が私を捉える。
その双眸を僅かに見開く。
彼が口を開く。たった一言。
『詩は書いているかい』
♪ I .盗作 - ヨルシカ
♪ II.音楽のすゝめ - 日食なつこ
02.ピアノのそばで
『詩は書いているかい』
どうしてそんな事を口走ったのか。
正直、自分ですらよく分からなかった。
彼女は高校時代バンドをやっていて、
作詞作曲した曲を、わたしは何度も聴いていた。
吹奏楽部のホープだった自分が
初めて覚えた、それは嫉妬だった。
鮮やかで瑞々しい感性。
同時に、わたしは彼女を好ましく思っていた。
わたしたちが意気投合するのに、
さして時間はかからなかった。
幼少期から英才教育を受けた自分にとって
音楽と云うのは戦いの場に他ならなかった。
だが、彼女は違った。
わたしが弾くピアノに、彼女が歌を乗せる。
そうして生まれた音楽は、どこまでも自由で、
煌びやかで。私を魅了した。
だからこそ。
受験勉強を理由に音楽をしなくなった彼女に、
当時の私は軽蔑にも近い感情を覚えていた。
そうして他人に辛く当たった結果が、
落ちぶれてしまった自分自身という訳だ。
寂しかったのだ。
受け入れられなかったのだ。
音楽に絶望した今だからわかる。
宝石のような日々を、私は
決して手放したくは、なかったのだ。
♪ III.宝石になった日 - BUMP OF CHICKEN
03.夜の街
夜半の街角に生温い風が吹いている。
早々に居酒屋を抜け出したわたしたちは、
今までの空白を埋めるように、多くの話をした。
近況報告に始まり、大学生活。
最近読んだ小説、そして、音楽のこと。
『音楽は心から、
生活の灰燼を取り去ってくれる』
『いい言葉だね、偉人の言葉?』
『そう、バッハ。でもね、
これはきみが教えてくれたんだよ』
わたしは、そんなこともすっかり忘れていて。
音楽が楽しかった日々を思い出す。
一体どうしてだろう、何が違うだろう。
わたしが変わってしまったからだろうか。
音楽と向き合うことを、恐れているのだろうか。
あの日々には、そうだ。隣には必ず。
きみがいた事を、わたしは思い返す。
君を描いた、君と描いた日々が
いまも、ここにあるのだ。
♪ IV.想作 - 弓絃
04.ふたたび ~リプライズ~
夜はすっかり更けていた。
街明かりが少しずつ解けて、
次第に大きくなる静寂を聴く。
JR駅前のロータリー、
わたしたちはそこで立ち止まる。
『それじゃあ、元気で』
『うん、元気でね』
この先、もうきっと
私達は会うことはないだろう。
そういう確信があった。
私達の人生は、
かつて音楽を通じて確かに交わり。
そうして、通り過ぎていったのだ。
私達はゆっくりと変わってゆく。
けれど思い出のなかの私達はは変わらない。
その瞬間に存在した
想いは、心は。きっと変わらない。
ああ、そうか。
変わってしまうわたしたちだからこそ、
変わらないものを、描きたいと願うのだ。
歌で、楽器で、心で。
音楽で、それらを描きたいと願うのだ。
私は、描かなくてはいけない。
歌で、楽器で、心で。
今度こそ、音楽と共に
これからを生きてゆくのだ。
♪ V.変わらないもの - 奥華子