アイドル live
思えば、初めてアイドルのライブに行ったのは浪人生の頃だった。勉強も中断して、親に隠れて武道館へ行ったあの日。
舞台に立つアイドルはキラキラしていた。3階席からは米粒ほどにしか見えない。それでも目を凝らして表情を想像し、沢山手を振った。
遅れて僕の隣にきた中年のサラリーマン。
一人で物凄く笑っていた。なぜかとても嬉しかった。
会場が一体になる感覚。最後にはみんなでアカペラ合唱をした。アイドルってこんなに勇気と希望を与えられる存在なんだなと思った。
ライブ終了後、ラジオの生放送があった。
興奮冷めやらぬまま送った1通のメール。奇跡的に選ばれ、メンバーに僕の言葉が届いた。
以上が僕が初めて行ったアイドルのライブで、
9nineのライブでの出来事だった。
その後大学生になった僕は9nineのライブとベイビーレイズJAPANのライブに幾度となく参加した。
タオルを回したり、ペンライトを振ったり、掛け声を入れたり、推しの名前を呼んだり、
目が合えば嬉しいし、近くに来れば釘付けだった。
僕の大学卒業に合わせるかのように、応援していた二つのグループは解散と活動休止を選択した。
以前グループを抜けたメンバーは夢を語った。
「素敵な女優になりたい。」
いつもストイックに自分と闘っていた人だった。他のメンバーはアイドルを続ける。それをわかっていたから卒業という言葉を選ばない。脱退と銘打ち、自分が主役ではなく、BESTアルバムツアーのファイナルとだけ言って笑顔と涙で去っていった。かっこいい女だった。
12歳から22歳の大学卒業までアイドルを続けた。
最後のブログは、メンバーとの写真に、長くはない文章が添えられたものだった。「ありがとう」と「これからもがんばる」と「宜しく」の3つに要約される文章だった。
海荷らしい最後だった。
他のメンバーはそのあと立派にグループを守り続けた。活動休止中(オンラインのみで再開)の今も『9nine』の看板は残っている。一度もファンを裏切らず十年以上続いている女性アイドルグループなど数えるほどしかないだろう。
ベイビーレイズJAPANのリーダーは言った。
まだ解散が発表される前。アイドル業界の中で確実に力をつけ、アイドルフェスの大トリを務めるまでになり、きっかけひとつで目標である紅白まで辿り着けるとファンは信じて疑わなかった絶頂時だった。
「永遠なものなんてないから。」
当時22歳。ライブの最後、僕と同学年のリーダーが放った言葉だった。
「アイドルなんてやりたくない。」と言ってアイドルを始めた女の子だった。それでも覚悟を決めて、「やるならとことん」と自分に言い聞かせるようにリーダーに立候補し、大事な時には人の目を見て語りかける女性に成長していった。
永遠なものなんてない。いつか終わる。
そんな言葉が日比谷の夜空に響いた。
僕の心にも強く響いていた。
その時はどうしてかわからなかったが、その数ヶ月後解散を発表し、腑に落ちてしまった。
解散という実体を持った塊をぶつけられた僕たちはどうしていいかわからなかった。
最後のライブは富士山の麓。湖近くのきれいな場所だった。
アクセスの良くない場所に集まったのは4000人以上。
見事に晴れた空は富士山だけを雲に隠す意地悪をしてライブが始まった。アップテンポの曲と笑顔が弾ける演出だった。バラードに入るときに、雨が降り出した。ファンの気持ちを代弁したかのような雨だった。雨は静かに止み、夕日が沈み、空が黒く染まる直前に、富士山が分厚い雲から顔を出した。
僕たちは映画を見ていた。
最後の最後まで、ノリに乗っているグループの終わり方だった。富士山の夜空に花火が打ち上がってフィナーレを迎えた。そしてメンバーはそれぞれの道に進みだした。
一方の9nineは活動休止を選択した。
最後のライブ、あるメンバーは悔しながらに言った。
「活動休止ってなんやねん!!」
会場は拍手と笑顔に包まれた。
辞めたくて辞めるわけじゃなかった。
その言葉が心に残っている。
(※9nineポーズ)
応援していた二つのグループが終わりを迎えたと同時に僕もアイドルのライブに行くことを辞めた。
自然の流れだった。山口百恵がマイクを置いていったように、ペンライトを使わなくなった。
そんなにカッコいいものじゃない笑
アイドルを好きなオタクが応援していたグループを失い、心と年齢の成長とともにアイドルの現場から離れた、ただそれだけの話だ。
でも僕は沢山の勇気や希望をもらった。
もしかしたら可愛い女の子を見るだけの疑似恋愛的な要素もあったのかもしれない。
別にアイドルの役割なんてなんでもいい。僕のことを覚えてなくても全然いい。
少なくとも僕はあなたたちの戦う姿と笑顔に惹かれ、そして救われた人間の一人だ。
それだけで十分すぎるほど価値がある。
****************
1年半、アイドルから離れていた。
今日、僕は久しぶりにアイドルのライブに行った。
行く前に少しめんどくさくなる感覚。バックにペンライトを詰める時の気恥ずかしさ。早く着き過ぎてむりやり時間を潰したり、いらないグッズを買ってしまったり。久しぶりの体験の全てにワクワクした。
神宿のライブ。
withコロナのライブ。正直難しい。客の声出しは禁止、ペンライトと多少の動きのみ許される。笑うことすらみんな遠慮する状況。
今までは声を出して一体になっていたんだなと強く感じた。
昔は出しゃばったコールやミックスをする人がウザかった。アイドルが話している最中に注目されたくて、推しの名前を呼び出す人がウザかった。
でも今はそんなことすらも懐かしく思えるくらい声を出せない。タオルも回せない。
多分アイドルのライブは変わらなきゃいけない。今のままじゃいけない。ファンは大事。めっちゃ大事。でも声を奪われたファンとのライブを今までのまま行うだけだと、今までを超えることはない。
グッズを5000円以上買ってお見送り会に参加しても、マスクをしたメンバーを見るだけだった。正直寂しかった。ライブ中は遠くて顔が見えなかった。メンバーが通路を移動する演出もできない今、席が遠い客は最後まで顔が見れない。
初めて会ったのに顔が見れなかった。仕方がない部分があることはわかっている。でも寂しい。
youtubeで見た神宿のライブはとても楽しそうだった。メンバーは生き生きとしていた。
客が声を出せない状況で、コロナのルールを守りながら、どのようにしたらここまでの楽しさを表現できるんだろう。
勿論楽しかった。可愛かった。沢山準備してきたことも伝わった。その中で現状のアイドルの難しさを感じた一日だった。
ちなみに神宿のみんなはめっちゃ好きです。最高に可愛いし。
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