Bible Gamer 第八夜 「十字軍」
禁じられた「十字軍」カード
トレーディングカードゲームの始祖であり、現在でも最大のヒット作である「マジック:ザ・ギャザリング(M:TG)」には「十字軍(Crusade)」というカードがある。
だが、現在これは禁止カード、すなわち、公式戦では使用できないカードとなっている。
特定のカードが禁止カードに指定されること自体は、どのトレーディングカードゲームでも珍しいことではない。それらは、制作者の想定を超える強力さが発売後に判明し、ゲームの競技性が損なわれることを防ぐために使用禁止となるケースが大半である。
しかしこの「十字軍」カードはそうではなかった。公式発表によれば「人種差別を想起させる描写や、文化に対する侮辱的な描写」のカードだったためである。他にも「ジハード(Jihad)」など数種のカードが、同じ時期に同じ理由で禁止カードになっている。
M:TGには、名称の一部に「十字軍(Crusade)」を含むカードが他にもあり、また新たに作られてもいる。つまり、「十字軍」という言葉が禁忌とされたわけではない。
公式見解がないため詳細は不明だが、本カードは特にイラストの表現が問題視されたと見られている。
最初の十字軍
この複雑な背景を下敷きにしたウォーゲームが「The Crusades: Western Invasions of the Holy Land」(以下『The Crusades』)だ。発売は1978年で、「Strategy & Tactics」誌の付録として制作された。
本作は、第1回と第3回十字軍の2つの状況(シナリオ)が用意されている。特筆すべきは第1回十字軍シナリオの方だ。これは最大8人のプレイヤーが十字軍陣営とムスリム陣営に分かれてプレイし、終わるまで数時間はかかる重量級のシナリオである。
このシナリオでの「勝利」は「どちらか」ではなく「誰か」である。チーム戦のように見えて、実は勝者ひとりを決める個人戦なのだ。
勝者は最高得点者である。地図上に点在する都市を占領するごとに得点する。十字軍プレイヤーたちは、ひとまず一致団結して聖地奪還を目指してもよいし、最初から激戦地を避けて別行動を取ってもよい。
というのも、仮にエルサレムを取り戻せなかったとしても、他のいくつかの都市を占領して独立国(十字軍国家)の建国を目指せば、それはそれで勝利に十分な高得点を狙えるからだ。一方で、ムスリム陣営も決して一枚岩ではない。
かくして、聖地を巡って本音と建て前が交錯し、神経質な戦いが繰り広げられることになる。
それから38年後の2016年に、「Strategy & Tactics」誌は、再び第1回十字軍のウォーゲームを付録にした。それが「First Crusade 1097–1099」(以下『First Crusade』)である。
先の「The Crusades」が多人数+長時間の大作だったのに対して、「First Crusade」は1人プレイ専用のソロゲーム(ソリティア)である。
プレイヤーは十字軍とその同盟軍を指揮する。イスラム教側の軍勢は、ルールにしたがって自動的に十字軍に対して敵対的な行動を取る。
ウォーゲームとしてはそれほど複雑なルールではない。戦略ゲームとして、乱数に依存した構造は好みが分かれるかもしれない。
ただ少なくとも、当時のキリスト教国側から見て、第1回十字軍がどのような戦いであったかを知るには良いツールになると思う。
エルサレムの男爵
ボードゲーム「Jerusalem(エルサレム)」でプレイヤーは、12世紀の初めごろの聖地において、富と名誉を求める男爵となる。
不安定な情勢に翻弄されながらも、最も有能な一族であることを証明するシンボル「塔」を建設し、その高さを競うという設定のファミリーストラテジーである。
史実がそうであったように、本作ではゲーム中に大きな出来事がたびたび発生する。たとえば、国王や司教の代替わりや、外敵が攻め込んでくるなどだ。そのたびに盤上の状況が大きく変わるので、プレイヤーたちは対応に追われることになる。
ゲームの歴史的要素は、これらの出来事に関わるものと、ボード上の名称(エルサレム宮殿、聖墳墓教会など)にある程度なので、史実を知らずとも十分に楽しめるようになっている。
ヴェネツィアの商人
「エイジオブヴァンダル ~大破壊時代~」は、この悪名高き第4回十字軍をモチーフにした、国内インディーゲーム制作グループによるカードゲームである。ルールやカードテキストはもちろん日本語で記述されている。
プレイヤーは十字軍に従軍したヴェネツィアの商人貴族となり、コンスタンティノープルに入って略奪(カードを入手することを本作ではこのように表現している)を行う。
この略奪品は資源を生み、その資源を利用すると多種多様な「技術」を獲得できる。この「技術」は、ゲームをより効率的に進める手段となり、また得点ともなる。終了時に、総得点数が最大のプレイヤーが勝利する。
略奪というと穏やかな表現ではないが、ゲーム内の処理は抽象化されていて、史実はフレーバー以上の扱いになっていない。したがって本作を楽しむために歴史的な知識は不要である。
ただ、本作の内容は拡大再生産型ゲームとしてはかなりの本格派で、どちらかといえば中級者以上向けである点には注意を要する。ルールは無料で公開されているので、このゲームに興味をもたれた方は、まずそれを読んでから入手を検討した方がよいだろう。