幻を見た話
8月某日の深夜、ふと目が覚めた。
しばらくぼーっとしていたが段々と今日は満月である事を思い出した。せっかくなのでと思い、カーテンを開けてみると建物の隙間から満月が見えた。
月を見ると様々な感情が体を駆け巡るが、一つ一つを言語化する事が大変難しい。綺麗という言葉以上で満月を表せる「何か」が無いだろうか。
そんな風に考えを巡らせながらしばらく見蕩れてよし、満足した、寝ようと思い振り返ると部屋に月明かりが差していた。驚いた。
小説、音楽、和歌など様々な創作において月明かりに照らされる道や部屋が出てくる事がある。私ははそれらを幻だと思っていた。昔は今より街灯が少なかったので月明かりが目立っていたのだろう、現代の小説などで出てくる表現は一種の比喩だろうと考えていた。
その幻が目の前に現れたのだ。想像で描いていた月明かりが目の前に現れたのだ。驚きもする。
世間一般では当たり前なのかもしれない。ただ私にとって目の前の光は何とも非日常に溢れていたのだ。私は慌ててスマホのカメラを開いた。が、月明かりを写真に閉じ込める事は出来なかった。下手くそめ。いや、肉眼だからこそ良いのだ。と考えじっと目の前の幻を見ていた。
私は寝るのが惜しくなった。せっかくだからこのまま夜明けまで起きていようと考えた。
絵を描きながら、時折上を見て、柔らかい何かに包まれながら夜を越した。
そうして夜が明けた。
淡い色の空と金色の月。
夜明けを見ながら起きてからの短いような、長いような出来事を思い出した。
こんな良い夜は初めてだった。
本当に良い夜だった。
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