見出し画像

「俺、異世界の通貨になりました。」第十五話。

第15話「覚醒の瞬間」

セリファの聖堂へ向かう道中、リオたちは森の中で小さな焚き火を囲みながら休息をとっていた。夜空には星が瞬き、虫の音が響く中、リオは手のひらの銅貨――つまり主人公をじっと見つめていた。

「君、さっきの戦いでも少し光って応えてくれたよね。本当に不思議な力を持ってるんだ。」リオが優しく語りかけると、銅貨が微かに光を揺らした。

『俺が力の鍵になるってオルダンが言ってたけど、どうやればいいのか全然わからない…。でも、リオたちを守りたい。そのために何かできるはずだ。』主人公は心の中で決意を固めながら輝きを放った。

その時、カイが焚き火に薪をくべながら振り返った。「リオ、またその通貨に話しかけてるのか?なんか妙に気に入ってるみたいだな。」

「気に入ってるっていうか…なんだか話せる気がするんだ。」リオがそう言って笑うと、アリスも興味を示して手を差し伸べた。

「ちょっと貸してみて。ねえ、君、本当に私たちを助けてくれるの?」アリスが小声で銅貨に問いかけると、主人公は再び光を揺らして応えた。

『もちろんだ。だけど、喋れないのがもどかしい…。もっと直接伝えたいのに!』主人公は必死に輝きを強めたが、アリスは首を傾げたままだった。

そんな静かなひとときが続いた矢先、森の奥から異様な気配が広がった。

「来る…!」アリスが身構えると、リオとカイも立ち上がり、それぞれ武器を構えた。やがて木々の間から黒いフードを被った集団――黄昏の翼の一団が姿を現した。

「その娘を渡せ。」一人のフードの男が低い声で言い放った。「抵抗すれば、お前たちの命もないぞ。」

「アリスが狙いか…!」リオは驚きつつもカイと視線を交わし、戦う覚悟を決めた。

「何があっても渡さない!」カイが剣を抜き放ち、アリスはすぐに結界を展開した。しかし敵の数は圧倒的で、彼らの魔力の奔流が結界に容赦なく襲いかかる。

「結界が持たない…!」アリスの顔に焦りが浮かぶ中、敵の一団は一斉に攻撃を強めてきた。

『リオ、カイ、アリス…。何とかしないと、このままじゃ本当に危ない!』主人公は必死に力を振り絞ろうとするが、何も起こらない。

「くそっ、数が多すぎる!」カイが歯を食いしばり、リオも震えながら剣を握りしめた。

その瞬間、結界が破られ、敵がリオたちに迫ってきた。リオは思わず銅貨を掲げ、叫んだ。「お願いだ、君の力を貸して!」

リオの叫びに呼応するように、主人公の中で眠っていた力が目覚めた。

『俺は、この世界に転生した意味を今ここで果たす!リオたちを…絶対に守る!』

突然、銅貨が眩い光を放ち、リオの手から空中に浮かび上がった。そして、主人公の声が森中に響き渡る。

「誰一人、傷つけさせはしない!」

主人公の声が森全体に響き渡り、銅貨から放たれた眩い光が敵を包み込んだ。その光が黒いフードの一団の動きを完全に封じ、森の中に静寂が訪れる。

「い、今の声って…君が?」リオは驚きで目を見開き、銅貨を見つめた。

カイが口を開けて笑う。「お前、しゃべれるのかよ!?ずっと黙ってたくせに、なんてタイミングで出てくるんだ!」

「でも、すごい…あの力は本当に君が…?」アリスが目を潤ませながら銅貨を手に取ろうとするが、リオが慌てて引き戻す。「待って、僕の相棒だからね!」

『…ごめん、驚かせたかな。でも、みんなを守りたくて…それで…』主人公は初めての言葉に戸惑いながらも、心の中で強い決意を込めて語る。

「守ってくれたんだね。」リオは主人公をぎゅっと握りしめると、声を震わせた。「ありがとう。本当にありがとう!」

アリスもそっと微笑みながら主人公に語りかけた。「あなたがいたから、今こうして無事でいられる…。これからも一緒に戦ってほしい。」

「それにしても、こいつが喋れるなんて、もっと早く教えてほしかったぜ。」カイが軽口を叩きつつも、目にはほんの少し涙が浮かんでいた。

『これからは、ちゃんとみんなを支えるよ。仲間だから。』主人公は静かに光を揺らし、全員に応えるように輝いた。

リオが銅貨を胸に抱きしめる。「これで、どんな敵が来ても大丈夫だね!」

「その気持ちが大事だな。」カイが剣をしまい、肩を竦める。「次はきっともっとヤバい奴らが来るだろうけど、こいつがいれば心強いな。」

「でも、油断はできない。黒いフードの一団が撤退したとはいえ、また追ってくる可能性が高い。」アリスが周囲を警戒しつつ言った。「セリファの聖堂まで急ぎましょう。」

三人と一枚の銅貨――主人公の新たな絆が、森の夜空の下でより強く結ばれた。そして彼らは再び歩みを進め、次の試練へと向かっていった。

〜次回予告〜
「主人公が喋るようになり、みんなの絆もより深くなっていく。しかし、セリファの聖堂まではまだ遠く行手をさらなる試練が主人公達を襲う―」
第16話「迫り来る影」をお楽しみに!

いいなと思ったら応援しよう!