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「俺、異世界の通貨になりました。」第十六話。

第16話「迫り来る影」

セリファの聖堂へ向かう道中、森の朝は冷たく清々しい空気に包まれていた。リオたちは一夜の騒動で疲れていたものの、主人公が言葉を発したことが彼らに新たな希望と絆をもたらしていた。

「それでさ、ずっと聞きたかったんだけど、どうして喋らなかったんだ?」カイが歩きながら、リオの手の中にある銅貨――主人公に問いかける。

『喋れるようになるのに時間がかかっただけで…意識はずっとあったんだ。でも、今こうしてみんなと話せるようになって本当に嬉しい。』主人公は微かに輝きながら答える。

「じゃあ、これからは何でも話してくれよな!頼りにしてるぜ。」カイが笑いながら肩をすくめると、リオも笑顔を浮かべた。

「でも不思議だね。」アリスが静かに言った。「普通の通貨がどうしてこんな力を持っているのか…。それに、古代エルフがリュシエルの宝石を作り出したのなら、あなたの存在も彼らと何か関係があるのかもしれない。」

『俺自身、どうして通貨になったのかよく分からない。ただ…力が覚醒した時に感じたんだ。この世界に俺が来た理由は、きっとみんなを守るためなんだって。』主人公の言葉に、リオたちは真剣な表情で頷いた。

〜不気味な予感〜

森を抜けた先には険しい山道が待っていた。セリファの聖堂は、その山の中腹にひっそりと隠されていると文書には記されていた。

「見張りがいるかもしれない。気を引き締めて進もう。」アリスがリュックから地図を取り出しながら言うと、カイも剣を手に構えた。「敵が出てきたら、俺が先陣を切るぜ。」

リオは主人公を握りしめ、心の中でつぶやいた。「君がいてくれるから、怖くないよ。」

『俺だって、君たちを守るために全力を尽くすよ。』主人公の光がリオの手の中で力強く輝いた。

しかし、その時――

「待って!」アリスが鋭く声を上げた。彼女の目は険しい山道の先に向けられていた。そこには黒い影がうごめいていたのだ。

「また、黒いフードか?」カイが眉をひそめながら剣を抜く。

「違う…。」アリスは震える声で言った。「あれは、魔獣よ。」

突然、霧の中から現れたのは巨大な狼のような魔獣だった。全身を漆黒の毛で覆われ、目は燃えるように赤い。

「こいつ、ただの魔獣じゃない。リュシエルの宝石を守るために置かれた番人かもしれない。」アリスが冷静に分析する一方で、魔獣は鋭い牙をむき出しにし、唸り声を上げた。

「やるしかないな!」カイが飛び出し、剣を振り下ろす。

リオはその様子を見守りながら、主人公に話しかけた。「君の力もまた必要になるかもしれない。」

『わかった。俺も力を貸す。』主人公の光がさらに強く輝き、リオの手の中で温かさを増した。

〜新たな試練〜

カイの剣が魔獣に当たるが、硬い毛皮に阻まれ、傷一つつけることができない。

「なんて防御力だ!」カイが後退し、息を整える間もなく、魔獣はその巨体で彼に突進してきた。

「カイ!」リオが叫ぶと同時に、アリスが守護の結界を張り、カイを守る。「無茶しないで!」

「すまない…。でも、どうすれば…!」カイが悔しそうに叫ぶ中、リオが主人公を握りしめた。「君の力を試してみるよ!」

『やってみよう、リオ。俺を投げてみてくれ。』

リオは一瞬戸惑ったが、主人公を信じて叫んだ。「いくよ!」

リオが全力で主人公を投げると、銅貨は眩い光を放ちながら魔獣の額に直撃した。その瞬間、魔獣が苦しむように吠え、動きが鈍くなった。

「効いてる!」アリスが声を上げた。「今がチャンス!」

カイが再び剣を構え、渾身の一撃を繰り出すと、魔獣はついに崩れ落ちた。

〜次の目的地へ〜

「ふぅ…。なんとか倒せたな。」カイが剣を納め、息をつきながら言った。

リオは地面に落ちた主人公を拾い上げ、ほっとしたように笑った。「君のおかげだよ。本当にありがとう!」

『俺もみんなに助けられたよ。これからも一緒に頑張ろうな。』

アリスが地図を見ながら言った。「でも、これで安心している時間はないわ。セリファの聖堂はもうすぐそこ。この先で何が待っているのか分からないけど、準備を整えて進みましょう。」

リオ、カイ、アリス、そして主人公――それぞれの決意を胸に、彼らは再び歩みを進めるのだった。

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