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「俺、異世界の通貨になりました。」第十話。
第10話:旅立ちの決意
夜明け前の静寂が、村を包んでいた。鳥の囀りもまだ遠く、薄明かりの空にはわずかな星々が残っている。村外れの家で、リオとアリスは荷物をまとめていた。少ない衣類と食料、地図、そして彼らが必要だと判断したいくつかの道具。荷物は最小限だったが、それが二人の覚悟を物語っていた。
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「本当にここを出るんだね…。」リオが、小さな声で呟いた。
アリスはふと手を止め、リオの顔を見つめた。その目には覚悟とともに、少しの寂しさも浮かんでいる。「私がここにいることで、また村を危険にさらすわけにはいかない。逃げるしかないの。」アリスは淡々とそう言ったが、その声にはどこか自分を責める響きがあった。
「でも…俺はここが好きなんだ。みんなも…母さんもいるし。」リオの声は揺れていた。
その時、台所から足音が聞こえ、リリアが二人のもとへやってきた。彼女の手には包みが一つ。「これ、旅の途中で役立つと思うの。干し肉とパン、それに少しの薬草を入れておいたわ。」
「ありがとう、母さん。」リオはその包みを受け取ると、そっと胸に抱えた。
リリアはリオを見つめ、その髪を優しく撫でた。「リオ、本当に大丈夫なの?まだ子どもなのに、こんな危険な旅に出るなんて…。」
リオは一瞬だけ母の顔を見上げた後、ポケットから銅貨を取り出した。それは柔らかい金色の輝きを放ち、部屋の中を淡く照らした。「大丈夫だよ、母さん。俺にはアリスがいる。それに、こいつもきっと力を貸してくれる。」
リリアはその光に目を細めた。銅貨の存在が、どこか不思議な安心感を与えるようだった。「そう…でも、気をつけて。必ず無事に帰ってきてちょうだい。」
リリアはリオとアリスの前に立つと、ぎゅっとリオを抱きしめた。その温もりに、リオは少しだけ涙をこらえた。
〜夜明けと別れ〜
出発の時が来た。薄明かりが次第に空を照らし始め、村に新しい朝が訪れようとしている。リオとアリスは家の前でリリアと向き合った。
「ありがとう、母さん!絶対に帰るから!」リオが振り返り、力強く声を上げた。
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リリアは涙を隠すように微笑みながら手を振った。「リオ、アリス、二人とも気をつけて。」
草原へと続く道を歩き始める二人。後ろを振り返ると、リリアの姿は小さくなるばかりだった。アリスが静かに言った。「リオ、振り返ると辛くなるわよ。」
リオは少しうつむきながらうなずき、母の姿を見るのをやめた。
〜追跡者の影〜
しかし、遠く離れた森の中で、その様子をじっと見つめる者たちがいた。黒いフードをかぶった男たちだ。
「アリスが動き始めたようだな。」リーダー格の男が低い声でつぶやいた。
「どうします?村を離れるなら、奴らを仕留めるのは容易いでしょう。」部下の一人が尋ねる。
「グリーンヒルズへ向かう途中で仕掛ける。奴が持つ“知識”を逃すわけにはいかん。」リーダーは冷たく言い放つと、フードを深くかぶり直した。その目には暗い決意が宿っていた。
〜初めての冒険〜
「次の町はグリーンヒルズだよな?」リオが地図を見ながら確認する。
「ええ。ここから半日くらい歩けば着くわ。でも、その途中で何が起こるか分からない。油断は禁物よ。」アリスの声には警戒心がにじんでいる。
リオは笑みを浮かべ、胸を張った。「心配するなよ!俺が守る。それに、こいつも力を貸してくれるから。」彼はポケットの銅貨を取り出し、その輝きを見つめた。その光は、どこか不思議な安心感を彼に与えるものだった。
広がる草原の向こう、太陽がゆっくりと昇り始める。その光は、二人の背中を照らし、これから待ち受ける冒険の期待と試練を予感させるものだった。
しかし、彼らの背後では、黒いフードの男たちが一歩ずつ迫っていた。そして、この旅がただの冒険では終わらないことを、まだリオたちは知らない。
〜次回予告〜
グリーンヒルズでリオたちは新たな仲間と出会う。しかし、その穏やかな日々は長くは続かない。迫り来る黒いフードの脅威が、二人を再び試練へと導く。
次回、「新たな出会い」をお楽しみに!
「・・・続く。」