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入院雑記vol.12『私小説』

今年度の芥川賞候補作品の中で、
市川沙央さんの『ハンチバック』
という作品が気になった。

「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」

ハンチバックー市川沙央

この文章の綺麗さに大変惹かれたからだ。
雷を打たれたみたいに、胸の奥にドシンと、
まっすぐ衝撃を浴びた。

6/22に店頭販売ということだったので、
外出許可をもらって近くにある
個人経営している近くの本屋を訪ねてみると、
無い、(ガーン....。)とのことだった。

なので代わりに、ハンチバックに関する
インタビュー記事を読み漁ると、

著者である市川さんも、
物語の主人公と重なるような形で
今回の作品を書いており、
「私小説」に近いものがあることがわかった。

すると私の書き連ねている
この入院雑記シリーズは、
「私小説」というジャンルに入るのでは
ないか、とふと考えた。

私小説といえば、自分の実体験を基盤に
書かれる、ノンフィクションものを
思い浮かべるのだが、
定義はどんなものだろう。

早速調べてみると、
「文藝」2022年秋季号の特集で
「蛇にピアス」の著者でお馴染みの
金原ひとみさんが責任編集をする際、 

私小説のことをテーマにすることに対し、
そもそも私小説の定義を確証させることの
難しさを話されていた。

難しいですよね、現実に起こったことをどれだけ忠実に書こうと思っても、文章は書いた端からフィクションになってしまう。書くことを取捨選択して、言葉を選んで、という段階ですでに現実そのものからはかけ離れたものになってしまうし、人が書く以上多かれ少なかれ脚色、改ざん、物語化は避けられない。それでいて、実在するモデルには慎重な配慮も必要です。でも逆に、ミステリーとかファンタジーとか、フィクション性の高いとされる小説が完全にフィクションなのかと言うと、それはそれで著者自身が脳内で作り上げたものを描写しているわけだから、著者自身の要素はしっかり詰まっているとも言える。著者は著者自身をそのまま書くことはできないし、著者はどんなに自分自身を隠そうとしても隠しきれない。つまり、著者そのものと、著者の喪失との間に、全ての文章は存在していると言えます。

この文章には至極納得させられた。

読みながら、
「さすがです....。心から崇拝です...。」と
金原さんがいらっしゃる方角に向かって、
全身を地平線と限りなく平行に近づけて
深く頭を下げ、ひれ伏したくなる
思いにさせていただいた。

私はいまの今まで、
入院生活のありのままを剥き出しにして、
書いてきたつもりだったが、

そこにはノンフィクションを装って、
若干言葉の雰囲気や、文章の流れ、言い回しを
良くするためにリシェイプされた記憶も
ありつつあるのは確かだった。

自分の裸をぜんぶ晒すような思いで
紡いできた言葉は、
実は建前同然のもので、
私が体験していない、
全く関係のないどこから派生してきたのかも
わからない、きっと美しい響きが、
私に降りてきて、記憶と融合し、
結びついたから書けたんだ、と

この文章を読んで
はっきり自覚させられた。

真実をありありと伝えることの難しさに
薄々気づいていたと思っていたが、
それをひとの目につくよう、
記憶の体裁を整えた時点で、
もうノンフィクションは
フィクション化してしまう。

その考え自体に私は無意識状態で、
だけど嘘では無いけど嘘みたいな、
言葉に表せないもごもごとした気持ち悪さを
抱えて、
でも、自分を悲観的かつ儚く綺麗に見せるための表現を見つけては自己陶酔に浸って
私の書きたい「私」という
ノンフィクションを書いていたんだと。

そのことに気づいた。

でも逆に、小説を書こうとすれば
私の真実が文章の裏に存在する感覚も、
言われてみれば確かに、であった。

私が書いた「こころのひだ」と
「なめらかに輪郭」も創作なのに、
私のリアルが、趣味が、フェチが、
私の文章には隠れることなく、
文章に込められていると思う。

現に、高校時代の私の症状について
理解ある友達に見せたところ、
私の趣味が案の定全部バレてしまっていて、

恥ずかしすぎて
枕を顔に押し当てて叫びたくなった。

その時、美しい文章が書けるよう
もっと上手くなって、
私がみんなを欺けるようになりたい、と
強く思った。

フィクションにしろ
ノンフィクションにしろ、
私はどんなに自分を隠せなくても、
もしくは嘘を書かなきゃでも、
私は、私の書きたいことを書く。

たとえ嘘や真がごちゃ混ぜになっても、
誰もが読めば陶酔する文章を書けるように
なりたい。
その気持ちはあるから。

入院雑記、以上。

PS 塗り絵を久々にした。配色が毒々しい。

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