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入院雑記vol.11『病める者には美術は救いになる』

セラピーの一環で、
看護師さんが他の患者さんと一緒に
美術館へ連れて行ってくれた。

美術館には、
江戸時代の甲冑や刀、刀の鍔、
時代物のホロカメラやタバコのキセル、
ガラスの香水、花瓶、タイプライターなどが
大変綺麗な保存状態で展示してあった。

甲冑。青と白のグラデーションが綺麗。
勇ましい刀たち
繊細なガラスの花瓶
いろんなカメラ


本当に見応えある、
見事な数のコレクションだった。

そして、展示スペースの奥には
カフェがあって、レトロカラーの椅子が
机を囲むようにして並んでいた。

さみしい雰囲気が気に入った

店内は薄暗く、ここも人気も少なかったが、
コーヒーや、カルピスなんかが
300円くらいの値段で気軽に飲めた。

私はアイスコーヒーを頼んだ。

涼しげなくびれ付きのグラスに注がれた
コーヒーは、どこか昭和を思い出させた。

窓の外に目をやると
北欧の湖畔を思い浮かべるような、
大きな池が一面に広がっていた。

その日は風が強いせいか、
池の水面は波立ち、
辺りの草はざわざわと揺れていた。
ただ、後ろの山々は
風に輪郭を変えられることなく、
堂々とそこに在り続けていた。

アイスコーヒーをストローで啜りながら、
その借景のような外からの眺めを、
空白な心のうちで記憶し続けた。


無糖のままではいつも苦いから、
ガムシロップとミルクは欠かせない。

いつもそれらを上から落とす作業と、
コーヒーの黒に透明の液体とミルクが
混ざり合う過程が好きだ。

というか、何かが融合するそのものが
好きかもしれない。

ココアパンケーキをよく焼いていた時、
小麦粉と卵に牛乳、それからココアを
入れて混ぜ合わせるとマーブル調になって
とても楽しかったのを覚えている。

逆にクッキーを作る時は、
バターを入れた瞬間、生地がぼそぼそとして
粉っぽくなるのを潰しながら、
一つのまとまりに固める作業が面白い。

ホイップクリームを作る時だって、
氷水にボウルをつけながら、
砂糖を少しずつ加えて泡立て器の機械で
高速に混ぜれば、徐々に粘度を上げて、
ずっしりと重たいクリームが出来上がる。

だからタイムループして、
何度も同じ体験をするならば、
何かを混ぜ合わせて形を変える、
お菓子作りの時間がいいなと思う。


コーヒーを飲み終わったあとは、
気の済むまで数々のコレクションを観た。

芸術は、自然と同じで、
ただそこに存在するだけで
私の脳内に語りかけ、癒しをくれる。

その言葉のない対話が、
いや、言葉を超えた通じ合い方が、
感動するほどに
「私は一人じゃない」と思わせてくれる。

雷雨の中、神さまに静かに願った、
「一人じゃないって教えて欲しい。」は、
今日ここで、叶えられたのかもしれない。

悲しい出来事に引っ張られて
心をよく揺さぶられる、地盤のない私だが、

芸術は、ただ観るだけで、心を奪われ続け、
幸せな気持ちで満たしてくれることに
気付けた。

そうだ、全部周りは芸術だと思えば、
私はいつも多幸感に満ちるのではないか、
と日常を生きる上でのヒントも、もらえた。

よく聴く言葉だが、
芸術は病める者には救いになるとは、
本当の言葉だった。

そういった、気づきを与えてくれる、
素晴らしいレクリエーションだった。

参加費は200円ととても安かったが、
たくさん、気づきを貰えて、
とてもありがたい一日だった。

また行こう。
今度は、別の美術館にも行きたい。

入院雑記、以上。

PS アイスコーヒーとても美味しかった。

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