【脚本】スター・トルーパー
【著】松田、大島
〇作品紹介
「そろそろ結婚しないの?」
ガラス張りの部屋にテレビが一台。
日々は変わらず、眠れぬ夜。
今日も宇宙船は目的地に向かって進み続ける。
○登場人物
・男(カダック)
・お母さんテレビ
・女教官
【シーン1】
●ガラス張りの部屋にテレビが一台。テレビにはお母さんが映っている。そこに独身男がトイレから戻ってくる。
●SE「ジャー」というトイレの音。
男:で?なんだよ母さん。
テレビ:だから、そろそろ結婚しないのかって聞いてるのっ。
男:そんなもん、おれの勝手だろ?
テレビ:お母さん、早く孫の顔が観たいわぁ。
男:だったら、弟も妹もいるだろ。姉ちゃんに至っては結婚だってしてるし。
テレビ:それはそうだけど〜。
男:なんだってそんなに俺に結婚を勧めるんだよ。
テレビ:お姉ちゃんって言ったって、あの子の結婚相手って……その、あれじゃない?
男:なにが悪いんだよ。
テレビ:別に悪いなんて言ってないのよ?言ってないんだけど……
男:だったらいいだろ。毎月毎月そんなことで連絡してこないでくれ。
テレビ:……あんた、そっちの部隊に所属して何年目?
男:3年目。それがなに?
テレビ:3年目ったら、あんたそっちで好きな人とかできてもおかしくないわよね?
男:またそこにいくか。できてないよ。毎日命かけてんだ。そんな暇ないって。
テレビ:良かったわぁ。あんたもお姉ちゃんみたいになったらどうしようかと。
男:そんなの、まだわかんないって。
テレビ:ほらね、お母さんはそれが心配なの! だったら早めに手を打ったほうが良いとお母さんは決めたの。どう? 今日はこの人。綺麗な
男:お見合いもしない!そろそろ訓練の時間だし、もういくよ。
テレビ:待ちなさい。これだけは約束して。結婚相手は絶対に地球人にするのよ。仮に地球人じゃなくても、見た目は地球人に近い人にして。約束よ。わかったの!?
男:……わかったよ。だからもうお見合いは薦めないでくれ。じゃ、行ってくるよ。
●SE「テレビを消す音」テレビハケ
●男ハケ
【シーン2】
●宇宙船内。独身男は訓練場へ向かう。そこに教官が来る。
●教官入り
教官:よぉ、カダック。
男:教官!お疲れ様です!
教官:なんだおい、疲れた顔して。訓練は今からだぞ?そんなんで耐えられるのか?
男:え? あぁ、また母親にお見合いを薦められましてね。
教官:お見合い?わざわざお見合いなんてせんでも、この宇宙船内には女なんていっぱいいるだろう。
男:そうなんですがねぇ……
教官:なんだ、何か言いづらそうだな。お前と私の仲じゃないか!言ってみろ、ほれっ。
男:はぁ、その、おれ姉がいるんすよ。もう結婚してるんですが。
教官:ほぉほぉ。おめでたいではないか。
男:それはまぁ、そうなんですけど。結婚相手がオクト星人でして。
教官:オクト星人って、言っちゃ悪いがあのタコみたいな奴らだよな?
男:えぇ。だから母は俺の結婚相手はせめて地球人みたいな見た目にしてくれと。孫の見た目は地球人みたいな方がいいんでしょうね。
教官:はっはっは。母上の気持ちわからなくはないな。
男:お見合いはしたくないし、かと言って船内に地球人は少ないし。だからしばらく待ってくれって言ってんのに毎月毎月連絡してくるんですよね。
教官:ふ〜ん、そっか。じゃあ、続きは後だ。とりあえず訓練だぞ、やる気出せー!
男:聞いた割に他人事っすね……
●「男」「教官」ハケ
【シーン3】
●訓練を終え部屋に着く独身男。そこに来る教官。
男:訓練だけだと、やっぱ疲れるなぁ。風呂入るかぁ。
教官:おい、カダック! 待てって。
男:教官。なんすか?
教官:なんすかって、お前さっきの話の続きだよ。
男:あれ、軽く流された気がしたんすけど。
教官:私にいい考えがあるんだ。
男:いい考え?
教官:母上が心配なのは君の結婚相手がグロテスクな奴なのかどうかってことだろ?
男:そうですね。特に船内には色んな星の種族が混在してるんで、より心配なんでしょう。
教官:さぁ、母上を呼ぶのだ!
男:えぇ? なにする気ですか。
教官:いいからいいから。
男:わかりましたよ。
●独身男はテレビをつける。画面には母は映っていない。が、パタパタと走ってくる。
男:母さん。
テレビ:なになになになにー!?お見合いする気になったの!?
男:いや違っ
テレビ:ちょっと!誰!?そこの女性!綺麗な人じゃないの〜。
教官:母上さん。お話が
テレビ:母上だなんて〜。お母さんでもいいのよ〜。
男:母さん、話を聞いてくれ。
教官:お母さん、息子さんの結婚相手ですが、この船内にも多くはありませんが地球人はおります。地球人じゃなくとも地球人のような見た目の種族もおります。現在、艦は次の戦地へと進行中であるためすぐに色恋ができるわけではありませんが、息子さんならきっと良い女性を見つけることができると思います。今はこっちに集中させてやってはくださりませんか。
テレビ:息子のことをそんなに心配してくださって……
男:きょ、教官
テレビ:良いじゃない。この方とお付き合いしなさいな。
男、教官:えっっ!?
テレビ:あなたも地球人なのでしょう?
教官:そ、そうでありますが。
テレビ:なぁんだー、ちゃんと良い人いたんじゃないのー。通りでお見合いを何度も断るわけだわぁ。
男:いや、そういう理由で断ってたわけじゃなくて
テレビ:あら、私はお邪魔よねぇ〜。じゃ、仲良くねっ。ちゃんと決まったら連絡するのよ〜。じゃねっ。
●テレビ消える。お母さんハケ。テレビ点く。お母さん入り。
テレビ:息子をよろしくねぇ〜。ばいばぁい。
●テレビ消える。お母さんハケ。
男:教官!こんなことになりましたよっ!?
教官:お、おおかしいなぁ
男:でも、お見合いの紹介はもうしてこないでしょうね、たぶん。
教官:よ、良かったじゃないかぁ?
男:……ありがとうございます。
教官:じゃ、じゃあ、私は仕事が残っているから!
●教官ハケ
男:あ、ちょっと! ……汗だくだ。風呂、入るか。
【シーン4】
●翌日。宇宙船内の訓練場
教官:よぉ、カダック。
男:教官、お疲れ様です。
教官:なんだおい、今日はいつも以上に疲れた顔してるぞ?さては昨日のことを気にしてるんじゃないだろうな?
男:いや、最近よく眠れなくて
教官:それはよろしくないな。命にとって睡眠は大切だぞ?
男:そうなんですか
教官:……
男:なんですか?
教官:はぁ……なんだ、また何か言いたそうだな。仕方ないから今回も聞いてやる。言ってみろ、ほれほれっ。
男:えーと。教官……
教官:なんだ?
男:おれのこと、どう思います?
教官:……はぁ!?
男:おれのこと、どう思います?
教官:いや、二度も言わんでも分かる!え?やっぱり昨日の母上の言葉を本気にしたってことか!?
男:いや、そーいうわけではないんですけど
教官:そーいうわけじゃないってどういうことだ!!
男:なんで怒ってるんですか
教官:ゴホンッ。取り乱してすまなかった。それで、私がお前をどう思っているかということだったな。
男:はい。教官は俺の事、どう思ってますか?
教官:そうだな、お前は私の部下であり、大切な仲間だ。
男:俺も教官のこと、いい上司であり、大切な仲間だと思ってます。
教官:一体どうした急に
男:いや、聞いてみたかっただけです。
教官:なんだか今日のお前は変だな
男:そうっすか?気のせいですよ、きっと。
教官:まぁそれもそうだな。よし、さっさと今日の訓練を始めるとしよう!
男:今日こそは負けませんよ
教官:ふん。寝言は寝て言え
男:寝不足の俺に嫌味ですか?
教官:どーだかな(笑)
●「男」「教官」ハケ
【シーン5】
●舞台の両端にカダックとテレビ
テレビ:入隊おめでとう。あんた前からそこの部隊に行きたがってたもんね。
男:ありがとう、かあさん!俺頑張るよ!
テレビ:そういえば、最近そっちから連絡ないけど大丈夫?
男:大丈夫だよ。一年目は結構やること多くて忙しいんだ。
テレビ:そうなのね。まぁそれでも時々連絡ください。母さんとっても心配なので。
男:わかってるよ。じゃあまた。
テレビ:お元気ですか?やっぱりそっちは毎日忙しいの?
男:まあね。
テレビ:あんた、彼女とかいるの?
男:いないよ。
テレビ:そうなのね。
男:あぁ
テレビ:私はね、あんたが幸せなら相手なんて誰でもいいのよ?
男:もしも…もしも俺がオクト星人と結婚するって言っても母さんは反対しない?
テレビ:馬鹿な事言わないで!!
男:え?でもさっき
テレビ:オクト星人なんて最近確認されたばっかの生物じゃない?そんな得体の知れない生物と一緒にご飯とか母さん嫌よ!?
男:母さん…
テレビ:この前なんてお隣さんがとーーーっても綺麗な地球人のお嫁さん連れて挨拶しにきたのよ?
男:この前さ、姉ちゃんと電話したんだ。
テレビ:やっぱり地球人は知名度もあるし、星としての治安もしっかりしてるから安心よ?清潔だし、ちょーーと戦闘には向いてないけど、技術力はあるし…
男:姉ちゃん、すごく幸せそうだったよ。
テレビ:あ、そうだ!またお見合い紹介してあげるわよ!あんたに合いそうな娘見つけたのよ!
男:なぁ、母さん。
テレビ:顔も綺麗で、あんた好みで
男:母さん!!
テレビ:……
男:俺は母さんの所有物なのか?
テレビ:母さん、あんたが幸せなら相手なんて誰でもいいのよ?
男:もう…わからない…
テレビ:でも、早く孫の顔が見たいわ
男:やめてくれ
テレビ:相手は地球人。それがいいわ。
男:もう…
テレビ:いいお見合い手を探してきたわ
男:やめてくれ!!!!
●教官入り
教官:大丈夫か!?カダック?すごい汗だぞ?
男:はぁ…はぁ…夢か…
教官:最近眠れていないってのは本当だったんだな
男:はい…それで、教官はどうして部屋に?
教官:あぁ。とっくに訓練時間だ。
男:あ…すいません
教官:気にするな。それより、お前自身は大丈夫なのか?
●男、テレビを見る。消えていることに一安心する。
男:大丈夫です…心配かけてすいませんでした。
教官:そのようには見えんがな
男:そうですか?
教官:あぁ
男:……
教官:なんですか?
教官:私はお前に謝らなければならないことがある。
男:なんですか?
教官:昨日聞いたろ。自分のことをどう思っているかと。
男:ええ
教官:すまん。私は少し嘘を言った。
男:嘘?
教官:いや、正確には言わなかったというのが正しいか。
男:なんですか?
教官:私はお前を、研究対象として見ている。
男:……
教官:プロジェクトの全貌を話すことはできないが、私の役割は、お前の上司として訓練を行い、監視、観察することだ。
男:……そうでしたか。
教官:すまない
男:どうしてそんな大切なことを今更言うんですか?言わなければ俺はきっと気づきませんでしたよ?
教官:言ったろ?
男:はい?
教官:私はお前を研究対象として見ていると言ったが、お前のことが部下であり大切な仲間と思っていないとは言っていない。
男:それって
教官:私はお前の力になりたいと思っている。
男:……
教官:相手の本音を聞き出すためには、自分の腹の中を見せる必要がある。それは地球人であっても異星人であっても同じことだ。
男:教官は大丈夫なんですか?上の人からの処罰が下るんじゃ?
教官:かもな
男:随分と適当っすね!
教官:まぁな
男:それはそれで教官らしいっすけど
教官:なんか褒められてる気がしない!
男:……教官
教官:なんだ?
男:今日の訓練、俺の部屋でやってもいいですか?
教官:ほう…どうしてだ?
男:訓練の成果を教官に見せたいんですよ。これに向けて。
●カダック、テレビの前に立つ
教官:いいのか?
男:ええ
教官:お前も後々母上から処罰が下るんじゃないか?
男:その時はその時です
教官:それもそうか
男:明日には、次の星につきますね
教官:そうだな
男:次の星はどんな星ですかね
教官:きっとまた命がけで上陸することになるだろう
男:なんででしょう。今までで一番楽しみです。
教官:それはとても良いことだ。
男:ええ。今日はぐっすり眠れそうです。
教官:じゃあそろそろやっとくか?
男:そーですね!せーーーーーの…!!!
●誰もいなくなった部屋に壊れたテレビのノイズ音だけが響いている。
そして、ノイズが止み、再びテレビが点灯する。
END
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