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【リレー脚本】SPIRAL HERO~螺旋階段で踵を鳴らせ~(前編)

【著】山田→大島
お題「階段、ピアノ、バトルもの」で山田と大島が作成したリレー脚本。

堕ちる騎士
十字架を背負った少女
ピアノを弾くきこり
番傘をさした考古学者
螺旋の階段は立ち尽くし、天蓋は空を覆う。

○登場人物

・ヒーロー
・ヒロイン
・悪い人
・ランバージャック

前編(山田)

【シーン0】

ヒロインが一歩、また一歩、螺旋階段を登っていく。
悪い人は、ヒロインを眺めている。

悪い人「喝采せよ、喝采せよ!天蓋へと通ずる階段を、十字架を担いだキリストが登るのだ。いま、いま、彼の者の血を以ってして、天は蒼へと染まる。釘を!槍を!布を!貴様の望んだその時だ!螺旋階段のその果てに! 蒼天の夢は終わらない!」

【シーン1】

ヒーローが落下している。

ヒーロー「落ちる、落ちる。この感覚は慣れない。ああやって一歩ずつ、踏みしめながら登った階段も、落ちるときにはこうも一瞬なのかと、いつも思う。目を閉じて、流れに身を任せ、自分は悪くないのだと思い込む。ああ、ああ、地に足はない。」

ヒーローがピアノの上に落ちる。ピアノの横にはランバージャックがたたずんでいる。

ランバー「やあ、僕の愛しい御敵。」

ヒーロー「…ランバージャック。」

ランバー「君はどうしてそういつも、どこかしらから落ちてくるんだい。」

ヒーロー「…。」

ランバー「林檎を見つめるニュートンの気分だ。」

ヒーロー「なぜだろう。」

ランバー「なぜだろう。」

ヒーロー「なぜ俺はいつも、どこかしらから落ちているのだろう。」

ランバー「きっと、重いからだろう。」

ヒーロー「重い。」

ランバー「演劇を見たんだ。ひとりの天才が、人の心や想いに、引力が働くことを発見する話。なかなか面白かった。」

ヒーロー「…そうか。」

ランバー「いまの君の心には、数々の想いがぶら下がり過ぎているんだ。その重い想いの重さで、この螺旋の階段からも落っこちるんだろう。」

ヒーロー「…。」

ランバー「少しだけ、がっかりしているんだ。僕の首を引きちぎった頃とは別人だよ。」

ヒーロー「…俺はどうすれば。」

ランバー「どうすれば。」

ヒーロー「どうすれば俺は、この重い想いの鎖を引きちぎることができる。」

ランバー「簡単だよ、Knight of lady。自分の心の中にある、もっとも強く、大きく、傷だらけの槍を手に取るんだ。」

ヒーロー「一本の、槍を。」

ランバー「この国の将来のために戦うのも、あの天蓋を護るために戦うのも結構だけど、もっともっとシンプルな想いがあるはずだ。」

ヒーロー「…、クセルクルス…。」

ランバー「そう、そう。」

ヒーロー「彼女はいまどこに。」

ランバー「螺旋の階段に。」

ヒーロー「なぜ。」

ランバー「彼女は鍵だ。重い想いの重さを利用し、君を螺旋の階段から突き落とした彼にとっての鍵。そして唯一、あの天蓋を破壊せしめる蒼天への鍵。」

ヒーロー「…なに。」

ランバー「あの天蓋は、産業革命以降に人々が積み上げてきた罪の山だ。」

ヒーロー「…。」

ランバー「しかし、その罪によって空を奪われ続けた人々の想いは重い。その重さが、彼女に階段を登らせる。」

ヒーロー「クセルが、自分から…。」

ランバー「彼女は十字架を背負ったキリストだ。その死は、人々を天蓋から解放する。彼女の紅い血が天を蒼に染めるとき、彼女は聖女となるのさ。」

ヒーロー「自分から、望んで…。」

ランバー「ならば君はどうする、Knight of lady。」

ヒーロー「…。」

ランバー「彼女の意志を尊重するか。」

ヒーロー「…。」

ランバー「はたまた、君の想いを押し付けるか。」

ヒーロー「あ…。」

ランバー「君の手にした槍には、何が刻んである。」

ヒーロー「俺は…。」

ランバー「俺は。」

ヒーロー「俺は騎士だ!クセルクルス・ルナ・アクタルの騎士、彼女だけの騎士だ!我がお役目は、彼女の生きた盾となり、彼女の猛る槍となり、この身とこの心を以ってして、その御身をお守りすること!」
 
ランバー「ならばゆけ、彼女のもとへ。僕の愛しい御敵よ。Little ladyは待っている。Knightが助け出してくれるのを、ずっと。時間はあまりない。」

ヒーロー「どうすればクセルに追いつける!」

ランバー「螺旋の階段を駆けても間に合わない。だが、ピアノがある。」

ヒーロー「ピアノ。」

ランバー「音は速い。音の階段を駆ければ十分に間に合う。」

ヒーロー「…ランバージャック。」

ランバー「きこりの手でも、低い音から高い音へ、低い場所から高い場所へ、音の階段を弾くことは可能だろう。」

ヒーロー「我が愛しき御敵。」

ランバー「ただし、ピアノマンのように丈夫な階段はつくれない。音には音を。いいかい、裾をひるがえし、踵を鳴らして駆けるんだ。」

ヒーロー「礼を言う。」

ランバー「ゆけ、Knight of lady。踵を鳴らせー!」

ヒーロー以外の演者全員 踵を鳴らす!

ランバージャックがピアノを弾く。ヒーローは音の階段を駆けあがる。
ヒーローが踵を鳴らすたびに、ピアノの音が弾ける。


SPIRAL HERO~螺旋階段で踵を鳴らせ~(後編)

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