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カジノにハマれる人間と、ハマれない人間。 【ラスベガス探訪記】
みなさんは、どんな虚構を信じてますか?
「サピエンス全史」で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが、人類は「虚構を信じる力」によって進化してきたと述べていますが、ラスベガスは、この言葉を体現しているような街でした。
左を向けば偽コロッセオ、右を向けば偽トレヴィの泉、後ろにそびえるは偽エッフェル塔と、虚構を養分としてすくすくと育った、偽の各国観光名所が、ジャングルの木々のように恥ずかしげもなく立ち並ぶ。
高校時代、文化祭で有志が集まって、竜宮城やホグワーツなど、物語に出てくるランドマークを校門付近に建築し、お客さまをお出迎えする「アーチ」という不思議なカルチャーがあり、これに関しては生徒同士が結束力を高め、高校生にしてモノづくりの一端に触れることができるという点でも思い出深い学びがあったように思うのですが、この「アーチ」の制作を卒業してからも無理強いされているかのような、終わりの見えない虚しさが、このカジノの街にはありました。
※竜宮城を作った年の記事
そんな空虚な街並みを目の当たりにして、お金の増減に一喜一憂するという行為自体の空虚さにも早々に気づいてしまい、出国前の「ラスベガスではカジノで勝って豪遊してやろう!」との威勢のよさは何処へやら。
とはいえ、せっかくラスベガスに来たのにカジノをやらずして帰れば、今後、飲みの席でラスベガスの話になるたびに「冒険しない無粋なやつ」というレッテルを無言で貼られ、雑魚のととまじりのような扱いを受けながら、すみっこでお酒をちびちび飲むハメになるかもしれないし、元々は「負けたとしても100万円くらいは派手に負けて、景気のいい土産話でもこさえてやろう」と仲間内にも息巻いていた手前、引くにも引けず。
「まずは初日だし挨拶がわりに…」と、渋々ATMで引き出した100ドル札3枚を握りしめ、この旅の連れ、大学時代からの友人・河野氏と共に、ルーレットの卓に身を投じるのでした。
結局、2人はこのルーレットとブラックジャックで100ドルずつ儲け、深夜2時半、メスカルバーで飲んだ激うまマルガリータによる酔いも手伝い、そこそこの上機嫌。足取りも軽く、その晩の宿としている「リオホテル」に帰ることになるのですが、話はここで終わりません。
「俺ら、今日からこのホテルにお世話になるから、最後にここでもお金落としてから寝よう!」
と、ギャンブル沼にハマっていく人間特有の謎理論で、どこからどう見てもベッドで眠りにつこうとしている僕を、リオホテルの1Fにあるカジノに誘ってくる河野氏。
論理的でない発言には、自分の意見を乗せるための足がかりがないため、反論のしようがありません。
眠気とアルコールに思考力を奪われながらも、そんな諦念を抱きつつ、気づいたらブラックジャックの卓でカードを配られていたわけですが、ここからの1時間が地獄の様相。
勝っては負け、負けては勝ってを繰り返し、何度賭けても永遠に配られてくるトランプの数字を21に近づけるためだけに「ヒット」と「スタンド」のジェスチャーを繰り返しながら、隣では、計算の弱い河野氏が
「3+5+8だから…?ん…?」
「Aは1と11になって、今は4と7だから、あれ…?」
と脳内でやればいいはずの暗算をわざわざ口に出し、ところどころでルールや状況について、そんなに詳しいわけもない僕に何度も聞いてくる始末。
目の前では「ブラックジャック以外のこの世の楽しいことは、もう全てやりきりました」といった顔つきのおじいちゃんディーラーが、飽きもせずカードを配り続けてくるし、老人ホームの介護ヘルパーと、保育園の先生を同時に強制されているような心持ち。終わりの見えないアメリカ版の賽の河原のような状況に危うくノイローゼになりかけるのでした。
しかもこの河野氏、引きだけはやたらに強く、3連続ブラックジャックを出したかと思えば、3回に1回はスプリットで勝って、気付けば元手を倍に増やすとんとん拍子。
僕はというと結果、200ドルを持っていかれ、ホテルにお金を落としているのは自分だけという無様なオチに、元々そんなにハマっていなかったものの、綺麗さっぱりカジノに愛想を尽かしてしまったのですが、この僕と河野氏のツキの差は、カジノという資本主義の虚構に身を投じ、全力で楽しむ力の差のようにも感じられます。
そうか…ときには虚構を信じきって身を投じてみることが、進化よりも大切な、日々を彩るコツなのかもしれないな…と、うつろな頭で考えながら、ようやく眠りにつけたのでした。
ああ、この気付きもどうか虚構でありますように。
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中に入るのに99ドルかかるが、カジノに負けたと思えばタダ同然。
■走馬灯
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