意見を交わすとき、綺麗なままではいられない
新人から怖がられている。
話しかけるとどこか申し訳なさそうに返事をしたり、まばたきが多くなる。効果音でいうと、びくびく、オロオロ。
うん、そうだよね。私も自分のような先輩がいたら怖いもの。
私も昔パワハラにあったことがあるから、彼女に接するときの言葉遣いや態度には気をつけている。それでも、何度も指摘されれば身構えるのも当たり前だ。
ほかの事務の先輩のようになにも言わずにニコニコしていれば、こんな風に怖がられることはなかっただろう。でも私は黙っていられない性格なのだ。
間違っていることがあればそういうし、作ってくれた資料もここがわかりにくいから、こうしてほしいと何度も作り直しをさせる。別の日には彼女のどこか他人任せな部分を指摘したこともあった。
いちいち面倒くさいとか、またなにか言われるとか、彼女なりに思っていることはたくさんあるのだろう。
なんとなく分かっている。でも何も言われずに歳だけ重ねるなんて、それはそれでかわいそうだと私は思うのだ。
そういえば先日、こんなことがあった。
新人が在庫資料を作っている途中で、営業担当に連れられて出かけていった。その資料がどこにあるかは彼女とその営業担当しか知らず、事務所を守る私たちはお客様から問い合わせをうけても、3時間返信をお待たせしてしまう状況になってしまった。
幸いにも大きなトラブルはなかったけれど、事務の先輩たちはとても怒っていた。ちゃんと引き継がないとたくさんの人の迷惑になる、と。
でもいざ彼女たちが戻ってきても、誰もそれを伝えることはない。それどころか「無事帰ってこれてよかったね」と、ニコニコ笑っていた。
一体なにを守りたいのだろう、なにをそんなに大切にしているのだろう。
かっと頭に血が上ったが、なんだかすべてが馬鹿らしくなって、肩の力が抜けてしまった。
きっとまた同じ状況になったときも、まったく同じことを繰り返すのだろう。その度にまた愚痴って、当の本人はなにも知らないままなのだ。
まったく違う環境で育った私たちが、同じ場所で働くことは簡単なことではない。価値観のすれ違い、誤って意図とは違うことが伝わってしまうこともざらだ。
だからこそ、よりよい方に進むようにオープンに意見を交わしあわなければなにも解決しないのではないか。
自己保身に走って、本音を言わないままでは、ずっと同じ場所をぐるぐる回っているだけだ。
もしかしたら、怖がられてしまうかもしれないし、うっとおしがられるかもしれない。
それでも、言葉を尽くして自分の状況や考えを説明し、同じように相手の状況や考えも知ろうとすること。状況はよくなると信じて、コミュニケーションを怖がらないこと。
それさえ覚えていれば、きっと少しずつでもよい方向に変わっていくと私は信じている。
結局先輩たちにはいろいろな想いをオブラートに包んで「ちゃんと言わないと伝わらないですよ」と伝え、新人にも今日の状況と今後の対策を話した。
まったく損な役回りだと自分でも思う。でも、見てみぬふりはできない。優しくてなにをしても褒めてくれる、そんな優しい先輩に私はなれないだろう。
でも、私は私なりに新人と向き合って、伝えなきゃいけないことは丁寧に伝えていくつもりだ。
本音を隠して綺麗にコーティングしたって、結局誰のためにもなりはしないのだから。