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桜に浮き足立つ心が、固まって落ちていく。

今週で桜が散ってしまうというニュースを見て、昼ごはんを食べた後に会社の近くにある公園に散歩に出かけた。

昨日は1日中雨で寒かったので、今日は快晴でコートもなしに散歩に出かけられてとても嬉しい。会社の前の下り坂をずんずんと歩いていると、同僚とすれ違う。

「いつもこの時間にすれ違うね。どこに行っているの。」
「公園に桜を見に行ったり、コンビニにお菓子を買いにいったりしてます。」
「桜ももう見納めだわね」

お疲れ様です、といつもは会釈して通り過ぎるだけなのに珍しいものだ。春の暖かさは心を開放的にさせるのかもしれない、私の好きな季節。

同僚に背を向けて、公園へ続く坂道をのぼっていく。遠くにピンクの塊が見える、目的地まであと少し。それにしても学生だった頃と比べて、息が切れるのが早くなった。足も傾斜に負けそうになりながら、歩幅がどんどん小さくなる。

衰えに負けないぞ!と、片耳にワイヤレスイヤホンをつっこんで、ずんずんと歩いていくと左側に公園が見えてきた。こんなに暖かいのに、散歩している人は2、3人だけだった。あまりに日常に溶け込みすぎて特別に思われていない草花たち。それでも桜は美しく咲いていた。


帰り道。
坂道を下っていると、公園の駐車場から景色をみていたおじさん2人から声をかけられた。

「お姉さん。坂を上っていくところをずっと見ていたけど、姿勢がよくて気持ちよかったよ」
「こっちで一緒に桜を見ようよ。明日も歩きにくる?」

愛想笑いをして、急ぎ足で坂を下った。知らない人から声をかけられることが嫌いだし、ずっと見られていたことも怖かった。田舎の気さくな雰囲気が私は苦手だ。桜の美しいピンクに浮足立った心が、一瞬で固まって落ちていく。もうこの道は通らないと心に決めて、逃げるように会社に戻った。

会社の敷地内に入ると、安心して肩の力が抜ける。
怖かったね、無事に会社に着いてよかった。
上がった息を整えるために、ゆっくりと事務所に向かって歩いた。頭のなかでは美しい桜の景色は消え去って、さきほどのおじさんの言葉がこだましている。