東京に憧れているなら行きなさい。
高速道路の中央環状線から見える東京の景色に私は憧れた。こんな東京に住みたい。
住んでいる人を想像させるキラキラした高層マンション。
荒川に映る、お洒落な東京の街並みやひっきりなしに走る電車。
野球をはじめとするスポーツに打ち込んでいる少年たち。
そして何よりもTHE東京といえばの象徴である、スカイツリー。
これらが地元の「山形」にはなくて、見渡す限り緑だらけの山々と田んぼの景色とは全く違う光景に夢と希望を抱いていた10代。
車を走らせて中央環状線を巡るたびに東京に憧れを抱き、東京をよく知りもしないくせに大好きになった。
上京を私が経験したのは、高校を卒業して就職したとき。
東京という街に住むことへの憧れが現実になり、そこから高層マンションと言われるタワマンという理想に近づくまでは難しいことを突きつけられたのもこの時。
そして憧れの東京ではなく、埼玉に住むことになった。ただ自転車で10分も走れば東京だし、また外れた道を進むと埼玉に戻る。
「ここは東京なの?埼玉なの?」とちょっと不思議に感じた、やっと少しだけ東京を知った。
東京=23区しか知らなかった私にとっては、東京都に市があることに驚いた。
ウキウキわくわくで私は実家を飛び出した。
親からの束縛や監視の目が無いこと、1人が好きな私にとって本当に楽しみだった。
上京前の悩みなんか全く無い。自分で好きなように部屋の模様を決め、好きな時に家事ができる。好きな柔軟剤、香りを選びブレンドする楽しさをドラッグストアで学び、安くてお腹いっぱいになるご飯をネットで調べまくる事で忙しかった。それはある意味ホームシックにならずに、趣味として楽しんでいる自分がいることへの新たな発見。
仕事も順調だった。知っている人がいないので、片っ端から声をかけた。美味しいご飯屋さんを聞いたり、一人暮らしの趣味として自炊をしている事を話すと「若いのにすごいね。」とよく褒めてくれた。
分からない事があったら誰かに聞いて、ついでに世間話もした。スポンジのように吸収してがむしゃらに働いた。仕事が終われば、スポンジで吸収したものを全部吐き出すかのように、先輩と何人かで都内のドライブに連れて行ってもらった。
そう、あの大好きな中央環状線の夜景を何回も訪れた。
新たにお台場海浜公園の夜景も自分の好きな東京の街並みにタグ付けされた。
東京にちゃんと染まった私、染められた私。
「染」は恥じゃないと思っている。
むしろ、小中高と全て地元で行き詰まって生活していた私が、開放的な性格になれたのは東京のおかげだ。出会った人も出会う人も自分の行動次第でなんとかなる。
そして染まっても、地元が恋しくなる時が訪れる。
山形のあっさりした鳥中華が食べたくなるし、コシの強い山形そばに埼玉、東京では出会ったことが無い。地元の新鮮なフルーツ王国の果実たちはやっぱり私にとってのナンバーワンだ。
何より家族や親戚にも会いたくなる。
そう思った時に帰ればいい。
そう気づくまでは、無我夢中になって憧れの東京を追いかけたらいい。