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『頭のない男』の話
最後まで見なかった映画の感想を書く回です。
我が家は未だにWOWOWしか契約していない。
ネトフリもアマプラもない。あったとしても見る時間はないだろうなと思っているからそれでいいのだが、ときどき流行からの遅れを感じる点は否めない。
とにかくなぜWOWOWなのか? というと、例によって例のごとく父だからである。私が物心ついたころ、幼稚園の時にはすでに契約していたのではなかろうか。
父はWOWOWをこよなく愛用しており、夜帰宅した後、録りためた映画だの海外ドラマだのを見ながら晩酌するのが日課となっている。そのノリで、私もいつからか映画を見せられる……というか、父が見ている映画を横から覗き見るようになった。
(まあ、私が見ていようが見ていまいが父は映画の感想や不満を盛大に喋り続けるので、勝手に映画のストーリーが頭に入ってくるといった方が正しい気もする)
父が自分から私に見せてくれた初めての映画は、カラー版『月世界旅行』だった。私、当時おそらく小学3年生。
なかなか面白かった気もするが、本来の面白さを理解して感動するには私の映画経験が圧倒的に足りていなかった。
いつものように前置きが長いが、ここからが本題である。
一番思い出に残っている映画は何ですかと聞かれたとき、私は必ず『頭のない男』と答えるようにしている。
これが、前述した「最後まで見なかった映画」である。
2003年にアルゼンチンの監督によって製作されたこの映画、なぜかYouTubeにあがっているので、いつでも見ることができる。
私がこれを見たのは小学生のとき、WOWOWで、だった。
どういう話だったかというと……。
長らく文通をしている女性と初めて会ってデートをすることになった頭のない男。街の「頭仕立て屋」に自分の頭を選びに行く。苦労の甲斐あって気にいる頭が手に入った男。しかし男は当日、頭のない姿で待ち合わせ場所へ向かう。果たしてデートはうまくいくのか……。
私が見たのはここまでである。
「は?」と思われるかもしれないが、そもそもこの映画は18分しかない。いわゆるショートフィルムである。
だから私が見ていない部分というのは本当にラスト、時間にして5分もない。
しかしそのわずか5分に、男と女性の顔合わせ、女性の反応、デートの成り行きが全て描かれている。……はずである。見てないけど。
「なぜ最後まで見なかったの?」と聞かれれば、単純に怖かったからである。しかも頭のない男がホラーで怖い、ではなく、男がフラれるのが怖かった。
小学生の私はすでに重度のハピエン厨だったわけだ!
※ここからは結末に関するネタバレを含みます。
トイレに行って帰ってきたらエンドロールが流れていたのを見て、思ったよりも映画が短かったことを知った当時の私は、父に「どんな話だったの?」と聞いた。
父「え? ああ、うまくいってこのあとどっか行くみたい(※後に確認したところ男と女性はカフェのようなところで待ち合わせており、片方が2人分の映画か何かのチケットを差し出すシーンがあった)」
私「へー」
父「この女の人はね、頭があることより自分に会いに来てくれたことが嬉しかったみたいだよ」
目から鱗だった。
相手が自分のためだけに、自分のことだけを考えて会いに来てくれることがどれだけ尊いか。
文通という顔の見えないやり取りの中でお互いを信用し、自分が1番素敵だと思う姿=自分の本来の姿で現れることのなんと美しいことか。
小学生が気づくにはあまりにも深いこの世の真理だった。
これぞ純愛。これぞロマンチック。
何度も言うが、私はこの映画の結末を見ていない。
にもかかわらず。だからこそ。それゆえに。父から聞いた「ハッピーエンド」は、最後を見届けなかった後悔とともにどんどん理想化されて、私の人生観に多大な影響を及ぼし続けている。
昔はハッピーエンドでないことが怖かった。
今は「自分の中のハッピーエンド」との齟齬が怖い。
なので『頭のない男』がYouTubeに存在すると判明した今も、私は頑なに結末を見届けようとしないのでした。
※余談
人生観以外に性癖にも多大な影響、というか歪みがもたらされている。頭部が人間ではない異形、異形頭というやつである。
有名なところでいうと映画泥棒、Daft Punk(ちょっと違うかもしれないけど)、FGOの新宿のアヴェンジャー、第5人格の泣き虫。ひねったところでは銀河鉄道999の車掌さんなんかもヒットである。
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父がWOWOWで見ていた「洋楽主義」という番組で知った
「頭がなければなんでもOK」ではないが、「頭部が無機物」「そもそも頭部が虚無」の造形に惹かれる傾向があるらしい。
私がこの事実に気がついたのは高校生になってからだったが、元をたどればあら不思議。小学生から全く進歩がない。
みんな!
性癖の素はどこに落ちてるかわかんないから気をつけてね!
おしまい。
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