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【短編】魔が差す

今朝、自宅を出るのが気持ち遅めだった。

でも急ぎ足で歩けばいつもの電車には乗れそうな程度だ。

ふだんなら精一杯の早歩きでなんとか間に合わせるのだが、なぜか今朝は魔が差した。

ちょっと走ってみるか。

なぜか唐突に走りたくなってしまった。

山歩きをする前、ランニングをしていたことがある。

運動不足解消や下半身の筋力低下防止の目的があったのだけれど、そもそもスポーツは得意ではない。自称運痴である。

ほぼMのメンタルで続けていたが、山歩きを始めてからは山にどっぷりハマってしまったので、走る機会は自然になくなっていた。

それが、である。

今朝は唐突に走ってみたくなってしまった。

そして、おもむろに走った。

電車に間に合えばいいだけなので距離としてはほんのわずかだけれど、久しぶりに走った。

足の具合のこともあるが、思いのほか普通に走れた。

へー意外と走れるじゃん。

なんだか清々しい気持ちを味わいながら、駅に到着しいつもの電車に乗り込んだ。

少し汗ばんでいる。

そりゃそうだ、わずかとは言え走ったんだから。

そして、乗り換えのために降りたホームでのこと。

何かが顔の周りで飛んでいる。手で払ったが、今のは蚊か?

10月にもなってまだ蚊がいる?

いぶかしく思いつつ、さらに手で払いながらふと気づくと首の後ろが妙に痒い。

えっ?マジ?

痒さをたどって確かめるように触ってみると、そこはぼんやり腫れていた。

あぁ…刺されてしまった。

汗の匂いに寄ってきたか。

走ったオチがこれとは、なんとも言えない週の始まりだった。


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