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戦艦探偵・金剛~シルバー事件23区~ SOCIAL GAME %1 KILLER IS DEAD②

同日 午後八時四十五分 海上自衛隊横浜地方隊 食堂

「やれやれ、大変な目にあったな二人とも」
 長門がテーブルにカレーを持った皿を置いて言った。金剛と五月雨も長門の言葉に頷いた。二人の夕食もカレーだった。
 コウサカの帰りを見届けて、金剛、五月雨、長門の三人は食堂で一緒に遅めの夕食を摂ることにしたのだ。
「テレビでもラジオでもお前たちの話で持ち切りだぞ。全く、探偵業も中々危険な職業のようだな」
「イエス! その通りデース」
「事務所を爆破されたのは初めてですけどね」
 五月雨が苦笑する。
「でも、いつの間に爆弾なんて仕掛けられたんでしょう?」
「そこまでセキュリティーの厳しい建物ではないデース」
 金剛は言う。
「依頼によっては長期に渡って事務所を空けることもありマース。仕掛けるタイミングはたくさんあるデース」
 そう言って金剛は空になったカレー皿にスプーンを放り投げた。それから両手をこすり合わせて目を閉じる。
「そうですねぇ」
 五月雨が納得すると、
「つまりお前らに恨みがあるなら復讐するチャンスはいくらでもあったわけだ」
 長門が言う。
「狙われたのは依頼人の方か?」
「艦娘をあの程度の爆弾で轟沈させるつもりなら、勉強不足と言う他ありまセーン」
 そう言って、金剛は油壺を弄んだ。事務所で気絶して以来、ずっと握りしめてここまで持ってきてしまったものだった。
「今回の依頼は何なんだ?」
「守秘義務がありマース。お答えできないデース」
「そうか」
「アキラさんとサクラさんは無事でしょうか?」
 五月雨が心配すると、
「考えても仕方のないことを考えても仕方ありまセーン。今日のところはもう寝マース」
 金剛が空っぽのカレー皿を持って立ち上がった。
 食堂を去っていく金剛を横目で追いつつ、
「あいつ、大丈夫なのか?」
 と、長門は五月雨に耳打ちした。
「大丈夫じゃありませんよ」
 五月雨は言う。
「かなり絶好調ですよ、あれ」

九月十七日 午前九時四十分 東京都八王子市 エビルダイバー中央病院

 金剛と五月雨は横浜地方隊を出て、まずアキラが入院している病院を訪ねた。場所は昨日の聴取の際にコウサカから聞いていた。受付に聞いて病室へ行くと、既にアキラは着替えを終えて退院の準備をしていた。傍にはダイゴの姿もあった。
「ああ、金剛先生! 五月雨さん! 無事でしたか!」
「私たちは大丈夫です」
 五月雨が言った。
「アキラ=サンの怪我は?」
 金剛が訊ねる。
「擦り傷が少しあるだけでたいしたことはありません。それより、サクラを知りませんか? 昨日から何の連絡もないんです」
「私も同じことを訊こうと思っていたくらいデース。その様子だと、まだ行方が分からないデース?」
「はい、もしかするとアキラと同じ病院に搬送されたかと思いましたが、違うようでして。東京中の病院へ電話をかけましたが、どこにも………まさか、瓦礫の下敷きに」
「大量の瓦礫が発生する規模の爆発ではありまセーン。よければアキラ=サンを自宅に返してから、私の事務所に来ませんカ?」
 金剛が言うと、アキラが首を横へ振った。それだけで、ダイゴはアキラの言いたいことが分かったらしい。
「アキラも付いていくそうです」
「オッケーデース。では、みんなで行くデース」
 四人は病院を出る。少し前まで汗ばむほどだった気温が、今は肌寒いくらいだった。空は淀んだ曇り空をしていた。

同日 午前十時三十分 東京都中央区 大淀ビル二階『金剛探偵事務所』

 仕掛けられた爆弾は極めて指向性の高いものだった。外壁に仕掛けられたそれは壁の内側に向けて炸裂した。信管が成型炸薬を着火させ、モンロー・ノイマン効果によって爆発の衝撃は円錐中心軸へ向かって集中する。威力は低い。建物の支柱は外れている。爆弾は綺麗に二階の外壁を破壊し、大淀ビル二階にある金剛の事務所を荒らすだけに留まるだろう。外側から見れば、二階の壁に大きな穴が開いただけに見えるだろう。
 実物の大淀ビルの被害は金剛の想像となんら変わるものではなかった。ただ二階の大穴を塞ぐように青いビニールシートで覆われていた。
 五月雨やナツメダイゴにとっては意外な光景だったらしい。おおかた、紛争地帯の爆撃された家屋でも想像していたのだろう。
 ビルの前の様子は平時とあまり変わるところが無かった。人々はたまに「おや?」という表情で穴の開いたビルを見るが、すぐに頭を前に戻して進んでいく。爆発の際に飛び散っただろうわずかな破片もすっかり片づけられていて、『立ち入り禁止』の看板だけが立っていた。
 大淀ビル一階の書店にはシャッターが下りていた。定休日ではない。二階の穴は書店入り口の真下にある。瓦礫が降ってくる可能性があるから、客を入れることが出来ないのだろう。
 金剛たちは書店脇の階段を上がって、二階の事務所へ入った。事務所のドアは反対側の通路に立てかけられていた。前々から弱々しかった蝶番が完全に吹き飛ばされて、空しい残骸となってドアへへばりついていた。
 事務所の中から箒で掃く音が聞こえる。大淀だ。電気が付いている。電気系統は問題ないらしい。
「金剛、五月雨、お帰りなさい。怪我は無かった?」
「横浜地方隊の高速修復材を使わせてもらったデース」
「大淀さんはどうです? 怪我は?」
 五月雨が訊ねると、
「大丈夫よ。でも業者さんが壁を見てくれるまでビルの前、立ち入り禁止になっちゃってね。瓦礫が落ちると危ないし、店を閉めて片づけをしていたのよ」
 金剛探偵事務所は台風でも来たかのようにめちゃくちゃな状態だった。
 金剛のデスクは反対側の壁まで吹き飛んで、死んだ動物のように足を天に向けていた。引き出しは中身ごと吹き飛んで、床に、壁に、天井に散らばり、本は全て棚から逃げ出し、瓦礫とほこりが床を覆っている。金剛の靴のつま先に小さなかけらが当たった。壁の破片かと思ったがそうではない。拾ってみると見慣れた模様があった。お気に入りのティーカップだった。
「修理費用は私が全て出しマース」
 金剛が言うと、大淀は苦笑して、
「大丈夫。一応、保険に入っているし、電話してみたら壊れた家財道具も少しは補償してくれるそうだわ。あなたたちの貯金なんか、たかが知れてるでしょ? 無理しなくていいのよ」
 それを聞いて五月雨は心底安心したように息を吐いた。
「大淀さん、ですな。うちのサクラ、あの、二十歳くらいの女性がここから出て行くのを見ませんでしたか? 私の娘なんです。昨日の爆発に巻き込まれていない行方不明で」
 ダイゴが必死な様子で訊ねた。大淀は少し思い出すように黙り込むと、
「ええ、見ました。救急車で運ばれて行きましたが」
「本当ですか! 一体、どこの病院かわかりますか?」
「すみません、そこまでは………でも、大した怪我では無さそうな様子でしたが」
「そうですか、でも、いやしかし、よかった。あとはどこの病院にいるかだが」
「ダイゴ=サン、私たちも手伝うデース」
 金剛が言うと、五月雨も頷く。
「ありがとうございます。金剛さん、五月雨さん」
 アキラも無言で頭をさげた。
 そのとき、
「ジリリリリ」
 ベルの音が鳴った。電話のベルだ。しかしこの散らかった部屋では、ちょっと見回したくらいじゃ、どこに電話があるのか分からなかった。
「この机の横」
 大淀が、ひっくり返った金剛のデスクの脇を差した。電話があった。混沌を極めるこの世界において、この電話も何とか生き延びたようだった。
「ハロー、金剛探偵事務所デース!」
 金剛が受話器を取ると、
『五月雨は預かった』
 くぐもった声が響いた。
「ワッツ?」
 金剛は五月雨を見る。五月雨は「?」という顔をした。
「もう一度お願いしマース。誰を預かったデース?」
『聞こえなかったのか。五月雨だ。お前の助手だ。それを預かった。預かったというのは誘拐したという意味だ。帰国子女のお嬢さんには難しい慣用句だったかな?』
 金剛はもう一度五月雨を見る。五月雨は「?」という顔をした。
「ええと、何かの間違いデース。五月雨はここにいるデース」
『いや、確かに五月雨はここにいるよ』
「んん?」
 金剛は五月雨を手招きする。
「何ですか? 先生?」
 五月雨が近寄る。金剛はその頬をつねってみた。
「痛い! 何するんですか先生!」
 うーん、変装ではないようデース。
『いいか? 五月雨を返してほしければ言うことを聞いてもらおう』
「いや、まずこっちの話を聞くデース。たぶん、ユーが誘拐した人物は五月雨ではないと思いマース」
『何を馬鹿なことを………五月雨の身長は?』
「ちんちくりんの百四十五センチデース」
『年齢は?』
「二十三歳デース。でも見た目は中学生くらいデース」
『こっちの五月雨も二十三歳らしい』
「髪型は青いロングヘアだ」
『こっちの五月雨は黒いショートヘア………』
「………」
『………』
「名前を直接聞いたらどうデース」
『なるほど、その発想は無かった。君、名前は?』
 少しの間、沈黙。
「どうデース?」
『ナツメサクラと名乗ってる』
「やっぱりそうデスカ。人違いと言うわけで返してもらうわけには―――」
『残念だが』
「駄目デスカ」
『駄目だろう。ところで誰だこいつは?』
「知らない人デース」
『嘘つけ、事務所にいたろう。まぁ、この際どうでもいい。正義の名探偵、金剛が知らない人を見捨てるわけないよな?』
「フーム」
『いやいや、見捨てるなよ?』
「まぁ、仕方ありまセーン。そちらの要求は何デース?」
『ああ、良かった。心底良かった。とにかく人質を返して欲しければ謎を解け。そこにいるチンチラみたいな顔をした奴の持っていた品がヒントだ』
「解いたらどうするデース?」
『マスコミに公開するんだ。警察に事情を話して記者会見を開け。タイムリミットは十二時間だ。それを過ぎれば五月雨を破壊する』
 電話が切れる。
「一体、誰からの電話です。何だか様子が変でしたが」
 ダイゴが訊ねる。
「誰からの?」
 金剛はため息をついて、
「私たちの事務所をこんな風にした奴らデース。さて、ダイゴ=サン。申し訳ないがサクラ=サンはうちの五月雨と間違って誘拐された可能性が高いデース」
 ダイゴは声も出ないほど驚いたようだった。娘にも受け継がれたクリクリとした眼が見開かれる。しかしそこは警官だろう、気が遠くなるのを踏みとどまって、
「それで、犯人の要求は? 金ですか?」
「謎を解け、だそうデース」
 そう言って金剛は受話器を五月雨に渡した。
「五月雨、警察に連絡するデース」
「は、はい。先生は?」
「こいつを調べるデース」
 金剛は袖口から油壺を取り出す。
「タイムリミットは十二時間、それを過ぎたらサクラ=サンは殺されてしまいマース。油を売ってる暇はないデース!」

同日 午前十一時三十分 中央区 大淀ビル三階『金剛の私室』

 五月雨がナツメサクラ誘拐の件を電話すると、すぐさま警視庁は大淀ビルの金剛探偵事務所へと駆け付けた。現場に到着した刑事は、金剛と五月雨を聴取したコウサカミチルだった。
 コウサカはまず五月雨、大淀、ダイゴ、アキラのところへ来て簡単に事情を聞いた後、直接、犯人の声を聞いた金剛を尋ねて三階の私室へ五月雨を伴って向かった。
「金剛さん、警視庁のコウサカです。入りますよ」
 三階のドアは二階と違って、五月雨にはいつもと変わりなく見えた。しかし開けてみると、爆発の衝撃で棚にあったものは落ちているわ、本棚から本は飛び出しているわ、しっちゃかめっちゃかな状態だった。
 そんな中で、金剛は部屋の奥で薬品を弄っていた。爆発の振動と衝撃にも関わらず、管理が厳重だったためか、瓶は床に落ちていても割れたものは一つも無かった。ただ、いくつかのビーカーや試験官などの実験機材は砕けと見えて、床に散らばっていた。金剛はそんな割れた破片に囲まれながら何かの実験を行っていた。
「ふむ、やはりこの油壺の中身は若干の酸性を示してマース………」
「先生、せめて割れた破片を片づけてから作業をして下さい!」
 五月雨が怒りながら、どこからか箒と塵取りを持ってくる。そんな五月雨に頓着せず、金剛はビーカーにピペットで液体を滴定していた。
「五月雨が片づけるデース。私にはあと十一時間二十五分しか残されてないデース」
 金剛の言いようがあんまりなので、コウサカは気の毒になって、
「五月雨さん。私も手伝います」
 と、塵取りとゴミ箱を持った。掃き掃除をしながらコウサカは、
「金剛さん、あなたが犯人からの電話を受け取ったと聞きましたが?」
「犯人は男性、しゃべり方からすると年齢は三十代前半から四十代後半。組織の階級としては使い捨ての下っ端………」
 金剛が言うと、
「ちょっと待ってください。電話だけでそこまで分かるんですか?」
 と、コウサカが驚いた。
「わかりマース。声質から性別が、しゃべり方からは歯の本数と肺活量と社交性、五月雨と誤認してサクラ=サンを誘拐したことから犯人は複数人の組織からなり、実行部隊として組織の末端にいるデース。私の事務所に爆弾を仕掛け、人を誘拐してゲームみたいな要求を仕掛ける人間の人物像とは食い違ってマース」
「すると、犯人は五月雨を誘拐するために爆弾を? どうしてそんな危険なことを? 下手をすれば死んでしまったかもしれない」
「ノー、逆デース。あの程度の爆弾では艦娘は殺せまセーン。人間だけを上手に排除して気絶した艦娘を誘拐するには一番、クレバーな方法デース」
「そんな」
 コウサカは思わず口元を左手で覆った。極端に言えば、犯人は当時、事務所にいた二人の人間など爆殺されようが生き延びようがどうでもよかったのだ。まるで机の上の備品のように気にも留めない、それはある意味で純粋に人間を狙うテロリズムよりも非人道的なものを感じさせた。五月雨も戦慄するように箒を止めた。
「一体、犯人の目的はなんでしょうか?」
 ゴミ箱にガラス片を捨てながらコウサカが言った。
「二十四時間以内に謎を解け、それが犯人の要求デース」
「謎?」
「解けたら警察を通じて記者会見を開けと言うデース。出来なければサクラ=サンを殺すと」
「どういうことでしょう。犯人の狙いは一体?」
 五月雨が言うと、金剛は椅子の背もたれにもたれ掛かり、例の油壺を左掌で弄びながら
「少なくともマネーでないのは確かネ」
 そのとき、玄関の向こうから、
「コウサカさん、いますか!」
 という声が聞こえた。
「入るデース」
 金剛が言うと、ドアが開かれて警官が現れる。その手には一枚の便せんがあった。
「コウサカさん。鑑識がこれをコウサカさんのところへと」
 警官がコウサカへ便せんを渡した。便せんには『金剛様へ』と書かれていた。
「なんだこれは?」
 コウサカが問うと、
「現場から押収した瓦礫に紛れていたそうです。頑丈な箱に入っていました。状況から見て、爆発物の近くに置かれていたものらしいです」
 と、警官が答えた。
「中身は?」
「写真です」
「見せるデース」
「どうぞ」
 コウサカが金剛に写真を差し出す。金剛が便せんを開けると、中には一枚の写真が入っていた。それはどこかの学校の校門らしい。
「雛代高校とありますね」
 五月雨が言った。
「ここに謎が隠されているのでしょうか?」
「行ってみるデース! 行けばわかりマース!」

同日 十二時二十三分 八王子市 雛代高校

 犯人から金剛へのメッセージと思われる写真には、果たして雛代高校の校門が写っていた。雛代高校とはどこの学校だろうか? 警視庁を通じて文部省に問い合わせたところ、あっさりと八王子市内にある高校であるとの回答が得られた。しかしこれは金剛の予想していた通りでもあった。
「そもそも今から東北へ行ったんじゃ、約束の二十四時間に間に合いまセーン」
 金剛と五月雨はコウサカの運転するパトカーで八王子を目指す。約一時間かかって、彼らは東京都は思えない山奥の高校へと辿りついた。
「ここですね」
 コウサカが校門の前で写真をかざした。晴れた午後の昼下がり、確かに写真はこの位置で撮られたものらしかった。
 雛代高校の門はさび付いた鉄の門で塞がれていた。大人の窓口は後者の裏にある。コウサカが車を裏口に回そうとしたとき、金剛は既に車を降りて、鉄の門に手をかけ、ひょいと飛び越えて行ってしまっていた。
「あ、待って下さい先生!」
 五月雨も慌てて金剛と同じく門を飛び越えようとして手をかけるが、
「えい! えい!」
 手をかけたままその場でピョンピョンと飛び跳ねることしか出来ていなかった。
「五月雨さん、我々は裏に回りましょう」
 コウサカが五月雨を後ろから抱えて車の方へ引きずった。
「うう………もっと私に身長があれば………」」
 五月雨が涙ぐむ。
「な、泣かないで下さい」
 コウサカが言った。

 堂々と校舎の中へ入る金剛を、学校中の生徒たちが好奇の目で追った。
「あれって艦娘じゃね?」
「龍田先生と同じ?」
「うちのクラスにも艦娘いるよー」
「スカートと靴下の間がエロい」
「何しに来たんだろ?」
「入学?」
「あれ? あの艦娘見たことあるな」
「戦時~」
「違うよ、探偵だ。戦艦探偵、何つったかな?」
「金剛?」
「それだ!」
 生徒のざわめきが広がる。金剛は迷わず職員室を目指し、ドアを開ける。そして高らかに言った。
「私は戦艦探偵・金剛デース! この学校に最近起こった事件、事故、怪奇現象に心当たりのある方はいまセンカー!」
 職員室の教師たちは水を打ったように沈黙した。金剛も彼らの誰かが反応することを期待して沈黙する。だが教師たちは凍ったように固まっている。金剛も辛抱強く待っている。沈黙だけが流れていく。
「すみません!」
 そこへ現れたのがコウサカと五月雨だった。五月雨は手際よく方々へ頭を下げて「いやいやすみませんこの人はこれこれこういう人なんです」と謝罪し、コウサカは警視庁の身分を手早く明かして、上手く手近な教師に校長と教頭への取次ぎを頼んだ。
 数分後、三人は校長室で校長と教頭に対面していた。コウサカが「おや?」と思ったのは、校長と教頭の態度だった。誰だって警察と対面すれば、それなりに緊張するものだが、それが教師ともなればよりナイーブになる。教師と警察が対面するときは、そこに生徒が絡むのが常だからだ。
 しかし目の前の二人はどこかあっけらかんとしている。その質問に答えたのは、彼らではなく金剛の方だった。
「最近、警察の訪問を受けたネ?」
「え? あ、はい」
 答えたのは教頭だった。
「八王子警察署ネ?」
「ええ」
「ここの女子生徒が二人殺された事件ネ?」
「はぁ、そうです」
「え? どういうことですか金剛さん」
 ここで驚いたのがコウサカだった。八王子で最近、女子生徒が二人も殺される事件は、彼の耳には入っていない。もしそうなら、捜査期間にもよるが警視庁側からも応援の派遣など、なんらかのアクションを起こすはずだ。少なくとも警視庁に知らされないということは無い。更にショックなのが、それを自分より先に金剛が知っている事実だった。
「探偵には独自の情報網があるのデース」
 金剛が両手を合わせて得意げに言うと、
「あ、最近、仕事が暇なんで本屋に売ってる安い雑誌とか買ってたんですよ。それにそんな事件が載ってました」
 五月雨が言った。
「ですが、テレビも新聞もそんなことは」
「私もちょっと変だと思いましたけどね。だいたい、隣の欄がビッグフットの特集だったんで、ゴシップの類かと思ったんですが」
「本当のことです」
 今度は校長が説明する番だった。
 校長は言う。
 八月三十日、一人の女の子が殺された。
 それが全ての始まりだという。

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