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クリームソーダ4/4

最後に彼女に会った日、喫茶の帰り道に寄った公園で彼女は揺らいだ瞳で僕に尋ねた。
「ねぇ、私たちまだ続くと思う?」

その日僕たちは、ほんの些細な喧嘩をした。
今度のお休みにどこに行くかと話していて、僕は水族館に出かけようと言ったけれど、彼女は家で映画を観ていたいと言った。
彼女は外に出るのがあまり好きではなくて、毎回、外に出たい僕と出たくない彼女で口論になる。
だから、家から近いこの喫茶店へのデートは、何とか編み出した二人の妥協地点だった。
けれど僕はもっと彼女と色々な場所に行って思い出を作りたいと思っていた。
毎回何気なく僕が外に連れ出そうとするのを彼女は頑なに拒む。
そんな口論を繰り返してちょっとうんざりした僕はつい、彼女の言葉を遮って、「君はわがままだ」と言ってしまった。
本当はそんなわがままな彼女が好きだった。
ほんの些細な喧嘩のはずだった。ほんの少しのすれ違い。
けれど、彼女に腹を立てたままの僕は、つい彼女のその問いかけにぶっきらぼうに「どうだろうね。」とだけ答えた。
本当はそんなこと思ってなんかいなかった。
けれど僕の口から出た言葉が真実ではないと言い訳するにはもう遅すぎた。
彼女は「そっか」とだけ短く答えて、それから僕と彼女の距離は少しずつ開いていった。
彼女の存在が僕の元から一歩ずつ一歩ずつ離れていくのが目に見えて分かった。
けれど、それが好きな彼女の選択ならば僕は受け入れるしかないと思った。

それから僕はしばらくして、目の前にいる彼女に出会った。
埋められない空間を埋めるピースが欲しかった。新しい彼女は僕と好きなものも似ていて、考えることも似ている。
出っ張った空間に出っ張ったピース。

ふと窓の外で、猫と目があった。
僕を見つめてから、テーブルに二つ並んだクリームソーダを不思議そうな目で眺める猫に、
「もう違うの。新しい彼女はね、クリームソーダが好きなんだよ」と心の中で呟いた。

私は、最後に彼と会った日、喫茶の帰り道に寄った公園で「私たちまだ続くと思う?」と彼に尋ねた。
最近、彼とは些細な喧嘩を繰り返していた。
あの日の喧嘩は、彼はデートに水族館に行きたいと言い、私は家にいたいと言うほんの些細なすれ違い。
でも、私にとってはそんな喧嘩なんてどうでもよかった。
どれだけ喧嘩をしても、ちゃんと最後にはいつも仲直り出来ていたから今回も、彼は、わたしとまだ続いていたいと答えてわたしはそれに頷いて、ごめんって言って、いつものように仲直りをするつもりだった。
けれど、今日は彼が今まで見たことのない表情で「どうだろうね。」と呟いた。
彼の気持ちが最近、離れている気がしていた。
私は大好きだった彼に、嫌いだ、とはっきり言われることが何よりも怖くて、その日から一歩ずつ一歩ずつ彼から離れていった。
私はどこまでもわがままで、そして小心者だったのかもしれない。
彼と私は好きなものも考え方もあまり似ていなかった。正反対だよねってよく友達から言われていたのを思い出す。
でも、その違いが彼との愛おしい時間を作っていたのかもしれない。
クリームだけを欲しがる私に、サイダーの中に落ちてしまわないように上手にクリームだけをくれる彼。
そんな彼が好きで、私はずっとクリームソーダが嫌いなふりをしていた。
そんな2人の違いが愛を作っていたのに、また違いが、順調だった歯車を軋ませた。

一人きりで、すっかりと飲み干してしまったクリームソーダのグラスから反対側の席が透けて見える。
誰もいない、わたしのハンドバッグが置かれたイス。
このイスは、ハンドバッグで埋めるには大きすぎた。

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