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雑記 すきなもの

わたしはオタクになり得ないタイプの人間だ。
すごく好きなものに対する「好き」を爆発させられないタイプ。
例えば、好きなアーティスト。
そのアーティストが発売してきた曲は、シングル、表題曲だけじゃなく、アルバム収録曲のいわゆる「マイナーソング」までほとんど知っている。CDが出たら必ず買うし、配信されたらitunesで購入してダウンロードする。
SNSでは、そのアーティスト関連のアカウントをフォローして、何となく情報を追い、どこかの番組に出ていたら録画までするかは別として、チェックする。
音楽番組のスーパーライブは録画して、そのアーティストを見逃さない。
ファンクラブの会員は7〜8年維持してきた。
コンサートには何度も行ったことがある。
わたしは間違いなくそのアーティストが好きなのだ。

でも、そのアーティストに会いたいとか、認識して欲しいという欲はそんなに無い。
コンサートの席がどこだろうとあまり気にならない。
むしろ、ステージに近いアリーナよりも天井に近いくらいのブロック席の方が居心地がいい。
正直、ペンライトもタオルとかの応援グッズも必要ない。(アーティストのことを考えたらあまり歓迎できない考えだけど)
双眼鏡もいらないし、一瞬も見逃さないどころか、目を瞑るのもありだと思う。
ただ舞台や映画を見ているようにぼうっと眺めて、目の前に創られている世界観に浸っていたい。
コンサートの帰り道、周りの人たちのひとしきりスポーツをしてきた後みたいな雰囲気の中で、興奮とか疲れどころか、むしろ、いい映画を見終わった後みたいな静かな感動に浸って誰とも話したくなくなる。
だからコンサートはひとりで行きたいし、語り合うファン仲間もいらない。

SNSでレポなんて出来ない。
いわゆる曲の考察とか、アーティストの発言の意図を探るのは億劫だ。
そのアーティストがやるラジオとかブログのお便り募集にお便りやコメントを送ったことはない。
過去の雑誌を集めてスクラップしたり、限定の待ち受け画像もポスターも特にいらない。

ちょっと冷めてるのかもしれない。好きなくせにその愛に熱はない。
そして何より愛が語れない。
そのアーティストを好きな理由も、おすすめポイントもうまく語れない。
気持ちがいくら盛り上がろうと、それを表現する適切な表現力と、どこまでも知りたいと思う探究心は持っていない。

「好きなものを語る」ということは、何かを好きな人なら誰にでも出来そうなことで、実はすごく難しいことなのだ。
だって、語るためには、知り尽くして感じて、理解して自分の中で噛み砕いて表現しなきゃいけない。
「プレゼン」ならフォーマットにはめれば出来るかもしれないけど、「好きを語る」のは、知識と愛と表現力が必要なのだ。
語れるタイプのオタクはそれを兼ね備えている強者だ。


きっと、わたしの「好き」はアーティストとか芸能人に関わらず、音楽とか本とか、趣味でも何でも、お酒みたいなものなのかもしれない。
摂取して、気持ちよくなるためのもの。
好きなものに浸って酔って感じて、ひとりで気持ちよくなりたい。
相手に対する愛でもなくて、どうにか振り向いて欲しい恋でもなくて、ただ気持ちよくなるためのとんでもなく上質なお酒。

でも、それがわたしの感情の部分を作ってきた。

わたしに限らず、きっと誰にでも人には言わない密かな好きなものがあるはずだ。
「最近好きなアーティストは?」って聞かれたら、King Gnuって言っておけばとりあえず間違いはない。(もちろん、本当にKing Gnuは好きだけど) 
わたしの「好き」のブックカバーになってくれる存在をいくつか用意してきた。
中学生とか高校生のときは、確かYUIだった。

でも、本当にみんながみんなKing Gnuとか椎名林檎とか星野源とかOfficial髭男dism 狂だったら、
日本の情緒はやばい。
気怠げな黒髪パーマで爽やかに下ネタも話せちゃう好青年風ちょっと悪い男で、君の運命の人は僕じゃなくて、夜の丸ノ内にでも繰り出すんだろうか。
本当にその人の情緒の部分を作ってるのは、十人十色ゆえに隠された「好き」なものなんだと思う。
それが密かに泣きたくなる夜を気持ちよく酔わせている。

わたしも理性を酔わせるプレイリストを隠し持っている。
ごちゃ混ぜのアーティスト、マイナーな曲と良さを語りたくない小説と隠しておきたい映画。
ひとりで行きたい隠れ家と、身体の力が抜ける音色。
ウイスキーのオンザロックですら崩せない強がりで守られた理性をいとも簡単に崩してしまう。

むっつりが一番ヤバいやつというのを肯定する。
断定する。隠してる好きなものこそ、あなたをつくっている本質だ。

だからといって、その中身を簡単に言ってはならない。秘めているからこそ楽しめる酔いがある。
その酔いが深くて狂おしくて楽しいほど、創られる情緒も深くなる。

ただ、わたしはその誰かの酔いを創る材料を垣間見るときが好きだ。
いちばん嬉しくて、悪いことをしている気分になるから。

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