78「詩」飛行機雲
あの朝テレビをつけると
グライダー事故のニュースが流れた
字幕にあなたの名前があった
その瞬間
永遠にあなたに会えないのが分かった
ひどく寒い冬の日だった
中学生の頃
自分が濡れ雑巾のように嫌いだった
「卑下すんなよ。
おまえにはいいとこいっぱいあるんだぜ。」
怒ったようにあなたは横を向いた
初めての恋
自分のいいとこなんて分からないまま
好きですの一言も言えないまま
あなたは大切な友だちになった
大学に入ってしばらくして
北の大地の絵はがきが届く
「冬になったら流氷を見に行きます。」
池袋の人混みにぐちゃぐちゃになっていた心が
解けていくのが分かった
築いてきたモノ全てを失った冬の日
「がんばれよ。」
うつむいたあなたが一言だけ言った
あれから、がんばったよ私
褒めてよ私のこと
何もない中でまたひとつ
またひとつ
貧しい中でまたひとつ
またひとつ
小さな生活を紡いできたよ私
(空に憧れて
空をかけてゆく
あの子の命は飛行機雲)松任谷由美
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