106「詩」バックムーン
しっかり大きく育った
もう私がすることは何もない
古い角を落とした
何もない軽くなった身体で
草を喰む
いくぶん眩しさを増した風が
遥か昔に続く草月を吹き渡ってくる
とらわれることがないように
風が牡鹿の頭上で渦を巻き
祝福するように去って行った春の日
牡鹿はとらわれることなく
草原を駆け抜けていった
自由の重さは日増しに増え
生きることの責任もちゃんと分かった
7月の満月に照らされ
生まれ変わった角は
稲妻のような響きを夜空に描いて眩しい
私が手伝えることは何もない
遠くからありったけの心を込めて
そっと見守る