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【エッセイ】マジックミラー

昔通っていたあっとほぉーむカフェとは別のとあるコンカフェの話。

自分の推しは無愛想で、目に見えるほど人気がなかった。コンカフェ的な媚びに最後まで抵抗があったのだと思う。

私はそんな彼女に、推し活というよりも執着していた。

いま思えば、容姿も性格もタイプではなかったし、人生初のコンコルド効果だったのか、とも思う。ただ何かに熱心な自分の姿が好きだったのかもしれないし、自分の現状や価値を値踏みして嘲り、達観している風の自分自身に酔っているような部分が、自分と似ていると勘違いして同情していたし、しようとしていた。

当時の私は限界まで生活費を切り詰め、水道が一瞬止まってでも、彼女に店で誰にも指名が入らない、といった惨めな思いをさせたくないという傲慢とも言える盲信でほぼ全通していたのだが、ある日、
「使命感でやってるなら無理しなくていいよ、他人からの好意の意図がわからないからコンカフェ向いてないみたい。」
と彼女は打ち明け苦笑した。

私が彼女に対して抱く、「ガチ恋」という体裁の枠組みに無理やり押しこんだ執着への畏怖、彼女が私のなんらかの期待には答えられないという拒絶を「無理しなくていい、意図がわからない」という言葉に押し留めた、彼女の精神的な疲弊への斟酌の渇望に、どこか抱いていた、勝手に抱こうと無理をしていた同情にけりが付いた。

それから私は1ヶ月ほど通わなかった。ひと月後は彼女の卒業の日だった。

卒業の日、行くかどうか決めかねていた。
また拒絶されるのが怖かったが、いつか漠然と意識したコンコルド効果に託けた最終目標に脚を引かれていた。

推しとの円満な卒業。
大きな花束を渡し、卒業ライブでペンライトにコール、推しに笑って見送ってもらい、横の繋がりの客に励まされるような、いつだったか誰かの卒業で見た、そんな光景を。







いつだったかしたっけ、
「いつかバルログ持ちで君の色のペンラを振る。」
って聞き齧りの言葉でカッコつけたら、
「何それ。卒業以外出ることないけどね、でも期待してる。」
って推しに言われた話。
あれ、使ったらすぐコンビニで捨てようと思ってたけど、なんかまだ持ってたわ。こないだやっと捨てたよ。色がやばかったからね。

(2025/01/23)

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