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【トンデモ歯゛スターズ】オイルプリングってむし歯や歯周病に効く?

オイルプリングとは、もともと古代インドで行われていた伝統的なアーユルヴェーダ療法(民間療法)です。ブログ等の主張によれば「口の健康だけでなく、全身の健康を改善する」との事。エビデンスに基づく見解ではどのように判断できるでしょうか。

本記事では特に「オイルプリングが、口の健康を改善してくれるのか?」について検証します。

執筆:akina先生@nakixa
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像:akina先生@nakixa)

トンデモ歯゛スターズ的結論

オイルプリングがむし歯や歯周病を予防したり治療すると言い切るのに、十分な科学的根拠はない。他の科学的根拠ある対策を。

参考としたエビデンス

①アメリカ歯科医師会(ADA)の発信

抜粋
「オイルプリングがむし歯を減らし、歯を白くし、口腔の健康と幸福を改善することを示す信頼できる科学的研究はありません。科学的証拠の欠如に基づいて、アメリカ歯科医師会はオイルプリングを推奨しません」

②The effect of oil pulling with coconut oil to improve dental hygiene and oral health: A systematic review(歯科衛生と口腔の健康を改善するためのココナッツオイルによるオイルプリングの効果:系統的レビュー)

抜粋
「ココナッツオイルによるオイルプリングは、口腔の健康を改善するための通常の予防方法の補助として使用できますが、有効性のレベルを決定するにはさらなる研究が必要です。」

③Effect of oil pulling in promoting oro dental hygiene: A systematic review of randomized clinical trials(口腔衛生の促進におけるオイルプリングの効果:無作為化臨床試験の系統的レビュー)

抜粋
「オイルプリングが口腔歯科衛生に有益な効果をもたらす可能性があることを示唆しています。これが潜在的に費用効果の高い介入であることを考えると、この実践は特に有益かもしれません。将来の臨床試験は、より厳密で、より適切に報告される必要があります。」

トンデモ歯゛スターズ的見解


まずオイルプリングという言葉をはじめて聞いた方もいると思いますので、どういったものかやり方を説明します。

大さじ1杯の食用油(ゴマ、オリーブ、ヒマワリ、ココナッツなど)を口に入れ、1~5分間(最大20分間)口の中に満遍なく広がるように口の中で動かします(参照した研究は殆ど10~15分間でした)。オイルを吐き出します。
このオイルプリングは、むし歯、歯肉炎、歯周病、口臭、喉の乾燥、唇のひび割れを防ぎ、さらには頭痛、糖尿病、喘息に至るまで約30の全身性疾患を治療すると主張されています。
その仕組みですが、「体の中の有毒な毒素を舌を通じて”引っ張り出す(プリング)”」と信じられてきました。ですが科学的に、この説は無理があるので否定されています。

科学的な説明もまだ定まっていませんが、仮説として

①オイルの粘性によって細菌の付着などをブロック(要するに水よりドロッとしてるから、その分、細菌やプラーク(歯垢)を物理的に排除できる?)する説
②オイルが口の中の成分と反応して、石鹸のように変化し、その作用によって細菌を排除出来るとする説(鹸化と乳化と言われます)
③それぞれのオイルに含まれる成分(ラウリン酸やフェノール化合物やセサミンなど)が、細菌に作用しているとする説

などがあります。

仕組みはさておき、オイルプリングの効果は科学的にみるとどうなのでしょうか?

ADA(アメリカ歯科医師会)は次のように述べています。

「オイルプリングがむし歯を減らし、歯を白くし、口腔の健康と幸福を改善することを示す信頼できる科学的研究はありません。科学的証拠の欠如に基づいて、アメリカ歯科医師会はオイルプリングを推奨しません

なるほど。科学的根拠が弱いと言うことですね。


では、どれくらいの科学的根拠があるのでしょうか?

科学的根拠(エビデンス)にはエビデンスレベルという概念があります。(下図)
研究には色々なやり方があり、そのやり方によって分類されます。
この研究はコホート研究、この研究は無作為化比較試験というように、論文を読むと分類できます。
今回はエビデンスレベルの解説ではないので、ざっくり、上の方ほど信頼できるくらいに考えておいて下さい。

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オイルプリングで検索すると(※1)、
もっとも信頼性が高いとされている、種類の研究(メタアナリシス・システマティックレビュー)は2件しかヒットしませんでした。その下のRCTであっても7件。

※1:pubmedの検索結果

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まず、このことから、「質の高い研究は殆どないんだなぁ~」と言う印象です。
強調したいのは検索したワードは「oil pulling」のみと言うことです。

「オイルプリング 歯周病予防効果」や「オイルプリング むし歯予防効果」あるいは「オイルプリング 全身への影響」などのように、
オイルプリングには様々な効果があると言われているので、その効果ごとに検索するのが普通ですし、私もそんなふうに絞り込むつもりでいたのですが・・・

”オイルプリング”について研究した質高い実験(RCT)がたった7件でした。
これだけでも、この分野の研究はまだまだこれからだと感じてもらえるんじゃないかと思いますが、その研究内容も見てみましょう。


2件のシステマティックレビューと7件のRCTによると、

・ミュータンスレンサ球菌(むし歯菌)の減少がみられる。
・プラーク(歯垢)の抑制効果がクロルヘキシジン(代表的うがい薬)と同じくらいありそう。
・口臭の抑制効果もクロルヘキシジンと同じくらいありそう。

ということでしたが、研究デザインやサンプル数の問題で、信頼性が低いです。

そもそも、ミュータンスレンサ球菌(むし歯菌)が減ったからと言って、どれくらいむし歯予防に直結するかは分かりません。なのでむし歯予防とは言いづらいです。
プラークの抑制に関しても同様に、その抑制した事によって、どれくらい歯周病を予防できるのか不明です。

「民間療法の有効性を科学的に検証して、使えるものは使おう!」は、最近のトレンドですし、個人的に良い流れだと思います。(漢方薬などはその流れで、科学的検証を経て、保険適応になっているものも多いですよね。)ですが、そのような検証的な研究はまだ始まったばかりで、質の高い研究がそう多くはありません。


今回のオイルプリングもクロルヘキシジン(※2)でのマウスウォッシュと同程度の効果が期待できそうではありますが、まだ”可能性”の段階であるように思います。
現時点ではオイルプリングの副作用はほとんど報告されていないこと、比較的安価であること等はメリットだと考えられるので、今後研究が進んで効果と安全性が確立する事を願います。


とはいえ、クロルヘキシジンと同程度の効果であれば、10分~20分かけてオイルプリングを私がオススメすることは少ない気がします。朝起きてから、何かと忙しい朝の時間に20分、さらに夜寝る前に20分・・・ちなみにクロルヘキシジンは実験にもよりますが30秒程度です。(※3)


※2:クロルヘキシジンのマウスウォッシュは、マウスウォッシュに使う種類の中では最も研究がなされており、比較に用いられることが多いです。ですが、このクロルヘキシジンであっても歯周病予防にどれほど影響を及ぼすかは、はっきりしていません。


※3:クロルヘキシジンでのマウスウォッシュを積極的にすすめているわけではありません。
口臭についてのクロルヘキシジンのマウスウォッシュについては、別の記事でまとめる予定です

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