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【トンデモ歯゛スターズ】発泡剤入りの歯みがき剤で味覚障害に?

Twitter上では「発泡剤入りの歯みがき剤で味覚障害」と主張し、発泡剤入りの歯みがき剤を使わないように推奨する情報が拡散されていたことがありました。エビデンスに基づく見解ではどのように判断できるのでしょうか?

本記事では「発泡剤入りの歯みがき剤で味覚障害に?」について検証します。

(見出し画像:akina先生@nakixa)

気まぐれ的結論

発泡剤入りの歯みがき剤を使用することにより、実際の人で味覚障害が生じたという報告はなく、明確に誤ったトンデモ発信である

参考としたエビデンス

Human and Environmental Toxicity of Sodium Lauryl Sulfate (SLS): Evidence for Safe Use in Household Cleaning Products

結論の抜粋(DeepLで翻訳/SLSとは発泡剤【ラウリル硫酸ナトリウム】のこと)

SLSの毒性プロファイルを検討した結果、毒性学的および持続可能性の観点から、SLSは家庭用クリーニング製品の処方に使用するのに適した界面活性剤であることが確認されました。長年にわたるSLS反対運動により、SLSの安全性に関する消費者の懸念と混乱が生じている。しかし、SLSが目や皮膚に刺激を与える可能性があるという第一の懸念は、製品メーカーが適切な処方を開発し、適切な刺激性試験を実施することで、容易に解決することができます。SLSは、100%バイオベースであること、生分解性があること、生物濃縮の可能性が低いことなどから、持続可能な素材と考えられています。毒性学的データによると、SLSの刺激性を最小限に抑えた処方であれば、洗浄剤に使用しても安全であることが裏付けられています。結論として、洗浄剤にSLSを使用しても、その成分の存在によって消費者や環境に不必要なリスクをもたらすことはなく、また、適切に処方され、適格であれば、人間の健康と安全に危険を及ぼすことはないとしている。したがって、SLSが人の健康に脅威を与えるという認識は科学的に裏付けられておらず、これに反する主張は虚偽で誤解を招くものとみなすべきである。

コルゲート(世界規模のオーラルケア販売を行っている会社)

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ラウリル硫酸ナトリウムの真実】(DeepLで翻訳)

・SLSは、Chemical Safety Factsによると、多くの消費者製品に含まれる洗浄剤および界面活性剤です。
・SLSは洗浄力があるため、歯磨き粉に多く含まれています。
・洗浄するだけでなく、口の中や歯に詰まった食べ物のカスを取り除く効果もある
・Chemical Safety Factsによると、FDAやEPAなどの機関は、SLSが消費者にとって安全であると認めています
・また、米国がん協会は、SLSを既知の発がん性物質として含めていません

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ラウリル硫酸ナトリウムに安全性の懸念は?】(DeepLで翻訳)

・SLSは消費者向けのパーソナルケア製品としては安全な化合物であり、発がん性もないとNIHは発表しています。
・SLS配合の歯磨き粉を使用した口内炎や口内炎の患者は、より多くの炎症を起こすが、SLSを含まない歯磨き粉は痛みを軽減するとNIHは発表しています。
・SLSの成分を抽出したり、化学組成を変えたりすると、SLSが毒性を持つ可能性がある。
・最終的には、適切に配合され、適切に管理されていれば、SLSは安全であり、危険ではありません

気まぐれ個人的見解

実は、このテーマは私がこのトンデモ歯゛スターズ活動が必要だと強く感じた理由の1つです。

かつて数万単位のフォロワー数を持つ歯科関係アカウントが、発泡剤入り歯磨剤の危険性を煽るnote記事を公開していたことがありました(2022/3/20追記:該当のアカウントは情報発信の方向性改善を宣言されて、該当記事は削除されています)。該当記事において主張されていたトンデモの部分をここで全て検証致しましょう。

①味覚障害になったり、変にスース―する。それですっきりして磨いた気になったしまいやすい傾向がある
⇒前述の通り、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium lauryl sulfate)が実際の人で味覚障害を生じさせたという疫学研究は存在しません。いつものPubMedで調べてみました。

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はい、6件しか引っかかりませんし、味覚障害を報告した論文は1つもありません
また、磨いた気になるという点については日本歯磨工業会はこのように記しています。

歯みがき時に、歯磨剤を使うと泡立ちや清涼感のためにみがいた気分になり、歯みがき時間が短くなると言って、歯磨剤を使わずに歯ブラシだけでみがくことを薦める人もいます。しかし、一般会社員と歯科に関する知識レベルの高い歯科衛生学科の学生との2つのグループで、歯磨剤を使った場合と使わなかった場合の歯みがき時間を測定したところ、どちらのグループにおいても歯磨剤の使用の有無による歯みがき時間に差はなく、歯磨剤の使用による影響は認められないことが報告されています。したがって、歯磨剤を使っても歯みがき時間の変動はありません。

この論文自体は確認できませんでしたが、逆に私は歯磨剤の使用によりブラッシング時間が短くなるという報告も見たことがありません
(2021/7/2追記:この論文については、私が以前取り上げていましたのでご紹介いたします。すっかり忘れていました)


②アメリカン大学毒物学部が出したレポートで、うさぎの目にラウリル硫酸ナトリウムを滴下すると、その後、心臓や脳、肝臓から少量であるが検出されたという報告がある。また毒性といった点では問題なさそうだが子どもなど臓器が未発達であれば大丈夫か?それに歯に特別有効な成分でないということがある。
⇒恐らくここで触れられている「レポート」はこれだと思われます。

7 Final Report on the Safety Assessment of Sodium Lauryl Sulfate and Ammonium Lauryl Sulfate

このレポートの結論を抜粋します。(DeepLで翻訳)

ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムともに、皮膚の表面から十分に洗い流した後、不連続に短時間使用するように設計された製品では安全であると考えられます。長時間皮膚に接触する製品では、濃度が1%を超えないようにしてください。

なぜこの結論のレポートから「毒性は問題ないが子供など臓器が未発達なら大丈夫なのか」というトンデモ飛躍理論が出てくるのか全く理解できません。というか、このレポートは「子供では危険です」なんてことは示されていません。

また前述の日本歯磨工業会では、ラウリル硫酸ナトリウムの作用をこのように記しています。

口中に歯磨剤を拡散させ、口中の汚れを洗浄する

どのような根拠で「歯に特別有効な成分ではない」と述べているんでしょうか?

③発泡剤入りの歯磨き剤で歯を磨いた後、柑橘系のジュース(オレンジ)を飲んだら、変な味がする
⇒これについては検証のしようがないのですが、恐らく多くの歯磨剤に含まれているミントなどの香料の影響である方が妥当でしょう。

フリスク食べた後にオレンジジュースを飲んだら、変な味がする

と言ってるのと同じでしょう。
これを味覚障害とか言うなら、一生ミント食べれません。かわいそうですね。

しかも、歯磨剤には当然ラウリル硫酸ナトリウム以外の成分も入ってます。

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(出典:日本歯磨工業会)

どうしてラウリル硫酸ナトリウムだけのせいで、味覚障害が生じたと言えるんですか?

④企業からしても発泡剤が入っていた方がすっきりするので売れる
ただの妄想です。以上。

⑤アメリカでは歯磨き剤に合成界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)が入ってないと表示されているのが普通でオーガニックの歯磨き剤が主流
⇒前述の通り、アメリカでも歯磨剤を販売しているコルゲートのページにはラウリル硫酸ナトリウムについて、このように書かれています。

洗剤、化粧品、歯磨き粉など、洗浄力を高めるために泡を作るために使われる、ごく一般的な成分です。

ごく一般的な成分です。

したがって、「発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム)で味覚障害が起こる」というのは明確なトンデモであり、デマです。

このようなデマ情報は、絶対に拡散しないでください。

よろしくお願いいたします。


ただ、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれた歯磨剤については、1つ注意する必要があることがあります。

ラウリル硫酸ナトリウムと口内炎の関係について、比較的質の高い論文を集めてまとめてみた結果(システマティックレビュー)によると

アフタ性口内炎のある患者については、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれていない歯磨剤を使用した方が口内炎は減少する可能性がある

と報告されています。(ただ、同時にこのエビデンスを強化するためにはさらなる研究が必要とも記載されています)

また、ラウリル硫酸ナトリウムを含む歯磨剤と含まない歯磨剤を比較したところ、歯肉の状況やプラークの付着状況については同等の効果が認められたとの報告もあります。

しかしながら、この報告では同時にラウリル硫酸ナトリウムを含んでいた歯磨剤の方が味や清涼感などの使用感では優れていたということも示されています。

したがって、現時点までで科学的根拠に基づいて明らかになっていることは

ずっと続く口内炎がある場合は、発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム)無配合の歯磨剤を使うことによりメリットがあるかもしれないが、大半の場合では発泡剤配合の歯磨剤を使うことは全く問題ない


となります。

これを読んで頂いた方は、絶対にこのようなデマ情報を拡散しないでくださいね!

修正履歴

2022/3/20:一部表現を修正。



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