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【トンデモ歯゛スターズ】L8020乳酸菌を摂取すれば虫歯・歯周病予防ができる?
Twitter上では「L8020乳酸菌が虫歯や歯周病予防に効果がある!」として、「虫歯になったことのない健康な子どもの口の中から発見されたヒト由来の乳酸菌だから安全」「一粒舐めるとあっという間に悪玉菌は99.9%減少」などと過激な表現を用いながら、このような情報拡散が行われていたことがありました。これだけ見ると相当効果があるように思ってしまいますが、エビデンスに基づく見解ではその効果はどこまで明らかになっているのでしょうか?
本記事では「L8020乳酸菌を摂取すれば虫歯・歯周病予防ができる?」について検証します。
(見出し画像:akina先生@nakixa)
気まぐれ的結論
L8020乳酸菌に関する人から得られた研究結果は、現時点で数が非常に少なく、「虫歯・歯周病予防ができる」と断言できるほどのエビデンスは存在しない
参考としたエビデンス
Probiotics for managing caries and periodontitis: Systematic review and meta-analysis
論文の概略
・プロバイオティクスは虫歯や歯周病予防に対して有益である可能性があるため、関連する論文をまとめてみた
・50の研究結果をまとめたところ、プロバイオティクスは虫歯予防に対して推奨するための根拠は不十分であるが、歯周病に対しては補助的に関わるかもしれない
・研究結果は強固な結論を導くためには量的に不十分でバイアスが存在するリスクは高かった。
歯科情報を発信されているakina先生(@nakixa)のツイート
#EBM歯科情報
— akina (@nakixa) October 1, 2020
『むし歯予防目的のプロバイオティクスは、
就学前の子ども、カリエスリスクの高い小学生では効果あるかも。
だけどエビデンスの信頼性や費用対効果も考慮に入れると、個人での使用は時期尚早』
という結論に今日半日調べて至りました。https://t.co/MAyLLkNtoa
気まぐれ個人的見解
結論で述べたように、L8020乳酸菌に関する論文は非常に限定的です。今回の検証では、L8020乳酸菌に限らずプロバイオティクスという観点からのエビデンスを参考としました。厚労省e-Jimによれば、プロバイオティクスの定義は以下の通りです。
プロバイオティクスは、摂取したり体に塗布したりすることで、健康上の利益が得られると考えられている生きた微生物です。プロバイオティクスは、ヨーグルトや発酵食品、サプリメント、美容製品に含まれています。
細菌やそのほかの微生物は、有害な「病原菌」と思われがちですが、実際のところ多くは有用です。中には、食物の消化、病気を引き起こす細胞の破壊、ビタミンの生成を助ける細菌もいます。プロバイオティクス製品中の微生物の多くは、体内に自然に住む微生物と同じ、または同様のものです。
このプロバイオバイオティクスは、医科領域において急性下痢症や抗生物質関連下痢症、アトピー性皮膚炎(乳幼児に最も多く見られる皮膚疾患)の改善に有用な可能性があるとするいくつかの科学的根拠(エビデンス)が存在するようです。(出典:厚労省e-Jim)
このような背景もあり、歯科領域でも応用が検討され現在複数の研究結果が報告されていますが、それをまとめてみた結果によれば多少効果がある可能性は示されているものの、一般的に推奨できるだけの強固な結論は得られていないことが分かります。
L8020乳酸菌(ラクトバチルス・ラムノーザスKO3株)についても、このプロバイオティクスの概念のもと、我が国では広島大学を中心に研究が進められているようです。
このL8020乳酸菌に関して、医学情報に関する科学論文検索サイトPubMedで検索してみるとわずか4件しかヒットしません(2021/6/28現在)。
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それぞれの論文を見てみましょう。
①Effect of bovine milk fermented with Lactobacillus rhamnosus L8020 on periodontal disease in individuals with intellectual disability: a randomized clinical trial
概略:知的障碍のある児童23名を対象にL8020乳酸菌を含んだヨーグルトを90日間朝食後に摂取する者としていない者で比べてみたら、摂取していない者で歯周病の改善が見られた。
②Comprehensive analysis of transcriptional profiles in oral epithelial-like cells stimulated with oral probiotic Lactobacillus spp
概略:実験条件下において、L8020乳酸菌によって歯肉上皮様細胞の遺伝子発現の変化を観察した。(実験系に詳しい方、補足頂きたいです)
③Bovine milk fermented with Lactobacillus rhamnosus L8020 decreases the oral carriage of mutans streptococci and the burden of periodontal pathogens
概要:実験条件下において、L8020乳酸菌を含むヨーグルトによってミュータンス菌や歯周病原菌の数が減少した。(実験系に詳しい方、補足頂きたいです)
④In Vivo Efficacy of Lacticaseibacillus rhamnosus L8020 in a Mouse Model of Oral Candidiasis
概要:マウスに対して、L8020乳酸菌が虫歯のないボランティアの人から分離した口腔カンジダ症を予防できるか評価したところ、予防効果が認められた。(実験系に詳しい方、補足頂きたいです)
ちなみに、これらの研究は全て広島大学から報告されており、海外での研究は私が調べた限り存在しません。また、4つのうち3つは人を対象として行った研究ではなく、あくまで実験条件下で「可能性を示唆する」ものです。人を対象に行った唯一の研究も、子供のうちでは比較的リスクの高いたった23名の児童を対象に得られた結果であり、大人で虫歯や歯周病が実際に減少したかは全く分かりません。
その一方、L8020乳酸菌を販売する業者さんのページにはこのような表が示されています。
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これ、何をしたいかというと「キシリトールなんかよりもL8020乳酸菌の方がいいよ!」と言いたいわけです。
このような情報をそのまま信じてしまうと、このような発信になってしまいます。
キシリトールは虫歯だけだけど、L8020乳酸菌は虫歯菌にも歯周病菌にも効果抜群。L8020乳酸菌のパワーは驚き。実際に歯周病が減ったという研究もある。
しかし、このような主張には非常に問題があります。
①虫歯菌や歯周病菌が減る≠虫歯や歯周病が減る
⇒虫歯は歯周病は「菌のみで起こる」わけではありません。セルフケアの状態や生活習慣など、複数の要因が関わりあって発生するので、1つの要因のみが変化することで虫歯や歯周病が減るという主張は間違っています。
②L8020乳酸菌に関する科学論文は実験条件下で「虫歯や歯周病に関わる菌が減った」という報告が大半であり、人を対象とした研究結果が圧倒的に不足している
⇒「実験条件下で結果があるなら、人でも同じだろう!」と考える方もいるかもしれません。でも考えてみてください。ときメモを何回もプレイして完璧な恋愛マスターになっても、現実世界で恋愛マスターになれるわけではないですよね?そういうことです。
したがって現時点での結論は
「L8020乳酸菌に関しては非常に限定された条件下での効果は示されているが、確実な結論を出すためには圧倒的に数が不足している」
です。
もちろん将来的に効果が示される可能性はありますので、今後の研究には期待したいですね。
ご意見等御座いましたらTwitterのほうでお待ちしております。
また、本記事にあたりakina先生(@nakixa)のツイートを参考にさせて頂きました。心より感謝いたします。
修正履歴
2022/3/20:一部表現を修正。
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