雪もよい
高い山ではソロソロ雪が降る日もあるようだ。
隣の住人の山仲間は頻々と山に出かけているようだ。
隣の奥さんは山でご前の主人を亡くしているのでさぞかし心配なのではないかというとそうでもないらしい。
山男の妻はそのくらい鷹揚でないとつとまらないのであろう。
「ご心配でしょう?」
「いえ、仕事ですから、心配したって仕方ないんです。」
なるほど、山へ行くのを生業にしていたのかと、合点がいった。そういえば、平日でも山に行っているらしかった。
その夜、山仲間がやって来た。
「山に行きたいんですって?」
なんだか目がキラキラしていた。
奥さんが何か適当なことを言ったに違いない。
「そうですねぇ。春の山は綺麗でしょうね。」
当たり障りのない事を言ってみた。
「春もね、無論イイですけど、雪山は格別ですよ。あたり一面が真っ白な雪に覆われた風景の素晴らしさといったらないですよ。」
「しかし、雪山は危ないといいますし、スキーの経験がないと難しいんでしょう。」
あやふやな知識に基づいて適当なことをいうとホントによくないことになると数秒後に思い知ることになった。
「スキーなんて要りませんよ。ウチのかみさんも行きたいって言ってますし、一緒にスノーシューで行きましょう。」
やけに食い下がってくる。どう断ったものかと思案していると水槽から声が聞こえた。
「行きたい。雪山が見たい。」
「ほうら、お魚さんだっていってますよ。」
魚の声が聞こえるのは自分だけではないと知っていささか狼狽した。
「少し寒いというだけで動かなくなるのに、雪山なんぞに連れていくのは無理でしょう。」
「大丈夫。」
反論は許さないとでもいうようだった。
結局、その週末に雪山に行く事になった。
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