7月14日(火)Mutian投与2日目 輸血
無事朝を迎える。今すぐ息絶えそうな様子もない。
長い長い一晩、最悪の峠を奇跡的に耐え抜いた。
8時50分 病院へ
獣医師により前日投与されたMutianによって、自力でヘマトクリットが上がっていればれば輸血せずにいくと言われる。Mutianの効果が出ていることを期待する。
30分後、採血結果が出て診察に呼ばれる。
ヘモグロビン 2.8、ヘマトクリット 8.0
“ヘマトクリットが下がってしまっています。すぐに輸血をした方がいいです。
FIP後期で貧血がこれだけ進んでいると、1週間持たないかもしれません。貧血以外の症状が見られないということは普通は中枢に行っている。その場合治療効果も期待が薄いと思ってください。”
昨夜の状態悪化の原因はこれだったのだ。事実上の余命宣告か。
Mutianを投与できたことで効果に期待を持っていたため、衝撃は昨日以上に大きかった。
急いで保護主さまに連絡し、午前中に2頭連れてきていただくよう依頼。
今日も平日であるにも関わらず待機してくださっており、すぐに保護主さまの飼い猫サンタくんと、保護ボランティア仲間Aさんの愛猫ミィさんを連れて来てくれることになった。
ねねちゃん、絶対に死んじゃうと思った夜を乗り越えたんだから、あとちょっと、輸血をする時間まで持ち堪えて!
ドナーが来るまでお預かりしますと、一旦はねねちゃんを連れていかれ、ミィさん、サンタくんが来てくれるまで我々は病院の駐車場で待機していたが、いつ死んでもおかしくないと言われた昨日よりさらにヘマトクリットが下がってしまったねねちゃんがこの間に逝ってしまうかもしれないと思い、車でねねちゃんと一緒に待たせてもらうことにした。
車に入るとすぐに用意してきていたトイレでおしっこをした。膝の上で回りを見渡している。表情はいつものねねちゃんで、今すぐ死んでしまいそうな様子には見えなかった。
しかし、あくびをすると口の中が驚くほど真っ白だった。
こんなにひどい貧血になっていたことに今まで気づいてあげられなかったことを悔いた。改めて命の灯が消えかかっていることを感じ、最後になるかもしれない写真をたくさん撮った。
11時
ミィさん、サンタくん到着。元気に鳴いていて心強かった。
ミィさんはねねちゃんと同じ黒猫の男の子で、驚くほどねねちゃんとそっくりだった。同じ地域で生まれた保護猫で、きっとねねちゃんと血縁関係にあるのだろう。
ミィさんは日本猫、サンタくんは来る予定だったつくねちゃんが捕獲できずにピンチヒッターとして連れて来られてしまったスコティッシュフォールド。日本猫と洋猫ではメジャーな血液型が異なるため、まずはミィさんの血液型とクロスマッチを行うことになった。
ねねちゃんがいつものように希少性を発揮して日本猫に多いタイプに当てはまらなかった場合、洋猫さんが来てくれていることはかえってありがたい。
15分後
血液型の結果が出た。ミィさんもねねちゃんもA型!ねねちゃんがマジョリティに入ったことに驚いたが、とにかく合った!!
次はクロスマッチの結果待ち。
バッグに入れて抱いているねねちゃんが動かない。
“ねねちゃんがんばれ、ねねちゃんがんばれ!”と声をかけ続けた。待ち時間が途方もなく長い。
さらに1時間後
クロスマッチの結果で呼ばれる。
“大丈夫だったのでミィちゃんの採血をさせてもらいたいと思います”
やった~~~~~~~!!!!間に合った!
ミィさんママ・保護主さまと歓喜したのもつかの間、医師から“ねねちゃんはお預かりします。輸血の副作用で万が一ということもありますが、それはご了承ください”と言われて、再びねねちゃんを失う恐怖に襲われた。
ひとりで死なせたくないので、状態が悪くなったらすぐに呼んでください!とお願いして一旦病院を後にした。
ねねちゃんを預ける際に、入院の扱いになるため同意書の記載が必要だったのだが、その中に“急変時に救命措置を希望するか?”という項目があった。
死ぬ時はそばに居てあげたい一方で、人間のエゴで本人の意志に関わらず無理矢理生かすことはしたくない、というのが私の信念であり“希望しない”にチェックをしたのだが、チェックをつけたあとも、この判断は正しかったのかと非常に悩んだ。
16時 ミィさんお迎え
一度にたくさんの血液を喪失するため、供血をする場合、ドナーにもリスクがある。そのため、採血後もしばらく院内で観察して大丈夫なことを確認してから帰宅が可能となった。
〜回想〜
この日ミィさんは1日ゲッソリしていたそうですが、翌日からは元気にごはんも食べていたそうです。
ミィさん、ねねちゃんの命を救っていただきありがとうございました。
怖い思いをさせてごめんね。
ねねちゃん以外にも輸血によって命をつなぐことができるわんちゃんねこちゃんはたくさんいると思います。
そんな子たちのために供血をしたいと思っていただける奇特な飼い主さまがいらっしゃいましたら1度お近くの獣医大学病院等の高度医療機関にご連絡ください。
ワクチン接種済で妊娠歴がない若い(猫なら6歳までとか)子で体重が一定以上など諸々条件があるようですが、供血のお返しに健康診断が受けられる等のメリットもあるようです。
17時半 ねねちゃんお迎え
輸血を受ける側のねねちゃんは他の子の血が入ることでさらに深刻な副作用を起こす可能性があるため、ミィさんより長い時間経過観察をして後に帰宅可能となる。
呼ばれて診察室に入るが、そこにはねねちゃんがおらず座るよう促された。
厳しい話か?
“輸血は無事終わりました。ミィさんは体重もしっかりあったので42mlもらうことができました。ねねちゃんの活気も出てきて暴れる様子もありました。Mutianも効果が出てきているようなのでこのまま元気になっていくのではないかと思います。書面上は後期の子は効きが悪いとか書いてありますが、経験上は9割ぐらいは良くなっています” との説明。
治る?先程まで中枢神経症状の中後期はMutianを投与しても反応性が悪いと言っていたのに?耳を疑った。
午前中の話と違う。
でも初めてのいい話に一気に世界に色が戻った。
〜回想 その2〜
この時色々お伺いすると、このクリニックでは過去に100頭ぐらいにMutianを投与し、ほとんとが寛解したらしい。
また副作用も経験がないようだった。
致死率100%の感染症というのにも驚いたが、治癒率100%(に近い)の抗ウイルス薬というのももの凄い。
なぜこんなにも恐ろしい疾患に、こんなに著効しかつ安全性も高そうな薬剤があるのに国内では認可されていないのだろうか。
世の中には突然愛する猫がFIPを発症して絶望のどん底につき落とされる飼い主がたくさんいるだろう。また、Mutianを知って治療を受けさせたくてもお金を捻出できなかったり遠方で通院ができなかったりして治療を断念している飼い主もたくさんいるだろう。
全国の動物病院で処方できるようになり、たくさんの命が救われるようになることを願います。
さて、晴れやかな気持ちでねねちゃん受け取り車へ。
車の中で洗濯ネットから出してあげると大急ぎでおしっこをする(トイレを持っていっても病院ではぜーったいにおしっこをしないねねちゃん。車も乗ったことがなく知らない場所なのに、車ならするのはなぜだろう)。
帰り道、膝に乗せると大人しく膝に座って外を見ている。バスが来ると興味津々で目で追っている。
家に着くと走るような速さでベランダを歩き、名前を呼ぶと寄ってきてかわいい声で鳴く。動いているねねちゃんを見るのは何日ぶりだろう。
Mutianの効果発現の速さに心底驚く。
治るんだ!!
顔を掻いてカテーテルが外れそうになる。急いでエリザベスカラーを装着。
ご飯の方に歩いていく。食べるの?カリカリを出すと手から食べる。奇跡だろうか。あのねねちゃんがご飯を食べる?ミィさんの血が入って生まれ変わってしまったの?
その後も時間をおいて、自分でお皿から食べていた。ねねちゃんが生還した!お帰りねねちゃん!!
その日の夜、発病以来はじめて布団の上で寝った。深夜に1度、ひとりで起きてカリカリを少し食べた。
この日の医療費
診察料、血液検査
皮下点滴、Mutian注射、ステロイド注射
血液型検査(ドナー分)、クロスマッチテスト、輸血
計 77,990円
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