二年半ぶりにドイツで推しに会ってきた話①
大寒の候、いつものようにタイムラインをすっ飛ばしているとスーパーホットな情報が目に入ってきた。親指の動きが止まる。
ママム、ドイツ?????え???ま???
思考停止すること3分間。カップラーメンができ上がる頃にようやく神経細胞が繋がり、脳が私に一つの事実を訴えてくる。
「ママムがヨーロッパにくる!」
事実と受け入れた瞬間、溢れてくる涙。嗚咽。アラサーの私、オランダに来て以来初めてのギャン泣き。二年半ぶりに推しに会えるかもしれない。一人ではとてもこの感情を抱えきれなかったので、大好きな日本にいるマミーにLINE電話した。
開口一番「ママ、ママ、ママ、ママムが…ママムが…ウッウッ、ウッゥ〜〜」と電話越しで呻く娘に対し、「...何が言いたいの?用事はあるの?」と、母は至って冷静だった。
「あの…ママムが…ママムがぁぁぁ、ドイツにぃ…ヨーロッパに来るんだって…ウェッ、ウッ…」
「あら、コンサート?良かったね!チケットは取れたの?」
そうだ。チケットだ。
「母上、そちらは今から確保する所存です。」と謎の仕事人モードにスイッチが入り、自分もようやく平静を取り戻した。
マミーにサランへと言って電話を切ると、私はチケット販売元のTicket Masterのページで空席を探した。そこで初めてドームの規模が4万5000人も収容できる箱だと知る。デカい。バクバクなる心臓の鼓動とともにアリーナ席を必死にポチポチするがもう売り切れていた。
幸いスタンディングにはまだ空席があり、打ち慣れすぎた個人情報と魔法の16桁を入力する。
「よろしくお願いしまぁぁぁぁあああああああす!」
勢いよくエンターキーをぶっ叩いた。
数秒経ってメールボックスに訪れるギフト。
Hi, Thank you for your oder!
いぃぃぃぃぃぃぃぃょおおおおおおっしゃあああああ!エベレストに登頂した人ってこんな気分?世界がいつもより輝いてみえる。ああ、太陽が眩しい。心なしか空気だって美味しく感じる。
束の間森羅万象に想いを馳せた後、無事にチケットを確保した私はまた元の生活へ戻っていった。デスクトップの一番右上にチケットのpdfをお守りの様に据え置いて。
ーー
運営元のSNSから新しい情報がアップデートされる度に、ふふっと微笑みながら♡を押す和やかな日々が始まった。
「あ、日曜のラインナップに新しいアーティスト追加なんだ。ふふっ。」
ダブルタップしかけた手が一瞬凍る。
「ふふっ!ふ?ふ、、、ふぁ???ママムじゃね?え?ママム日曜日も参加するってこと?え?」
サプライズ発表で日曜日のラインナップにもママムが追加されていた。嬉しいことのはずだが一瞬混乱して頭が真っ白になる。
実はこの発表が行われる少し前に他の参加グループの日程が急遽変更されたことでファンと運営の間でいざこざが起きていた。みんな推しの参加日に合わせてチケットを確保してから諸々旅程の段取りをするだろうから、急に「やっぱり土曜日じゃなくて日曜日にするよ!」って言われたら怒るのは当然だろう。
しかも、ほんの数日前の公式インスタの投稿でとあるムムが「ママムは土曜日だけなんですよね?」と質問したのに対し、公式が「うん!ママムは土曜日だけだよ😉」って答えてるのを私はバッチリ記憶していた。
なのに、ここにきて、突然のサプライズ両日出演発表とは!嬉しい、嬉しいよ、超嬉しいんだけどおおおおおおおおお!
私はスラックの通知をそっと切った。開いていた仕事用のタブも全部閉じた。代わりに開かれたのはまたもやTicket Masterのページだ。全集中の呼吸。空いてる席を探す。今回もアリーナから探す。
そして再び勢いよく叫んだ。
「よろしくお願いしまぁぁああああああす!!!」
グッバイマネー。ハローハピネス。こうして私は無事に日曜日へのチケットも確保したのだった。
ーー
光陰矢の如し。忙しなく過ごしていたら、K-POP FLEXの開催日まで残り1ヶ月を切っていた。
フランクフルト中央駅は夜になると治安が悪くなることを経験から知っていたので、少し中心街から外れた駅に位置する宿泊先を確保したところで、「本当に行くんだな」という実感が湧いてきた。
こんな幸せなイベントはそう滅多に訪れないのに、正直悶々としていた。それにはいくつかの理由があった。まず、目も背けたくなるような悲惨な戦争が身近な国で起きている。今も尚。日常のふとした瞬間にウクライナのことを考えると、胸がざわつく。
そして、ヨーロッパにおいてはどんどんコロナに関する規制が撤廃されていき、コロナ前の日常が戻りつつあるが、それでもこのご時世何がいつ起きるか全く予想がつかない。
ドイツで感染者が増加すればイベント自体直前で中止になりかねないし、ママムのメンバーが感染する可能性だって0ではない。とにかく懸念事項だらけだ。
また、ママムのグループとしての活動が来年末までだという事実を受け止め切れていない自分もいた。ママムが2014年から休むことなくここまで突っ走ってきてくれたことに感謝してもしきれないが、本音はいつまでも「4人」の「ママム」が見ていたい。
でも、それは叶わないことは分かっている。4人での残りわずかな活動をこの目で見届けたいという想いが高まるのと同じくらいに、万一イベントが中止になった場合に受けるであろう心的ダメージが怖かった。
「ママムが無事に健康でドイツに来てくれますように」と、眠りにつく前に祈るのが日課になっていた。
(続く)